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『神の視点 ~零式創世戦記~』  作者: noanoa
第13章:グライゼル家の反逆

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第92話:重力魔法解析深化


ヴァルター戦、終了後の深夜。


陣営の天幕テント内。

僕の視界は、高輝度のグリッド線に埋め尽くされていた。


脳内演算(TV)が自動起動し、停止命令を受け付けない。


『脳内温度:45.0℃/過去ログ解析……実行中』


網膜に、重力魔法の構造データが強制展開される。


『比較対象:ヴァルター(重力加速度2.0倍)/アーサー(重力加速度3.2倍)』


アーサー――。

誰だ、それは。


思考の隙間を埋めるように、首から下げた「外部メモ」を繰る。

『アーサー:父』


父。

その単語の定義が、僕の脳内からはすでに消失していた。


TVは、止まることなく数値を流し続ける。


『重力魔法:心臓を起点とした放射状マナ展開』

『波長:0.7μm/周波数:428THz』


無数の数式が、濁流のように意識へ流れ込む。

なぜ、僕はこの式を知っているのか。

学習した記憶は、一滴も残っていない。


『重力魔法の弱点:接地面の状態に依存』

『乾燥土:効果100%/湿土:70%/泥:40%』


(だから……僕は、水を撒かせたのか……)


先日の勝利に、ようやく論理的な裏付けがなされる。

だが、その戦術を選択した際の「感情」も「確信」も、今の僕には観測できなかった。


天幕の入り口に、高輝度の熱源ひとが影を落とす。


誰だ――。


検索。

『アルベルト』『リーナ』『ガルド』。


メモに記された「味方」のリスト。

目の前の熱源が、そのどれに該当するのかが判別できない。


「ロラン、僕だよ。アルベルトだ」


「……肯定。信じます」


僕の機械的な返答に、アルベルトの顔(熱源)が歪んだ。

おそらく、悲嘆の表情。


「ロラン……ずっとTVを起動させているね……。どうして、自分を休ませないんだ?」


どうして――?

問いを反芻するが、エラーコードしか返ってこない。


「判別不能。わかりません」


アルベルトの瞳から、再び熱い液体が零れた。


「もう休んでくれ……。お願いだから、ロラン……」


「了解しました」


外部命令に従い、横になる。

だが、瞼の裏側でもTVの演算は止まらない。


白銀のグリッドが、視界の奥底を焼き続ける。


『空間圧縮:高次重力魔法/多層マナ構造』

『解析進行度:68.3%/完全解析:推定28時間』


自律制御を失った脳が、勝手に世界を解体していく。

止められない。


『脳内温度:45.5℃/警告:個体維持限界を超過』


頭蓋の内側が、凄まじく熱い。

だが、それを「痛み」として処理する機能は、すでに破棄済みだった。


――翌朝。


僕は、定められた時刻に体を起こした。


メモを確認する。

『今日やること:?』


空白。

何をすべきか、目的の記述がない。


天幕の外に出ると、灰色の兵士たちが慌ただしく動いていた。

一人の熱源が、僕に近づいてくる。


「主様、朝ごはん」


差し出された、灰色の固形物。

これは……何だ?


「パンだよ」


メモを検索。

『パン:主要な栄養摂取源』


口に入れる。

味覚の信号は途絶しており、ただ熱量(温度)だけが、喉を通り過ぎていった。


「主様、今日はどうするの?」


わからない。


TVを強制起動。


『現在位置:グライゼル領西部/敵残存兵力:600』

『推奨行動:追撃による殲滅/予測勝率:78.2%』


「追撃を敢行。勝率、78.2パーセント」


唇が、演算結果を音として吐き出す。

独立連隊が、機械仕掛けの歯車のように動き始めた。


何のために、僕は彼らを死地に追いやるのか。

わからない。


ただ、TVが最適解を表示する。

だから、僕はそれに従う。


――昼。灰色の平原。


TVが、不可視の索敵網レーダーを走らせる。


『敵部隊接近:前方3キロ/兵力:600』


「全軍停止」


視界に、戦術図が重なる。


『推奨戦術:側面包囲/勝率:78.2%』


「左翼部隊、右に迂回。右翼部隊、左に迂回。包囲陣形を構築」


兵士たちが、僕の言葉に従い散っていく。


戦闘が始まった。

灰色の影と影が交差し、熱量が散乱する。


何も感じない。

ただ、変化する数値を見つめるだけ。


『味方損失:80/敵損失:400』


数時間後、戦場には「沈黙」という結果だけが残った。


『戦闘結果:勝利/勝率予測との誤差:0.0%』


計算通り。

それ以上の感慨は、どこにもない。


――夜。

揺れる火影の中で、僕は外部メモを見つめていた。


『記憶破棄進行度:98%/次回破棄予定:生存本能』


生存本能――?


検索。

『生存本能:個体が生存を継続しようとする根源的欲求』


生きたい、という欲求。

僕は、生きたいのか?


そもそも「生きる」とは、どういう状態を指す定義なのか。

今の僕には、その解さえ導き出せない。


新しい記録を、メモに刻む。


『重力魔法を解析。理由、不明』

『戦闘に勝利。理由、不明』

『この個体は、生存中。理由、不明』


すべてが、不明。

すべてが、空白。


ただ――TVが駆動し、数値が流れ続けている。


灰色の夜空を仰ぐ。

星々の瞬きは、すでに遠い。


(僕は……何だ……?)


答えは、永久に出力されない。


それでも、明日はやってくる。

TVが戦えと指示するから、僕は剣を振る。


ただ、それだけ。


色彩を失った、熱すぎる灰色の世界で。

ロランは、ただ一人の「装置」として、座り続けていた。





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