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青春、爆発。

作者: 福島ひかり
掲載日:2026/11/03

「で、何の曲やる?」


 部長が言った瞬間、部室が一気に騒がしくなった。


「これ!」

「いや、それ去年やっただろ」

「じゃあこっちは?」

「難しすぎるって」

「じゃあ最初のやつでよくない?」


 結局、最初に出た曲に決まった。


「……最初からこれでよかったんじゃん」

「そうだけど?」

「お前らなぁ……」


 笑い声が響く。


 その日から、放課後は毎日練習になった。


 なかなか合わない。


「もう一回!」


 途中で誰かが間違える。


「今の誰!?」

「お前だよ!」

「俺じゃねぇ!」

「いや、お前!」


 また笑う。それでも、もう一度最初から。何度も繰り返すうちに、少しずつ音が揃っていった。


 顧問の先生が部室に顔を出したのは、そんなある日の放課後だった。


「お前ら、ちょっといいか」


 何か注意されるのかと、全員が演奏を止めて先生を見る。


 ところが先生は、椅子を引っ張り出して勝手に座った。


「今年の曲、それなんだ。いいじゃん」

「先生、分かるんですか」

「お前らなー、これでも一応顧問だぞ」


 誰かが小さく吹き出した。


 文化祭まで、あと二週間。


「そろそろ宣伝しないと、人来なくね?」


 そう言って、あらかじめ作っておいたチラシを昼休みに持ち出した。


「軽音部ライブ、来てくださーい!」


 廊下を歩く生徒に、一枚、また一枚と配っていく。


「こっちにも!」

「待て待て! 走るな!」


 気づけば、全員で廊下を走り回っていた。


「軽音部ライブ、よろしくお願いしまーす!」

「お前ら、廊下を走るなー!」


 後ろから怒鳴り声。振り返ると、先生が自分もチラシの束を抱えて走ってきていた。


「先生も走ってるじゃないですか!」

「配ってやってんだよ、感謝しろ! ほら、そこの一年生にも渡せ!」

「先生が一番はしゃいでません?」

「うるせぇ、いいから配れ!」


 結局、その日一番大声を出していたのは先生だった。手元のチラシは、笑い声と一緒に一枚ずつ減っていった。


 翌日。


「もっと宣伝しようぜ」

「どうやって?」

「放送」

「……それだ」


 俺たちはさっそく放送室へ向かった。中に入ろうとしたところで、放送委員に止められる。


「すみません、放送する内容は決まっていて……」

「そこをなんとか! 三十秒だけ!」


 押し問答をしていると、隣の職員室の扉ががらりと開いた。


「お前ら、うるさいぞ」


 出てきたのは、顧問の先生だった。


「先生!?」

「放送室の前で何やってんだ。職員室まで丸聞こえだ」


 先生は大きくため息をついて、俺たちと放送委員を見比べた。


「……まったく。ちょっと待ってろ。俺が話つけてくるから」


 そう言って、先生は放送委員のほうへ向き直った。


 数分後。


「よし、三十秒だけもぎ取ったぞ」

「先生、よく許可取れましたね!」

「交渉だ、交渉」

「なんかかっこいいこと言ってません?」

「うるさい、時間ないぞ。早くしろ」


 マイクを渡される。


『えー、文化祭当日、体育館にて軽音部のライブに――』


「もっと声張れ!」

「お前が言え!」


『絶対来てください!』


「煽るな!」


 後ろで先生が腕を組み、うんうんと頷いている。誰よりも満足げな顔だった。


「先生、めちゃくちゃ楽しんでません?」

「そんなことないが?」

「絶対楽しんでる」


 笑い声。その直後、廊下から別の教師の声が飛んできた。


「お前ら、放送室で何やってる!」


「やばっ!」

「げっ……お前らは先に逃げろ、俺がなんとかする」

「先生を置いていくんですか!?」

「いいから走れ! 俺は大人だから話をつけられる!」


 結局、先生だけがその場に残り、俺たちは廊下を全速力で駆け抜けた。


 そして、文化祭当日。


 朝から機材を運ぶ。アンプ、ドラム、マイク。何度も往復して、ステージを作っていく。


「先生、そっち持ってください!」

「俺は顧問だぞ、荷物持ちじゃない」


 そう言いながら、一番でかいアンプを両手で抱えていたのは先生だった。


 音合わせをする。ギターが、ベースが、ドラムが鳴る。マイクから声が響く。体育館の外からは、文化祭を楽しむ生徒たちの声が聞こえていた。


 客席はまだまばらだった。けれど時間が経つにつれて、一人、また一人と増えていく。話し声、笑い声、椅子を動かす音。ざわめきが、少しずつ大きくなっていく。


「……結構来てるな」


 誰かが言った。


「な」


 さっきまでふざけていた奴も、今は黙って客席を見ている。


 本番まで、あと少し。心臓が速い。手のひらに汗が滲む。緊張している。でも、それ以上に――早く始めたい。


「そろそろだぞ」


 その声で全員が顔を上げ、舞台袖に集まった。自然と円になり、一人、また一人と手を重ねていく。


「先生も入ってくださいよ」

「俺は演奏しないぞ」

「演奏しなくても、先生だって軽音部の一員でしょ!」


 渋々といった顔で、先生も輪の中に手を重ねた。最後に俺が手を乗せる。


「最高のライブにするぞ」

「お前、ミスるなよ」

「お前だって!」


 みんなで笑った。笑いが収まると、互いに顔を見合わせた。


「行くぞ」

「「「おー!!」」」


 幕の向こうから、拍手と歓声が聞こえてきた。

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