青春、爆発。
「で、何の曲やる?」
部長が言った瞬間、部室が一気に騒がしくなった。
「これ!」
「いや、それ去年やっただろ」
「じゃあこっちは?」
「難しすぎるって」
「じゃあ最初のやつでよくない?」
結局、最初に出た曲に決まった。
「……最初からこれでよかったんじゃん」
「そうだけど?」
「お前らなぁ……」
笑い声が響く。
その日から、放課後は毎日練習になった。
なかなか合わない。
「もう一回!」
途中で誰かが間違える。
「今の誰!?」
「お前だよ!」
「俺じゃねぇ!」
「いや、お前!」
また笑う。それでも、もう一度最初から。何度も繰り返すうちに、少しずつ音が揃っていった。
顧問の先生が部室に顔を出したのは、そんなある日の放課後だった。
「お前ら、ちょっといいか」
何か注意されるのかと、全員が演奏を止めて先生を見る。
ところが先生は、椅子を引っ張り出して勝手に座った。
「今年の曲、それなんだ。いいじゃん」
「先生、分かるんですか」
「お前らなー、これでも一応顧問だぞ」
誰かが小さく吹き出した。
文化祭まで、あと二週間。
「そろそろ宣伝しないと、人来なくね?」
そう言って、あらかじめ作っておいたチラシを昼休みに持ち出した。
「軽音部ライブ、来てくださーい!」
廊下を歩く生徒に、一枚、また一枚と配っていく。
「こっちにも!」
「待て待て! 走るな!」
気づけば、全員で廊下を走り回っていた。
「軽音部ライブ、よろしくお願いしまーす!」
「お前ら、廊下を走るなー!」
後ろから怒鳴り声。振り返ると、先生が自分もチラシの束を抱えて走ってきていた。
「先生も走ってるじゃないですか!」
「配ってやってんだよ、感謝しろ! ほら、そこの一年生にも渡せ!」
「先生が一番はしゃいでません?」
「うるせぇ、いいから配れ!」
結局、その日一番大声を出していたのは先生だった。手元のチラシは、笑い声と一緒に一枚ずつ減っていった。
翌日。
「もっと宣伝しようぜ」
「どうやって?」
「放送」
「……それだ」
俺たちはさっそく放送室へ向かった。中に入ろうとしたところで、放送委員に止められる。
「すみません、放送する内容は決まっていて……」
「そこをなんとか! 三十秒だけ!」
押し問答をしていると、隣の職員室の扉ががらりと開いた。
「お前ら、うるさいぞ」
出てきたのは、顧問の先生だった。
「先生!?」
「放送室の前で何やってんだ。職員室まで丸聞こえだ」
先生は大きくため息をついて、俺たちと放送委員を見比べた。
「……まったく。ちょっと待ってろ。俺が話つけてくるから」
そう言って、先生は放送委員のほうへ向き直った。
数分後。
「よし、三十秒だけもぎ取ったぞ」
「先生、よく許可取れましたね!」
「交渉だ、交渉」
「なんかかっこいいこと言ってません?」
「うるさい、時間ないぞ。早くしろ」
マイクを渡される。
『えー、文化祭当日、体育館にて軽音部のライブに――』
「もっと声張れ!」
「お前が言え!」
『絶対来てください!』
「煽るな!」
後ろで先生が腕を組み、うんうんと頷いている。誰よりも満足げな顔だった。
「先生、めちゃくちゃ楽しんでません?」
「そんなことないが?」
「絶対楽しんでる」
笑い声。その直後、廊下から別の教師の声が飛んできた。
「お前ら、放送室で何やってる!」
「やばっ!」
「げっ……お前らは先に逃げろ、俺がなんとかする」
「先生を置いていくんですか!?」
「いいから走れ! 俺は大人だから話をつけられる!」
結局、先生だけがその場に残り、俺たちは廊下を全速力で駆け抜けた。
そして、文化祭当日。
朝から機材を運ぶ。アンプ、ドラム、マイク。何度も往復して、ステージを作っていく。
「先生、そっち持ってください!」
「俺は顧問だぞ、荷物持ちじゃない」
そう言いながら、一番でかいアンプを両手で抱えていたのは先生だった。
音合わせをする。ギターが、ベースが、ドラムが鳴る。マイクから声が響く。体育館の外からは、文化祭を楽しむ生徒たちの声が聞こえていた。
客席はまだまばらだった。けれど時間が経つにつれて、一人、また一人と増えていく。話し声、笑い声、椅子を動かす音。ざわめきが、少しずつ大きくなっていく。
「……結構来てるな」
誰かが言った。
「な」
さっきまでふざけていた奴も、今は黙って客席を見ている。
本番まで、あと少し。心臓が速い。手のひらに汗が滲む。緊張している。でも、それ以上に――早く始めたい。
「そろそろだぞ」
その声で全員が顔を上げ、舞台袖に集まった。自然と円になり、一人、また一人と手を重ねていく。
「先生も入ってくださいよ」
「俺は演奏しないぞ」
「演奏しなくても、先生だって軽音部の一員でしょ!」
渋々といった顔で、先生も輪の中に手を重ねた。最後に俺が手を乗せる。
「最高のライブにするぞ」
「お前、ミスるなよ」
「お前だって!」
みんなで笑った。笑いが収まると、互いに顔を見合わせた。
「行くぞ」
「「「おー!!」」」
幕の向こうから、拍手と歓声が聞こえてきた。




