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『神の視点 ~零式創世戦記~』  作者: noanoa
第13章:グライゼル家の反逆

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第91話:ヴァルター・グライゼル戦


鉱山の戦いから、二十四時間が経過。


視界は、一面の灰色だ。


平原には二つの軍勢が対峙している。

独立連隊、一千五百。

グライゼル残存兵力、八百。


その中央。

高輝度の熱源を放つ「灰色の男」が立っていた。


「あれは……誰?」


リーナが問いかける。

僕の脳内演算(TV)が、即座にログを検索した。


『過去の戦闘記録:存在/個体名:ヴァルター・フォン・グライゼル』

『能力:重力魔法(重力加速度:2.0倍)/弱点:接地面の軟化』


数値は出ている。

だが、いつ、どこで戦ったのか。

記憶のディレクトリは、すでに空白だった。


「ロラン・フォン・アシュベル! 一対一で勝負しろ!」


灰色の男が叫ぶ。


「……肯定。受諾します」


なぜそう答えたのか、自分でも判別不能。

ただ、TVが算出した「最短の終結」に従ったに過ぎない。


馬を降り、剣を抜く。


「以前の戦いを覚えているか! 貴様は地面を泥にして、我が奥義を破った!」


「以前……?」


検索。

……該当データ、なし。


TVが最適解を提示する。

『推奨戦術:地面軟化作戦/水分投下により重力魔法を減衰』


「リーナ、水を地面に撒いてください」


「なぜ……? ロラン、急に何を……」


「データが、そう指示しています」


リーナの顔面筋が、複雑な収縮を見せた。

おそらくは「悲嘆」に分類される表情。

それでも、彼女は指示に従い、高輝度の水を地面に放つ。


平原の土が、またたく間に泥へと変質した。


「また、同じ手かッ!」


ヴァルターが叫び、突進してくる。

何が「また」なのか、僕には理解できない。


視界に、高輝度の走査線スキャンラインが走る。

TVによる剣の軌道予測。


白銀の光条に従い、体をわずかにずらす。


ヴァルターが重力魔法を強化した。

強烈な圧力が大気を震わせる。


だが――泥に沈んだ彼の足が、わずかにバランスを崩した。


「な……また、同じ……!」


その隙を、TVは見逃さない。

予測された「切断座標」へ、機械的に腕を振る。


肉を断つ感触。

剣がヴァルターの腕を、無機質に切り裂いた。


「貴様……本当に覚えていないのか……。『重力魔法は物理法則に過ぎない』。あの日、私にそう言い放ったはずだぞ……!」


物理法則――。

そんな言葉を、僕が吐いたのか。

記録にはない。


「判別不能です。覚えていません」


僕の口から出たのは、自身の耳にも冷たく響く、機械的な音。


ヴァルターの眼球が、驚愕に大きく見開かれた。

彼は再び突進してくるが、その動きはすでに演算の範疇カテゴリ内だ。


避ける。

切る。

避ける。

切る。


効率化された反撃が、ヴァルターの足を深々と切り裂いた。


「……勝負あり。行動不能と判定」


膝をついた男の喉元に、剣先を突きつける。


ヴァルターの瞳から、高熱の液体が溢れた。

それは灰色の頬を伝い、泥の中に落ちる。


「ロラン・フォン・アシュベル……貴様は……もう、人間ではないのか……」


人間――?

僕は、人間ではないのか――?


脳内温度、44.2℃。

タンパク質が変質を始める熱量の中で、思考が循環ループする。


僕は……誰だ?


首から下げた「外部メモ」を視認。

『僕の名前:ロラン』


文字情報は確認できる。

だが、その「ロラン」という概念が何を指すのか、定義が消失している。


「……参った。グライゼル軍は、これより撤退する」


戦いは終わった。

背後の兵士たちが、大きな音響を発して歓声を上げる。


だが、何も感じない。

勝利という事象を確認した。それだけだ。


「ロラン! やったね!」


高輝度の熱源が、こちらへ駆け寄ってくる。

アルベルト。

王であり、この個体の「親友」であるとメモに記された男。


彼は僕の手を握ろうとした。

血で汚れた、灰色の手を。


(この人は……誰、だっただろうか……)


一瞬。

回路が断線したように、認識が途切れた。


メモを見る。

『アルベルト』。

目の前の熱源(人間)と、その名前を結びつけるプロセスに、数秒を要した。


「ロラン……? どうしたんだい?」


「あなたは……誰ですか?」


疑問。

純粋な、情報の欠落による問い。


アルベルトの表情が、凍りついた。


「ロラン……僕だよ。アルベルトだよ……忘れたなんて、言わないでくれ……」


「アルベルト……」


文字列は一致する。

だが、確証がない。


「信じます」


僕は、感情を排した声で告げた。


「あなたがアルベルトだと、そのメモが言っている。だから、信じます」


アルベルトの瞳から、大量の熱い液体が零れ落ちる。

なぜ彼が外部への水分流出なみだを止めないのか。

僕には理解できなかった。


――その夜。

陣営の天幕で、僕はひたすらメモを更新し続けた。


『記憶破棄進行度:95%/次回破棄予定:生存本能』


文字を刻む。

脳が焼ける前に。


『ヴァルターと交戦。勝利。過去の対戦記憶、なし』

『アルベルトの顔を認識不能。外部メモの記述により個体を識別』


灰色の空を見上げた。

星の輝きすら、今はただの「光度の数値」でしかない。


(僕は……誰だ……)


答えは、出力されない。


ただ、メモには『ロラン』と書いてある。

だから、僕はロランとして振る舞う。


理由も、根拠も、思い出もいらない。

ただ、外部の記録メモを信じる。


色彩を失った灰色の世界で。

ロランは、ただ静かに座り続けていた。





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