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『神の視点 ~零式創世戦記~』  作者: noanoa
第5章:帝国の影

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第31話:物理の鎖


ロランとヴァルターが、街道の中央で対峙した。


周囲の兵士たちが、固唾を呑んでその光景を見守っている。 独立連隊の面々は不安に顔を歪め、対するアシュベル軍は余裕の笑みを浮かべていた。 勝負は、火を見るより明らか。 重力魔法の使い手であるヴァルターに、魔力を持たない追放者が勝てるはずがない。


だが――。


ロランは、静かに剣を構えた。 その瞳の奥には、無機質な青いグリッドが浮かび上がる。


『タクティカル・ビュー――完全起動』


ヴァルターの骨格、剣の自重、そして空間を歪める重力魔法の影響範囲。 すべてが冷徹な数値として、ロランの脳に書き込まれていく。


「では――始めるぞ」


ヴァルターが剣を正眼に構えた。 その瞬間、空気がさらに「重く」なった。


「っ……!」


重力が、通常の二倍へと跳ね上がる。 ロランの膝がガクガクと震え、肺が押し潰されて呼吸が浅くなる。 だが、ロランは耐えた。タクティカル・ビューが、重力場の分布を瞬時に解析し終えていたからだ。


(やはり、半径十メートルの範囲魔法だ……)


ヴァルター自身は、その重力の影響を全く受けていない。 術者の体が「重力の基準点」になっている。ならば、攻略の糸口はある。


「来い、ロラン」


ヴァルターが突進してきた。 重力を味方につけた、あまりにも重い一撃。


ロランは――紙一重でそれを回避した。 剣先が頬をかすめ、灰色の世界に、ただ温かいだけの「液体」が飛ぶ。


「ほう……避けたか」


ヴァルターが眉を動かした。 「だが、次はどうかな」


再び振り下ろされる剣。 ロランは泥を蹴り、横に跳んだ。 だが、重力の鎖がその足を引っ張る。ヴァルターの剣が、ロランの肩を深く切り裂いた。


「ぐっ……!」


たまらず膝をつく。 鋭い痛みが走る。だが、まだだ。まだ、倒れるわけにはいかない。


「無意味だ。この重力の中では、貴様の動きは亀のように鈍い」


確かにその通りだった。 腕を振るのさえ、水中で鉄塊を動かしているような抵抗がある。 だが、ロランは見ていた。


ヴァルターの足元。街道を固めていた土が、彼の自重によってわずかに沈んでいるのを。


(魔法は地面にも影響している。ならば……)


「ヴァルター殿。あなたの重力魔法……弱点を見つけましたよ」 「何だと?」 「地面ですよ」


ロランは肩から血を流しながら、不敵に笑ってみせた。


「あなたの魔法は、地面を通じて圧力を伝えている。ならば、その『基準』を狂わせてしまえばいい」


ロランが後方へ、左手だけで合図を送った。 待機していたリーナが、風のように動く。 彼女は馬車から持ち出した巨大な水袋を、ヴァルターの周囲に次々と投げ込み、切り裂いた。


「な、何を……!」


乾いた土が大量の水を含み、一瞬にして底なしの泥濘でいねいへと変わっていく。


「ばかな! こんな方法で重力魔法を……!」 「打ち消してはいませんよ。ただ、柔らかい泥が圧力を分散させ、僕への負担を減らしただけです」


ロランが地を蹴った。 泥が飛び散る。重力の影響はまだ残っているが、先ほどよりはるかに体が軽い。


タクティカル・ビューが、ヴァルターの剣の軌道を青い線で描き出す。 予測された未来をなぞるように、ロランは体を翻した。


「くっ……!」


ヴァルターの剣が空を切り、代わりにロランの刃がヴァルターの腕を浅く切り裂いた。


「貴様ぁッ!!」


ヴァルターが怒りに顔を染め、魔法を最大出力まで高めた。 凄まじい圧力が、再びロランを襲う。


だが。 その「力」が、皮肉にもヴァルターを追い詰めた。


「な……足が……!?」


重力を強めたことで、ヴァルター自身の見かけの体重も増加した。 さらに、足元は底なしの泥だ。 深々と沈み込んだヴァルターの足が、泥に囚われて抜けない。


ロランはその隙を逃さなかった。 全力の踏み込み。


カランッ――!


ヴァルターの剣が宙を舞い、泥の中に没した。 そして、ロランの刃が、ヴァルターの喉元でぴたりと止まった。


「……勝負あり、です」


静寂が、戦場を支配した。 誰もが目を疑っていた。魔力なき者が、王国最強の一角を知略で制したのだ。


「……参ったよ」


ヴァルターが、重い溜息とともに魔法を解いた。 その目には、驚愕と、わずかな尊敬の色が混じっていた。


「貴様、本当に魔力がないのか?」 「ええ。物理の法則を、少しだけ理解しているだけですよ」


ロランが剣を引くと、ヴァルターは約束通り、兵を退かせた。 街道の脇へとアシュベル軍が下がり、王都への道が開かれる。


「ロラン・フォン・アシュベル。……覚悟しておけ」


ヴァルターが去り際に、重い忠告を残した。 「次は、アーサー様が相手だ。あの方の重力魔法は、私のものとは比べ物にならない」


「わかっています、ヴァルター殿」


独立連隊が、開かれた道を進み始める。 兵士たちは歓喜の声を上げていたが、ロランは馬上で、激しい頭痛に耐えていた。


(熱い……脳が焼けるようだ……)


タクティカル・ビューの酷使によるオーバーヒート。 ふと、視界を上げる。


「あ……」


世界が、また一段と色を失っていた。 空の灰色はより薄く、仲間の服の色さえも、もはや判別できない。 光の強さ(ルクス)だけが、異常に鋭く目に刺さる。


「ロラン、大丈夫か!?」


アルベルトが馬を寄せてくる。 その心配そうな顔も、今はただの精巧な彫刻のようにしか見えなかった。


「大丈夫です。……ただ、少しだけ、景色が変わった気がするだけですから」


ロランは、灰色の世界を見据えた。 父、アーサーの待つ王都は、もう目の前だった。





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