うすべにあらし(下)
ファンタジーというよりホラーかとも思いましたが。怖いというよりは不思議系の話なんじゃないかと思ってます。
気が付けば、小高い場所に出ていた。
公園というには、少々殺風景か。遊具の類等何一つなく、ぽっかりとあいた、空間。
自分の住む街に、このような場所がある事も知らなかった、と端から見下ろせば、建物と道路が広がる。
箱庭、という言葉が思い浮かぶ。
「にゃあ」
すっかりさくらの事を忘れていた。
どうだ、とでも言いたげに、見上げてくるさくらの瞳に赤い光を認めた。
それで気が付く。
ずいぶん時間がたっているらしい。
日が、暮れようとしていた。
と、その時。
ざあっと風が吹いた。
「あ」
視界が染まる。
最初は何が起きたのか、わからなかった。
……花びらだ。
桜の花びらが何処からか、一面に風に舞い上げられ、渦巻く中心に、私はいた。
全てが、薄紅になった世界。
風に、反射的に細くなった目が、それでもとらえる。
桜の古木。
「……こんなところに」
古い木ほど、幹の色が黒ずみ、花の色が映えると聞いた事があったが。
だとすれば、この木は、一体どれだけここに在ったのだろうか。
両腕を伸ばしても、抱えきれないような太いそれは、誇らしげに枝を伸ばし、春の訪れを告げていた。
ずっと、忘れていたように思う。
自分の住む此処が、四季を持つ、という事を。
確かに、暑くなれば、エアコンに自然に手が伸び、秋めいて涼しくなって来れば、コートを羽織り。そういった生活で、季節の移り変わりは気が付いているつもりでいたが。
こうして、視覚で、季節を感じるという事を、ずっとしていなかった、と。
誰の目に触れなかったとしても、木は、葉を繁らせ、やがて色づいて落とし、寒さを乗り越えてそしてまた、花開く。
当たり前のようでいて。
それは、尊い、営みで。
――人も、そんな流れの中の、ほんの一部であるのだ、という事を。
その日、闇が迫ってくるまで。
私は黙って、桜を見つめていた。
さくらが何を考えて――いや、考えていたのかどうかもわからないが――私をこの場に導いたのかはわからないが。
心休まる休日であった事だけは確かだ。
あれから、ふらりと散歩に出ても、あの場に辿り着いた事はない。
さくらとも、会う事はなかった。
聞いたところによれば、さくらは、私の友人のそのまた知り合いの猫で、預かったのも初めてだったのだという。
まあ、そんな間柄の猫を、何故私に任せたのか、という疑問も残るのだが。
出会い、等、そんな偶然にも見える積み重ねの結果なのかもしれなかった。
だから私は。
何もない休日、行き当たりばったりに街を歩く。
また、さくらに。
そしてあの、桜の古木に。
何処かで出会うかもしれない、偶然を探して。