表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『神の視点 ~零式創世戦記~』  作者: noanoa
第13章:グライゼル家の反逆

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/118

第93話:環境操作勝利


グライゼル領、最終決戦。


視界を占める灰色の空から、高密度の水分が落下し始めた。

――雨だ。


網膜上で、脳内演算(TV)が環境データを更新する。


『降雨継続予測:百八十分/接地面:三十分後に泥濘でいねい化と判定』


背後で、誰かが声を上げた。

おそらくは味方の指揮官。


「この雨、作戦に使えるか?」


思考を介さず、首元の「外部メモ」を走査スキャンする。

『雨+泥=重力魔法の伝導阻害・減衰』


「……転用、可能です」


僕の回答と同時に、TVが戦術スキームを最適化していく。


『敵戦力:一千二百/推奨:環境干渉型・複合戦術/予測勝率:91.7%』


三十分後。

計算通り、平原の土は粘土質の泥へと変質した。


『泥濘化完了。重力魔法の効果、最大60%の減衰を予測』


「全軍、前進。これより敵本隊を排除します」


独立連隊が、僕の無機質な号令で駆動を始める。


前方、グライゼル公爵の本隊、一千二百。

公爵が腕を振り上げると同時に、空間の「負荷」が急上昇した。

重力魔法。


だが、泥となった地面がマナの伝達を乱していく。


『観測:重力加速度1.8倍(定数2.5倍)/効果の28%を無効化』


誤差の範囲内。計算通りだ。


「左翼は迂回。右翼は側面へ。指定座標に熱源を放て」


投げ込まれた松明が、事前に油を撒いた草地に接触。

一気に高熱の反応が広がる。

発生した高濃度の煙が、グライゼル軍の視界を物理的に遮断した。


『敵視界:30%以下に低下。陣形の維持、困難と判定』


「中央突破を開始。殲滅してください」


泥に足を取られ、視界を焼かれた敵陣へ、独立連隊がくさびのように打ち込まれる。

それはもはや戦闘ではなく、効率化された作業だった。


百二十分後。

戦場から、敵対的な熱源反応が消失した。


『戦闘結果:完全勝利。敵損失:九百。降伏:三百』

『味方損失:五十。勝率予測との誤差:0%。的中』


完璧な、勝利。


だが、何も感じない。

「安堵」という化学反応も、「高揚」という電気信号も、僕の脳内には発生しない。


高輝度の熱源ひとが、こちらへ駆け寄ってくる。


「ロラン! 勝ったぞ! 僕たちの勝ちだ!」


メモを検索。

個体名:『アルベルト』。


「肯定。勝利という結果を確認しました」


「君……本当に、何も感じていないのか……?」


「判別不能。理解できません」


その時。

TVの視界に、紅い警告色が明滅した。


『警告:敵狙撃兵を検知/距離:八百メートル/照準:ロラン/回避行動を推奨』


網膜に、弾道の予測線が描かれる。

数秒後、僕の頭部は撃ち抜かれる。


(……回避による、メリットを算出不能)


生きる理由が、見当たらない。

ならば、回避行動というエネルギー消費は無駄だ。

僕は、ただ立ち尽くした。


「主様ッ!!」


横方向から、強い物理衝撃。

誰かが僕を突き飛ばした。


直後、僕がいた空間を一本の矢が超音速で通過していく。


倒れ込んだ僕に、別の熱源が覆いかぶさっていた。

メモを検索。

個体名:『リーナ』。


「なぜ、避けなかったの……!? 死ぬところだったんだよ……!」


リーナの瞳から、高熱の液体が溢れ出し、僕の頬を濡らす。


「死んでも構わないと、判断しました」


平坦な、あまりに平坦な回答。


「何を……言ってるの……!」


「僕には、生存を継続すべき論理的根拠が見当たりません」

「なぜ生きる必要があるのか」

「なぜ死を回避しなければならないのか」

「全ディレクトリを検索しましたが、回答は……『空白』でした」


リーナが、獣のような声を上げて泣き始めた。


「やめて……お願いだから、そんなこと言わないで……!」


アルベルトが、崩れ落ちるように膝をついた。


「ロラン……ついに、生存本能まで消えたのか……?」


メモを確認。

『生存本能:個体が生存を継続しようとする根源的欲求』


「……肯定。そのようです」

「生きたいという欲求を、観測できません」

「死にたいという衝動も、存在しません」

「どちらでもいい。そう判定しています」


王である男の顔が、絶望に歪んでいく。


――その夜。

静まり返った天幕テントで、僕は最後の一行をメモに書き添えた。


『記憶破棄進行度:100%/完了』

『次回破棄予定:五感(痛覚・触覚)』


過去の蓄積は、すべて消えた。

次は、世界との物理的な接触(感覚)が消失を始める。


TVが、淡々と明日のスケジュールを表示する。


『明日:グライゼル領より撤退/座標:王都ルミナスへ帰還』


メモを見る。

『王都ルミナス:帰るべき場所』。

どこかはわからない。だが、そこへ向かうらしい。


灰色に塗りつぶされた世界。

完璧な勝利を収めても、心は動かない。

生きる理由を失っても、回路は止まらない。


記憶破棄、完了。


ただ、TVだけが青白く発光し、冷徹な数値を流し続けている。

それだけが、僕の「存在」の証明だった。


灰色の世界で。

ロランは、もはや自分が誰であるかも問わぬまま、ただ座り続けていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ