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『神の視点 ~零式創世戦記~』  作者: noanoa
第5章:帝国の影

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第28話:森の中の鋼鉄


王都への道中、四日目。


独立連隊は、街道を外れ鬱蒼うっそうと茂る深き森を通過していた。 幾重にも重なる木々が日差しを遮り、辺りは昼間だというのに薄暗い。


ロランの瞳に映るのは、生命の緑ですら、冷え切った灰色の濃淡でしかなかった。


「主様」


不意に、馬の横を歩いていたリーナが足を止めた。


「……どうしました?」 「匂い。鉄と、油。それと――」


リーナの鼻腔が微かに動き、その目が獣のように鋭く細められる。


「人間。たくさん。……潜んでる」


ロランは即座に右手を上げ、後続に合図を送った。


「停止! 全員、警戒態勢!」


乾いた号令。 兵士たちが素早く獲物を構え、周囲を囲む沈黙を警戒する。 荷馬車の車輪の音が止まり、森に張り詰めた緊張が走った。


「リーナ、どの方角から?」 「前方、左右両側。……囲まれてる」


リーナの囁き。 ロランは深く息を吐き、意識を脳内の演算領域へと沈めた。 『タクティカル・ビュー』、部分起動。


視界に青いグリッドが走り、周囲の地形、木々の密度、風の流れが数値化されていく。 そして――見つけた。


森の茂みの奥、異常な熱源反応と金属のノイズ。 数は、約五十。装備は――明らかに重装だ。


(帝国軍の別動隊……。やはり、来たか)


「皆さん、落ち着いて聞いてください。間もなく、敵の襲撃が始まります」


ロランは努めて冷静な声を、兵士たちへ届けた。 彼らにとって、軍師の「冷静さ」こそが最大の精神的支柱であることを知っているからだ。


「ハンスさん、重装歩兵を前線へ。ケント、弓兵を後方で散開させてください。ガルドさんは、アルベルト様を死守」 「「了解!」」


陣形が整いかけた、その瞬間だった。


シュッ、と鋭い風切り音がし、森の左右から矢の雨が降り注ぐ。


「伏せろッ!!」


ハンスの咆哮。 兵士たちが一斉に身を低くし、頭上を通過する矢をやり過ごす。 直後、茂みを踏み荒らす激しい駆動音と共に、鋼鉄の影が飛び出してきた。


魔導外骨格を装着した、帝国の特科兵たち。 その数、約五十。


「独立連隊を包囲せよ!」


先頭に立つ指揮官が、機械的に増幅された声で命じる。


「軍師ロラン・フォン・アシュベルを捕らえろ! 生死は問わん!」


彼らの狙いは、やはり「ロラン」という個人の排除。 帝国の脅威となる思考を、ここで摘み取ろうという腹積もりだ。


「ケント! 指揮官を狙いなさい!」 「了解ッ!」


ケントが電光石火の速さで矢を番え、弦を引き絞る。 放たれた一矢は真っ直ぐに指揮官へ向かったが――。


ガギィンッ!


鈍い音と共に、魔導装甲が矢を弾き飛ばした。


「無駄だ! 貴様ら弱小組織の攻撃など、この最新鋭装甲の前では――」 「魔導外骨格だろうが、関係ねえんだよッ!!」


怒声を上げたのは、ガルドだった。 巨体そのものを砲弾のようにして、最前線の帝国兵に体当たりを食らわせる。


ドォォォォンッ!


凄まじい衝撃。 いかに機械の補強があるとはいえ、ガルドの規格外の怪力までは相殺しきれない。 吹き飛ばされた帝国兵が木々に激突し、森を揺らした。


「くそっ、あの巨人を止めろ!」


帝国兵たちがガルドへ集中する。 その隙に、ハンスが側面から槍の壁を押し込んだ。


だが、帝国軍の装甲は手強い。 魔導の力で強化された彼らの突進に、じわじわと連隊の陣形が削られていく。


(このままでは、磨り潰される……)


ロランの脳内で、演算が限界まで加速した。 敵の装甲厚、動作の周期、そして排熱パターン。 青い光に満ちた視界の中で、ある一点が激しく明滅し始める。


(見つけた。……排熱口!)


外骨格は、その高出力を維持するために膨大な熱を発する。 その熱を逃がす背部のスリット――そこだけは、防御が極端に薄い。


「ケント! 敵の背中、排熱口の隙間を射貫いてください!」 「背中……あんな小さな穴をか!?」 「ええ。そこが唯一の、そして決定的な弱点です!」


ケントは唇を噛み、ロランの言葉を信じて再び弓を構えた。 乱戦の中、高速で動く背後を狙う。 至難の業。だが、ロランが見据えた「未来」にケントが応える。


深呼吸。心拍を合わせ、弦を解く。


カシュッ――!


放たれた矢は、吸い込まれるように帝国兵の背後へ突き刺さった。


「な、何っ……熱が逆流して――ぐああああっ!」


直後、帝国兵から噴き出したのは、凄まじい蒸気と火花。 オーバーヒート。回路が焼き切れ、鋼鉄の兵士がただの重石と化して崩れ落ちる。


「今です! 一気に畳み掛けなさい!」


ロランの号令一閃。 戦況は瞬時にひっくり返った。 次々と背後の急所を抜かれ、魔導兵たちが無残に沈んでいく。


「退け! 一旦森の奥へ撤退だ!」


指揮官が苦渋の決断を下し、背を向けて逃げ出そうとした。 しかし。


「……逃がさない」


影が、その退路に立ち塞がる。 リーナだ。 音もなく森を駆け抜けた少女の短剣が、指揮官の装甲の継ぎ目、首筋の軟組織を的確に捉えていた。


「動いたら、殺す」


低く、温度のない声。 戦闘は、独立連隊の完全勝利に終わった。


     *


その夜。 森の奥深くで、独立連隊は静かに野営を敷いていた。 パチパチと爆ぜる焚き火の炎。 ロランの目には、その火さえも灰色の影でしかなかったが、伝わってくる熱だけが心地よかった。


「先生、今日はお見事でした」


隣に座ったハンスが、シチューの入った椀を渡してくる。


「先生がいなきゃ、あの鉄屑どもに踏み潰されてた。……改めて思ったぜ。俺たちは、先生の命を守るために戦ってるんだってな」 「……買い被りすぎですよ」


ロランは小さく苦笑し、椀を受け取った。 やはり、香りはしない。味も、わからない。 ただ、温かいという事実だけがそこにある。


「主様」


寄り添うように座ったリーナが、いつものようにロランの食事を手伝い始める。


「これは、ウサギ。森の走り回った力強い味」 「これは、根菜。冷たい土を跳ね除けた甘い味」


リーナの囁きが、味覚の死んだロランの脳内に「色彩」を連れてくる。 彼女の声を通してのみ、ロランはかつて愛した世界の味を思い出すことができた。


「ロラン、今日は本当に助かった」


火の向こう側から、アルベルトが微笑みかける。


「君がみんなを導き、みんなが君を守る。……この絆がある限り、私たちは王都へ辿り着ける」


ロランは答えず、静かに灰色の炎を見つめていた。 失われた色彩、消えた味覚、衰える嗅覚。


それでも。 仲間たちの放つこの「温かさ」だけは、何物にも奪えない。


(僕は、一人じゃない……)


その確信を胸に、軍師は次の策を練る。 王都ルミナス。父アーサーとの再会。 その時は、刻一刻と近づいていた。





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