嘘告白されたので引き篭もってみた結果
最近カクヨム様で流行っている嘘告白作品に影響を受けています
生物の飼育と観察実験ってなんでこんなに楽しいんでしょうね?
願わくば一日中やっていたいんですが、私は学生である以上、なかなかそうもいきません。
「ああ、王立学園に隕石でも落ちて休校になってくれればいいのに……」
おっと、ついお口が滑ってしまいました。
が、ここは自室ですし誰もいないからセーフということにさせて貰いましょうか。
失礼、申し遅れました。
私、メリル・ブラックシープと申します。身分はしがない子爵令嬢で、趣味は生物の飼育観察と論文執筆。
ちなみに最近のホットトピックはバッタの生態についてです。よしなに。
「おじょーさまー、そろそろ支度しないと登園に遅れてしまいますよー」
ドアを鬼ノックしてくる専属メイドに「今行きまーす」と答えていそいそと準備。ちなみに彼女、大の虫嫌いだから自室には入ってきません。専属なのに。
まあ、別にいいんですけどね。お陰で部屋の中では自由に好き勝手できてるわけですし。
しかしーー
「はあ、今日も行かないとダメか……学園」
行きたくないなぁー。
いえね?
別に授業についていけなかったり、いじめられたりしてる訳じゃないんですよ。
テストで赤点とった事もないですし、教室ではまるで葉っぱに擬態するコノハムシのごとく、見事に風景に溶け込む事ができていると自負しています。日々これ平穏なり。
ただ、退屈なんですよねぇ。学園。
趣味の合いそうな相手がいないし、授業からの学びも少ない。もう少し口の悪い言い方をしますと、同級生の皆さんがちょっと幼稚でお馬鹿に見えてしまう事もあって……
だから本当は趣味の合う年上の研究仲間達と手紙で意見交換してる方が百万倍楽しいんです。そこに挟まれるちょっとした近況報告なんかも心がときめきますし。
なのに何故学園に通っているのかといえば、ブラックシープ子爵令嬢の責務として『学園を卒業しいずれ何処かの貴族子息と結婚する事』が求められているから。
正直ごめん被りたいところなんですけど、今まで貴族令嬢ということで毎日ご飯を食べさせて貰い、高度な教育も受けてきた身ですからね。
現状、五体満足で精神も健全であり『学校を休むための大義名分』もない以上、責務は果たさねばなりません。
「次にこの部屋に戻れるのは最短で約10時間後ですか……一分一秒でも早く帰りたい……」
なんか無いですかねぇ、私の良心が痛まずに早引きできるような大義名分。マジで。
***
「う〜、ノートノート」
今、教室に研究ノートを忘れて全力疾走で回収に向かっている私は王立学園に通うごく普通の女の子。
強いて違う所をあげるとすれば、生物学に強い興味があるってとこかナー。
そんな訳でさっさとノートを回収して屋敷に帰ろうと教室の前にやってくると、中から話し声が聞こえてきました。
それだけなら気にせず、さっさと入室する私ですが今回は入り口で立ち止まります。
何故なら、声の主のうちの一人が私の席に座っておりーー
「ディコが嘘告する相手は誰にしようか?」
「ブラックシープ嬢がいいんじゃないか」
「よろしいんじゃなくって」
私の名前が出てきたからです。
クソミソな話の中に。
どうやら彼らは、『カードゲームの敗者に嘘告白をさせ、相手の反応をみる』という『遊び』に興じようとしている様子。
「すぐにネタバラシすれば大丈夫だろ」
「彼女なら家格も低く大人しいし」
「角も立ちませんわね」
ちなみに、声音から強い悪意や害意は感じませんでした。あくまで遊びとして、青春の思い出の1ページとして……という軽いノリみたいです。
それが逆にタチ悪いような気もしますが、まあ彼らはまだ精神的に幼いのでしょう。
お父様曰く『高位貴族には使用人やお抱え商人など下の者に無体をして、その反応から忠誠心を試す家もある』そうですし、色々麻痺してるのかもしれません。
まあ、気持ちは分からないでもありませんけどね。私も最近バッタにストレス環境を与えて彼らがどう適応するのか観察しながらニマニマしていましたから。
「じゃあ、成功するか賭けるか」
「それなら私は成功に」
「俺も成功に一票かな」
「じゃあ、あえて僕は大穴狙いで……」
とうとう賭けまで始めてしまいました。
しかも成功が5で失敗は1、私、もしかしてチョロい女と思われてます?
でもまあ、冷静に考えるとそんなオッズになるのも無理ないかもしれませんね。
教室で暇な時間、人間観察に興じる事も多かった私の見立てによると、今回嘘告する事になったディコは中々なモテ男のようですから。
何せ彼、普段からタマムシのようにフラッシィに飾り立て、セミのように騒がしくしているグループの一員ですからね。求愛行動において目立つ事はとっても大切。
そして私は今まで異性と付き合った事がないから、そういう事に耐性はありません。生物の最優先事項って生殖で、私もそういうのに適したお年頃だから、告白されたら舞い上がってテンパってOKしていた可能性も無きにしも非ず。
そう、まるでピカピカ光るチョウチンアンコウにまんまとやられる小魚のように……
「しかし、うーむ……正直、面白くないですね」
侮られているのも、事前に嘘告と知らなければその通りになりそうだったのも、思わず呟いてしまうくらいには悔しい。
なので、帳尻をあわすため、逆に何かこの状況をうまく活用してやりたいものですが、何かいい方法はないでしょうか?
***
「メリル、君の事が好きだ。付き合ってくれ」
翌日、人気のない場所に呼び出された私はディコ・ダミホース伯爵令息から告白されました。
昨日の放課後、教室で話していた内容の通りなら物陰に仲間達も隠れているのでしょう。賭けの対象となっている、嘘告白の結果を見届けるために。
そこで私は、こう答えます。
「ええっと、一回保留にさせて頂けませんか?貴方の事をよく知らないので、まずはお友達として何回かデートでもしてから決めとうございます」
驚いた顔をするディコ。
予想していない返答だったのでしょう。
これには理由があります。
実は私、昨夜ウンウン悩んだ結果『嘘告白にショックを受けて学校に行けなくなった』事にする筋書きを思いついたのです。
そう、引き篭もって大好きな研究に没頭するための大義名分です。
ただ、人気のない場所で告白されて、すぐにネタバラシ程度では不登校の理由とするには少々弱いのでないかと考え直しました。
そこで、『弄ばれた末に捨てられてハートブレイクした』という演出に変更しようとしている訳です。これならば、ずっとは難しいだろうけど一週間くらいは引き篭っても怒られないハズ!
あと、折角なんでこの機会に男性への耐性もつけとこうかなって。ほら、一種の予防接種みたいなものですよ。
年配の貴婦人には顔の良いヒモにお金を払ってデートする方もいると聞いています。
ディコの実家は太く、性格はともかく顔は悪くないので期間を限定し向こう持ちでエスコートしてもらう経験を積むのは悪くないと考えた訳ですね。
この国の貴族社会ではデート代って男持ちが基本なので、私の懐は痛みませんから。
「え、えーっと……」
おっと、悩んでいる模様。
まあ騒ぎが大きくなると向こうは困りますもんね。そこで、こんなセリフをプレゼント。
「あと、恥ずかしいのでしばらくは周りの人には秘密にして貰ってもいいですか?何度かデートして頂いた後で改めてお返事しますし、その間は私も誰にも他言しませんので」
「あ、ああ。それなら、うん……かまわないが」
勿論、証拠記録として日記に残したりはするんですけどね。あと、記録水晶も使っときましょうか。
◇◇◇
俺の名前はディコ・ダミホース。
伯爵令息である俺は今、メリル・ブラックシープ嬢の事が気になっている。もちろん、恋愛的な意味で。
きっかけはちょっとしたゲームだった。
嘘告白し、その結果を賭けるというものだったのだが、返事を保留にされ何度かデートするハメになったのだ。
幸い、『周囲には他言しない』と向こうから言い出したしな。家格もこちらの方が上だしOKの返事を貰った後で『すまない。デートしてみてわかったのだが、俺の思っていた女性像と違った』的な事を言えば大して後腐れもしないだろうと思って了承したんだが……
正直に言うと、彼女とのデートは予想に反してめちゃくちゃ楽しかった。
メリル嬢のリクエストで古生物博物館や競馬場へ行き、そこで分かったことがある。彼女は非常に博識で話してみるとすごく面白い。
ほんと、『古の猛獣の倒し方シリーズ』とか最高だったな。あと、万馬券を当てまくってたのも凄かった。血統表とパドックの様子をみれば一目瞭然でしたよ、とか言って。
それと、普段化粧っけがなく地味な装いばかりをしていたから気づかなかったが、よく見ると顔立ちも整っていて、とても可愛い。
なんか、もう嘘告白じゃなくて本当の告白という事にして、OKの返事を貰った後はこのまま付き合えばいいじゃんって気がしてきた……
「うん?……おお、名案な気がする!」
いいじゃないか、それ。
真実を言っても、誰も得をしないしな。
これは彼女にとっても利のある話だろう。俺はこのように機転がきく男だし、顔も性格もよければ家格だって上等なんだから。
知らぬが仏、終わり良ければすべて良し、だ。
◇◇◇
ディコと何度かデートを重ね、美味いものも食べたし行きたい場所にも行ったから、そろそろ返事をして関係を清算しようかなと思っていた今日この頃。
私は失恋でショックを受けたんですー、という最後のアリバイ作りのため、教室でも親しげにディコへと話しかけてみた所、過日嘘告白を企画していたグループの一員であるロール・フェミナン伯爵令嬢が怒り始めました。
「いい加減になさって下さいまし!」
どうやら私に対して怒っている模様。
そうそう、どうやらこの女、ディコの事が好きみたいなんですよね。
この男の何処がいいのか私には分かりかねますが……まあ辛い蓼の葉を好んで食べる甲虫もいるし人の好みにケチはつけないでおきましょうか。
「貴女、最近ディコさまにベタベタしすぎなんじゃなくって?」
どうやら、相当頭に血がのぼっているご様子。
おっ、これはもしかして……
人間、脳が恋愛モードの時は視野狭窄になって、『貴様との婚約を破棄する!』とかしちゃう位に判断力が低下する事があるってききますし……
「いやぁ、それがですねぇ」
千載一遇のチャンスと見た私は、あえてそこで言葉を濁し、口角を僅かに持ち上げながらディコの方を見ます。ランカれ!
「いい事!先日ディコ様が貴女に告白してきたのは罰ゲームによるものなんですからね!」
フィーシュ!
「そ、そんな……嘘、ですよねディコ様?」
これ幸いにと、私はダメージを受けたフリをします。今の私は擬傷行動をするチドリ、ガラスのお面を被りし女優の心情!
「……事実だ。だがーー」
あ、その先はいりません。
衆目監視の元、言質をとることに成功した私。思わず溢れそうになる笑みを悟られぬよう口元を抑えると教室を飛び出しました。
やった、やりました。
コレは私、完全に被害者です。当初は失恋による傷心で精々が一週間程度のズル休み予定でしたが、コレならきっと一ヶ月くらい引き篭もっても文句は言われないでしょう。
さようなら学園、こんにちはバッタさん。
ビバ、自由気ままな研究生活!
***
部屋に引き篭もってから、あっという間に一ヶ月が経過しました。
楽しい時間ってあっという間ですね。
「なあ、メリル。嘘告白に関与した連中は全員キッチリ罰を受けることになり反省している様子だし、そろそろ復学してみないか?」
「お父様、あんな恥をさらしてどんな顔をして学校へ行けましょうか?趣味の生物観察と、研究者仲間との文通だけが傷ついた私の心を癒してくれます」
「そ、そうか……」
でも、もう少し引っ張れそうな気がします。
だってほら。
「あの子は思った以上にショックを受けていたらしいな」
ドアに耳をあて外の様子を窺うと、お父様のそんな声が聞こえてきますもの。
「お嬢様って、もっとメンタルつよつよのふてぶてしい女ってイメージだったんですけどねぇ」
はいそこの専属メイド、いらんこと言わない!
「まあ、それだけ本気の初恋だったんだろう。目も充血して食も細くなり……可哀想に」
よしよし。
まあ、ここ最近は研究が捗って、それが楽しすぎて寝食を忘れてただけなんですけどね。結果オーライ。
あと衆目監視のもとで嘘告白を暴露された事実に加えて、デートに浮かれてる風に書いておいた日記帳が威力を発揮している様ですね。ナイスです、昔の私。
なので、いい加減にしろと怒られるまではこのままいってみましょうか。
かじれるうちは親の脛!ってね。
もちろんいずれキチンと学校は卒業して責務である結婚もするつもりだから、もう少しだけ自由にさせて下さいな。家を切り盛りするようになったら、きっと今みたいな研究時間もとれませんし。
「なので、理想の引きこもり生活継続へ万全を期すためにこちらのお手紙への返信もよく考えて書かなくては……」
今、私の手元にあるのは研究者仲間の一人からの手紙。私よりも5つほど年上の第三王子様で、三年ほど前に私が初めて発表した論文に質問のお手紙を頂いて以降、こうやって書面での定期交流がある方です。
身分も大分違うのでお会いした事はないのですが、知的でお優しい方だなというのが文章の端々からは伝わってきます。
今回は、どこから聞きつけたのか私が傷心で引き篭もっている事を知り憂慮している旨が書かれていました。
のみならず『王家の力で嘘告白してきた連中をもっと厳しく処罰しようか?』的な事まで……これには、流石の私も少しばかり胸が痛みます。
「とは言え、『ズル休みデース!』とは書けませんからね……」
とりあえず、『まだ登校する事に抵抗感はあるものの、研究で人の役に立てる今の生活に不満はない』事と、『ゲーム感覚で嘘告白してきた人達に恨みはないからどうか寛大な処置を』的な事を書いておきましょう。悪いのは向こうでも利用したのはこちらですし。
嘘は言ってないハズです。あと、研究者仲間との文通があるから寂しくない事も書いておきましょうか。
てな対応をした一週間後、王子から結婚を前提とした交際の申し込みが来たんですけど何故にー!?
◇◇◇
グラン・ザムールはザムール王国の第三王子である。
政治や軍事は興味が薄くそちらは優秀な兄達に任せればいいやと考えている学者肌のグラン。
その一方で、疫病や虫害といった『国益を損なう天災への科学的な対策』には昔から強い関心を持っていた。
「あの……初めましてグラン王子」
「グラン、と呼び捨てで結構ですよ。会うのは初めてですが何度も手紙でやり取りした仲ですし、結婚を前提とした交際を申し込んでいるわけですから」
そんな彼は現在、眼前にいる女性ーーメリル・ブラックシープ子爵令嬢に首ったけである。
きっかけは三年前に彼女が発表した論文だった。
それは重篤な疫病の原因となっているマウスが『視力は非常に弱く髭に触れる壁に沿って移動する』ことや、『見慣れない食べ物を発見すると最初はほんの少しだけ食べて数日様子を見る』という習性を発見したという報告である。
それに対して手紙を通していくつかの質問をし、その回答を元に部下に罠や毒餌を開発させたところ……目覚ましい駆除効果が現れた。
初めは仕事として学術的なやり取りに留まっていたグラン。だが何度か手紙で軽く私的なやり取りもするうちに彼は、メリルという個人に対しても興味が湧いた。
そしてある日、どんな女性か気になりこっそりストーキ……望遠鏡で覗き見したところで、彼はメリルに一目惚れしたのである。正直、顔もめちゃくちゃ彼の好みだった。
(その後、才能を見込んで依頼したがバッタの研究なんて女性には中々にキツかったはずだ。なのに学園で辛いことがあった後も嫌な顔せずに頑張り続けてくれて……)
そんな訳でメリルに心底惚れ込んだ彼は今、交際を申し込みにブラックシープ家を訪れている。
(彼女のお父上からは『毎日泣いて過ごし、食事も喉を通らずに痩せた』ときいているし……これから先は私がメリルのことを守って笑顔にしてやりたい)
「いえあの、大変結構なお話なのですが、家格も実績も全然釣り合っていないような……」
「何を言うんだい。君のラット研究のおかげで我が国には大きな益があったじゃないか。それに、まもなく形になる今進めてくれている研究は私からーーつまりは王家からの依頼によるものだ」
バッタの大発生・大量飛来による農被害は、時に広範囲に壊滅的な被害や深刻な影響をもたらす。
なので生態を研究し、その発生原因を突き止め予防することは、戦争を勝利に導く以上に大きな国益につながるのである。ラット研究と合わせれば第三王子と結婚する為の実績としても充分すぎるものになるだろう。
「あと私、王家の妻として政治のアレコレとかする自信が全然なくって……」
という一見殊勝に聞こえる言葉の裏でぶっちゃけめんどくさいんですよ、研究時間も減るし、なんて不敬なことを考えているメリル。
「その辺は兄上達に任せているから心配ないよ。個人的には結婚してからも君には研究分野で活躍して欲しいという気持ちがあるかな」
「そうなんですか!?」
それを聞いたメリルは結婚を快諾した。
それを早く言って下さいよー、なんて内心で小躍りを始めつつ。実に現金な女である。
「ところで、嘘告白してきた連中なんだが……」
「いえいえ、それはもう全然気にしてないんで。あまり厳しく処分されますと私も寝覚めが悪いというか……」
「そうなのか」
「そうなのです」
(ああ、メリル。君はなんて心優しいんだ!)
ならばそんな未来の妻が心を痛めぬよう、これ以上表立った処罰はやめようと心に決めたグラン。
(代わりに、兄上経由で陰から長期的に締め上げてやる!特にメリルとデートしやがったディコ・ダミホースと公衆の面前で恥をかかせたロール・フェミナン。今後まともな貴族人生が送れると思うなよ!)
そんな彼は理知的な反面、メリル大好きの過激派で、敵認定した相手には割と容赦ない男でもあるのだった。
しかしまあ、それを表に出さない賢さはあるのでメリルにとっては知らぬが仏。
いいじゃないか、それで。
真実を言っても、誰も得をしないしな。
終わり良ければすべて良し、だ。
補足
『引きこもりたい主人公が嘘告白された』というアイデアについては偉大なる先達の知恵をお借りしています(ランキング上位の連載中作品です)。
世界観、登場人物の性別および性格、ストーリー展開などは私のオリジナルです。なので物語の起承は似てても転結は違うはず……たぶん。




