表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『神の視点 ~零式創世戦記~』  作者: noanoa
第3章:経済という戦場

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/17

第16話:金の亡者たち


アイギス砦での激闘、そして倉庫街での鮮やかな解決。 それから一週間。 独立連隊の評判は、驚くべき速さで水の都エモンを駆け巡っていた。


「聞いたか? あの『零級者』の若造、実はとんでもない策士らしいぞ」 「倉庫街の『幽霊』を一晩で暴いたんだとよ。衛兵も真っ青だ」 「アイギス砦を守ったってのも、どうやら本当らしい……」


 商人たちの噂話は運河を流れ、酒場の喧騒に混じり、街の隅々まで染み渡っていく。  それに伴い、独立連隊の拠点には依頼が殺到していた。


 ロランは、エレンの執務室で積み上げられた依頼書の山を眺めていた。


「商隊の護衛が五件、倉庫の警備が三件…… それから、密輸団の摘発が二件ですか」


「ええ。あなたたちの『相場』は今、エモンで最も高騰しています。 これなら、当初の予定より早く自立できそうですね」


 エレンは満足げに眼鏡のブリッジを押し上げた。  彼女は手際よく依頼書を三つの山に分け、最も効率よく利益を出せるものを選別していく。



 その日の午後。  ロランは商隊護衛の任務で、エモン近郊の街道を歩いていた。  ハンス率いる二十名の兵士が、商人の荷馬車を前後から固めている。


「先生、この仕事は楽勝ですな。道は平坦、山賊の影もねえ」


 若手兵士のケントが、弓を肩に担いで緊張感のない声を漏らす。


「油断しないでください。平和な時こそ、変数は隠れているものです」


「はいはい。先生は心配性だなぁ」


 ケントが笑った、その瞬間。  隣を歩いていたリーナが、急に足を止め、耳をそばだてた。


「…… 主様。 匂い」


「リーナ、何が?」


「血。 …… それと、火薬の焦げた匂い」


 ロランの背筋に冷たいものが走る。


「ハンスさん、停止! 全員、警戒態勢タクティカル・モード!」


 兵士たちが瞬時に武器を構える。  ロランはリーナと共に前方へ走り――街道の脇、茂みに放り出された「それ」を見つけた。


「…… 負傷者です。 応急処置を!」


 倒れていたのは、商人風の服を着た若い男だった。  体中を鋭い刃物で切り刻まれ、意識はない。


「ひでえ傷だ……。街道のすぐそばで、これほどの襲撃を受けるなんて」


ハンスが苦々しく毒づく。 ガルドが即座に駆け寄り、慣れた手つきで止血を始めた。


「エモン近郊で山賊、ですか。おかしいですね」


 ロランは周囲の状況を『タクティカル・ビュー』で走査スキャンする。  地面に残された足跡、馬の轍、そして血痕の飛び散り方。


「これは、単なる山賊の仕業じゃありません」


「どういうことだ、先生?」


「襲撃に一切の無駄がない。…… 目的は略奪ではなく、特定の『荷』の強奪です」



 エモンに戻ったロランたちは、救出した男を商会の医務室へ運び込んだ。  翌日、意識を取り戻した男――小さな商会の使いだという青年は、震える声で事実を語った。


「奪われたのは…… 最高級の香辛料です。 あれがないと、うちの商会は潰れてしまう……」


 医務室を出たロランを、エレンが待ち構えていた。  彼女の表情は、いつになく冷徹な輝きを帯びている。


「ロラン。この件、どう思いますか?」


「組織的、かつ計画的です。エモン近郊の警備状況を熟知している者の犯行でしょう」


「ええ。そしてこれは、大きな『釣り針』でもあります」


 エレンは一枚の肖像画をデスクに置いた。  そこに描かれていたのは、重厚な椅子に踏ん反り返る、肥満体で傲慢そうな中年男性。


「九商会長の一人。エモン中央銀行頭取、ボルドー・フォン・グラント。 …… 彼に会いに行きましょう」



 エモン中央銀行。  そこは、王都の宮殿さえ凌ぐほど、金と権力を誇示する装飾に満ちていた。  大理石の柱、金箔の彫刻、そして壁一面に飾られた「ボルドー」の肖像画。


 応接室で待っていたのは、肖像画以上に不遜な男だった。  ボルドーは葉巻をくゆらせ、ロランたちを「商品」でも見るような目で眺める。


「ほう。貴様らが噂の『独立連隊』か。 …… で、そっちの出来損ないが、王都を追われた亡命王子、アルベルトだな?」


「…… ボルドー卿。 ご健勝のようで」


 アルベルトが拳を握りしめ、静かに答える。


「哀れなものだ。王位を奪われ、毒を盛られ、最後は傭兵紛いのドブネズミ掃除か。 クク、レガリア王家の血も安くなったものだ」


 ボルドーの嘲笑が、豪華な部屋に響く。  彼はロランに向き直り、灰を絨毯の上に落とした。


「いいか。私は優秀な『道具』には投資を惜しまない。 貴様らのような泥臭い連中でも、私の犬になれば、金貨の山の上で寝かせてやろう」


「…… 犬に、なれと?」


「そうだ。私の署名一つで、エモンの物流は止まり、貴様らの命の価値さえ決まる。 逆らう愚かさは理解できるな?」


 ロランは静かに一歩前へ出た。  その瞳は、ボルドーの肥大した自尊心という「変数」を、冷徹に解析していた。


「申し訳ありませんが、ボルドー卿」


 ロランの声が、室内の空気を一瞬で氷つかせる。


「僕たちが守っているのは、あなたの金ではなく、僕たちの『意志』です。…… 不純物の混じったあなたのカネには、一価の価値も感じません」


「…… 何だと?」


「お断りします。あなたの所有物になるつもりはありません」


 ロランはアルベルトを促し、呆然とするボルドーを置き去りにして背を向けた。


「ま、待て! この無礼者め! 私を敵に回して、このエモンで生きていけると思うなよッ!」



 中央銀行を出て、馬車に乗り込んだ瞬間。  エレンはこらえきれず、クスクスと笑い声を漏らした。


「最高でしたよ、ロラン。あのボルドーが、あんなに真っ赤になるなんて」


「…… エレンさん。 これはあなたの狙い通り、ですね?」


「ええ。傲慢な独裁者は、怒りに駆られると判断を誤る。 彼は必ず、あなたたちを『排除』しようと強引な手段に出てくるでしょう」


 エレンは窓の外、夕日に染まるエモンの街を見つめた。


「その強引さこそが、彼の破滅を招く隙になります。…… さあ、始めましょう」


 エレンがロランを見つめ、不敵に微笑む。


「血を流す戦場は終わり。ここからは、一滴の血も流さず、相手の『価値』をゼロにする――経済戦マネー・ウォーズの始まりです」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ