表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『神の視点 ~零式創世戦記~』  作者: noanoa
第13章:グライゼル家の反逆

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/122

第95話:【エピローグ】大切な人を忘れる


王都ルミナス、帰還。


三日後。

独立連隊が、王都の巨大な門をくぐった。


視界に広がるのは、見慣れたはずの灰色の街並み。

そして、高輝度の輪郭を持つ群衆。

脳内演算(TV)のテロップが、無機質に流れる。


『現在地:王都ルミナスに到着』


メモを検索。

『王都ルミナス:首都。この個体の拠点』


僕は、指示通りに執務室へと向かった。

そこには、一人の高輝度な熱源ひとが待っていた。


メモを走査。

『個体名:アルベルト/定義:王、および友人』


「ロラン、帰ってきたんだね」


「……肯定。ただいま戻りました」


感情のピッチを排した、平坦な回答。


「僕のことが……わかるかい?」


「メモに記述があります。あなたは、僕の友人です」


アルベルトの吐息が、重く室内に響いた。

彼が発する熱量が、わずかに揺らぐ。


「そうか……。そう、書かれているんだね……」


扉が開き、別の熱源が飛び込んできた。

検索。

『個体名:リーナ/定義:大切な人』


彼女が僕の体に、強い物理衝撃ホールドを加える。

伝わってくるのは、高い体温だけ。


「主様! 私……私のこと、覚えてる……?」


「メモに記述があります。あなたは、僕の大切な人です」


高熱の液体が、僕の胸元を濡らした。

灰色の染みが、みるみる広がっていく。


「もう、本当に……私のことが、わからないんだね……」


「メモには、そう書いてあります」


「メモじゃない! 心で、心には残ってないの!?」


心――。

胸の鼓動を検知する。だが、その内部にデータは存在しない。


「心の中に何があるか。……判定不能。わかりません」


リーナが、獣のような声を上げて泣き始めた。


さらに別の熱源。

検索。

『個体名:ガルド/定義:料理番、仲間』


「俺のことまで……。俺が毎日作った飯の味も、全部忘れたってのか……!」


「再生不能。思い出せません」


ガルドが膝をついた。

その排熱は、絶望に近いものとして観測される。


アルベルトが、僕の肩に手を置いた。


「本当に……全部忘れたんだね。僕たちとの思い出を、すべて」


「何を忘れたのか、それ自体を認識できません。メモに記述された内容が、この個体のすべてです」


アルベルトの瞳からも、水分が溢れ出した。

なぜ、誰もがこの排熱処理なみだを止められないのか。

僕には理解できない。


――夜。

独りになった執務室で、ステータスを確認する。


『記憶破棄進行度:100%/完了』


過去の蓄積は、完全に消去された。

扉が開き、新たな熱源が入室する。


検索。

『個体名:エレン/定義:重要協力者』


「全部、捨てたのね」


「……肯定。消失しました」


「ロラン。明日から、バルムンク帝国との戦いが始まる」


メモを検索。

『バルムンク帝国:敵対国家。殲滅対象』


「戦える?」


TVがステータスを確認。

『演算能力:正常。戦術立案:実行可能』


「……戦えます。支障ありません」


「誰のために戦うの?」


メモをスキャン。

『戦う理由:仲間のため』


「仲間のためです」


「でも、その『仲間』が誰か、今のあなたには認識できていないはずよ」


「メモに記述があります。記述に従い、彼らを保護します」


エレンが僕の至近距離に立ち、まっすぐに視線を向けた。

色彩を失った僕の瞳を、覗き込むように。


「ロラン。一つだけ、覚えておきなさい」

「記憶がなくとも。感情がなくとも」

「あなたは、この世界を変える」


検索。

『使命:果たすべき役割』


「了解。遂行します」


彼女が去り、再び沈黙が訪れた。


窓の外には、色彩を失った灰色の王都が横たわっている。

TVが、次なるフェーズを表示した。


『次回任務:帝国陸上戦艦迎撃作戦/準備期間:百六十八時間』


僕は、新しい文字を壁の紙に刻んだ。


『大切な人たち:アルベルト、リーナ、ガルド、エレン』

『だが、誰が誰かは不明。顔も、声も、思い出も、すべて消失』

『なぜ戦うのか。……不明』

『なぜ生きているのか。……不明』

『それでも、戦いを継続する。メモを信じろ。TVを信じろ』


顔を上げれば。

執務室の壁一面が、びっしりと白紙メモで埋め尽くされている。


これが、僕の脳の外部ストレージ。

記憶の代替。感情の補填。

人間であった頃の僕が残した、唯一の抜け殻。


灰色の世界で。

ロランは、大切な人の名前すら「記号」として処理し、ただ立ち続けた。


大切な人を、すべて忘れて。

それでも――。

演算は、止まらない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ