1000年の恋も覚ました。エルフの私は城を出ることにします。
恋は盲目――とは、よく言ったものだ。
「……リュシエル、君を愛している」
初めて里を出て出会ったその人、アルヴァルト王子の微笑みだけで、私はすべてを捧げられると思った。
エルフの長命さも、人の短命さも関係なかった。
ただ、彼の隣にいられれば、それでよかった。
数年後。
「リュシエル、結婚してほしい」
差し出された手を、私は迷いなく取った。
――けれど。
「……王族である以上、他の女性との婚姻も必要になる」
その言葉は、静かに、でも確実に胸を刺した。
「……ええ、分かっています」
分かっていた。
分かっていたけれど――嫌だった。
それでも私は笑った。
「あなたのそばで、支え続けるわ」
“理解ある女”でいたかったから。
⸻
彼は他の女性と子をもうけ、王となった。
それでも、私は彼の側にいた。
愛されていると、信じていたから。
やがて時は流れ――
「リュシエル……そなたは、本当に……変わらぬな……」
白髪になった彼の手を、私は両手で包む。
「エルフですから」
微笑むと、彼は弱々しく笑った。
「……私の息子も、その次の息子も……そなたを愛すよ……」
その言葉を最後に、彼は息を引き取った。
「……アルヴァルト……」
涙は止まらなかった。
⸻
アルヴァルトが亡くなったあと彼の息子が、私を愛してくれた。
「母上のように……いや、それ以上の人だ」
その次の王も。
「あなたはこの国の宝だ」
そのまた次も。
「ずっと側にいてほしい」
私はずっと“愛され続けた”。
変わらない姿のまま。
変わらない役割のまま。
⸻
そして、1000年後。
中庭で笑う王を見たときだった。
「ははっ、皆可愛いな」
キャッキャッと笑いながら腕に絡みつく数人の女たち。
その光景を見て――
ふと、思った。
「あれ? 私……ここにいらなくない?」
その瞬間。
ずっと胸を締め付けていた何かが、ほどけた。
「……ああ、そっか」
私は、ずっと“都合のいい存在”だったのだ。
愛されていると思っていたのは――
ただの王族の習慣になっていたのだった。
「……もう、いいや」
踵を返す。
王の方へは振り返らない。
王もこちらを見なかった。
「さようなら」
そうポツリと言葉を残し、私は王国から姿を消した。
その後、その王国はエルフの力で成り立っていた国の結界や道具が全て機能しなくなり、エルフの力がある生活に慣れていた国の事情を知らぬ民たちが混乱し、城へ押しかけたらしく、何も対処できなかった王へ怒りが向き、そのまま粛清されたのだとか。
里へ帰還したエルフが昔の顔見知りだった相手から求婚されたりだとかしたらしい。




