表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『神の視点 ~零式創世戦記~』  作者: noanoa
第4章:灰色の勝利

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/120

第25話:限界を超えて


アルベルトの剣が、爆発的な金色の光を放った。 制御不能な魔力の奔流。 それでも、王子は歯を食いしばり、その一撃を振り下ろした。


鋼鉄の拳と、光の刃が正面から激突する。


ガキィィィィィィンッ!


鼓膜を突き破るような衝撃音が平原を震わせた。 すさまじい衝撃波が周囲の兵士をなぎ倒し、アルベルトの体は木の葉のように吹き飛ばされる。


「アルベルト様ッ!」


ハンスの叫びが響く。 地面に叩きつけられた王子は、ぴくりとも動かない。 だが――その決死の一撃は、確実にゼノスの魔導外骨格に亀裂を刻んでいた。


「くそっ……! なぜこれほどの出力が……!」


ゼノスが毒づく。 膝の関節部から火花が散り、鋼鉄の巨躯がわずかにたわんだ。


その隙を、満身創痍のガルドが逃さない。


「先生を……守るッ!」


血塗れの巨漢が地を蹴った。 肉弾戦。文字通り肉の壁となってゼノスに体当たりをかます。 鈍い衝突音と共に、ゼノスの姿勢が崩れた。


「邪魔だ、この虫ケラがッ!」


機械の拳がガルドを打ち据える。 再び吹き飛ばされる仲間。それでも、彼らはロランへの道を死守していた。


「ガルドさん、もうやめてください……!」


ロランが叫ぶ。 脳内温度は、すでに沸点に近い。 視界は激しく揺らぎ、思考のノイズが鳴り止まない。 だが、このままでは仲間が全滅する。


(僕が……やらなければ。僕にしか、できない方法で……!)


ロランは奥歯が砕けるほどに噛み締めた。 そして――『タクティカル・ビュー』を、生存限界を超えて起動させる。


視界が、完全に青い幾何学模様に埋め尽くされた。 世界のすべてが数式へと分解され、再構築されていく。


ゼノスの魔導外骨格。 その複雑怪奇な構造。動力源である魔導石。 ロランの演算は、さらにその深淵へと潜り込む。


魔導石から供給される膨大な魔力。 それを全身へ伝える、毛細血管のような術式回路。 つまり――。


(「回路」がある。ならば、焼き切れるはずだ……!)


物理的な装甲を抜く必要はない。 内部の神経系に過負荷を与えればいい。


だが、どうやって? ロランの視界の端に、倒れたアルベルトが映る。 その体からは、いまだ制御を失った金色の魔力が陽炎かげろうのように漏れ出していた。


暴走する、莫大な余剰魔力。 これを――『変数』に加える。


「アルベルト様ッ!」


ロランの必死の叫びに、王子がわずかに指を動かした。


「まだ……立てますか……! お願いです、あなたの魔力を全開放してください!」 「全開放……? でも、僕にはもう制御が……」 「大丈夫です! 制御は、僕が肩代わりします!」


アルベルトが、魂の底から力を振り絞って立ち上がった。 金色の光が、爆炎のように膨れ上がる。


「リーナッ!」


ロランが懐から、エレンから預かっていた予備の魔導石を投げた。


「ゼノスの背中――冷却装置の破損箇所へ、それを叩き込んで!」 「……わかった!」


風を切る少女の影。 リーナは音もなくゼノスの死角に滑り込み、破損した装甲の隙間へ魔導石を捩じ込んだ。


「何をする気だッ!?」


ゼノスが腕を振り回すが、もう遅い。


「アルベルト様、今ですッ!」


ロランの指示。 アルベルトから溢れ出た光の奔流が、投げ込まれた魔導石に引き寄せられるように収束した。


バチィィィィィィンッ!


雷鳴のような放電現象が起きた。 制御を失った高密度の魔力が、回路を通じて逆流し、魔導外骨格の内部回路を一瞬で焼き切る。


バチバチッ、と派手な火花が散り、黒煙が上がる。 鋼鉄の巨躯から駆動音が消えた。


「な、何……動かん!? なぜだ、魔力はまだ残って……!」


ゼノスは、沈黙した鉄の塊の中で絶叫した。 術式回路の全焼。魔導外骨格、完全停止。


「やった……のか……?」


ハンスの声が震える。 指揮官を失った帝国軍に、動揺が走った。


だが、勝利の歓喜が広がる前に――。 ロランが、糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。


「ロランッ!」


駆け寄ったリーナが、絶句する。 ロランの目、鼻、耳。 あらゆる穴から、熱い鮮血が流れ出していた。


「脳内……温度……限界、突破……」


消え入るような呟き。 リーナに抱きかかえられたロランの体は、火傷するほどに熱かった。


そのまま、ロランの意識は深い闇へと沈んでいった。


     *


四日目の朝。 ロランは、ようやく意識の底から這い上がった。


「……ここは?」 「主様ッ!」


すぐ側にいたリーナが、涙を浮かべて顔を近づける。 その声に安堵し、ロランは彼女を見つめた。


だが――。 リーナの銀髪も、赤い頬も。 窓から差し込むはずの朝陽も。 すべてが、冷え切った灰色の濃淡でしか存在しなかった。


(色彩が……完全に消えた……)


愕然とする。 色彩だけではない。 リーナが握ってくれている手のぬくもりはわかる。 だが、部屋に漂うはずの薬草の匂いも、ガルドの料理のかんばしさも、一切感じられなかった。


「主様、どうしたの……?」 「……いえ。なんでもありません」


ロランは、弱々しく嘘をついた。 自分を案じるリーナを、これ以上絶望させたくなかった。


そこへ、エレンが入ってくる。 冷静な彼女の目にも、隠しきれない安堵があった。


「ロラン、勝ちましたわ。帝国軍は完全に撤退しました」 「……そうですか」


勝利。その言葉だけが、今のロランを繋ぎ止める。 だが、エレンは椅子に座り、厳しい顔で告げた。


「あなたの体、もう深刻なレベルを超えていますわ。三日間、四十度以上の高熱が引かなかった。脳が……焼けついているのよ」 「覚悟、していたことです」


ロランは静かに答え、エレンの握る手の強さを、無感覚な指先で確かめた。


     *


その夜。 一人の見舞い客が、ロランの部屋を訪れた。


「ロラン。君のおかげで、僕たちは生き残れた」


アルベルトだった。 ロランは、主君の顔をじっと見つめ、静かに切り出した。


「アルベルト様……お願いがあります。私の、この状態……誰にも言わないでください」 「状態……?」 「色彩が、消えました。味も、匂いも……。タクティカル・ビューの代償です」


アルベルトの顔から、血の気が引く。 王子の瞳に、大粒の涙が溜まっていく。


「ロラン……君は……そんな、そんな代償を払ってまで……!」 「大丈夫です。まだ、戦術は練れます。あなたの隣に立つことはできる」


ロランは灰色の世界の中で、無理に微笑んでみせた。


「お願いです。仲間を心配させたくない。……これは、僕とあなたの『秘密』にさせてください」 「……わかった。約束する。君の苦しみは、僕が半分背負う」


     *


翌朝。 ロランは気力を振り絞って立ち上がった。 食堂へ向かうと、仲間たちが歓声で彼を包む。


「先生! 無事でよかった!」 「ゼノスを倒すなんて、やっぱり先生は最高だぜ!」


ハンスや兵士たちの笑顔。 だが、ロランにはそれらがすべて灰色の影絵にしか見えない。 ガルドが差し出した熱いスープ。 匂いもしなければ、味もしない。ただ温かいだけの「液体」を、彼はいつも通りの表情で飲み干した。


「ロラン。……これからの話をしましょう」


食後、エレンが地図を広げた。 その指が示すのは、エモンよりもさらに遠き地。


「帝国はまた来ます。そしてエモンも、もはや安全な場所ではない。……私たちは、次へ行くべきですわ」 「……レガリア王国の王都。ルミナスですね」


ロランの言葉に、場が静まり返る。 そこは、ロランを『無能』として追放した父、アーサーの待つ場所。


「アルベルト様を、真の王とするために。……避けられぬ道です」


ロランは頷いた。 五感の大部分を失い、世界から輝きが消えても。 軍師の魂までは、まだ死んでいない。


たとえこの身が最後の一片になるまで削れようとも。 彼は、灰色の世界を突き進む決意を固めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ