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『神の視点 ~零式創世戦記~』  作者: noanoa
第13章:グライゼル家の反逆

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第94話:警告の言葉


グライゼル領、戦後。


灰色の陣営。

勝利という「結果」は出たが、歓声はどこにもない。

高輝度の熱源を囲む兵士たちの動きは緩慢で、一様に沈んでいる。


僕は天幕テントの中で、外部メモの文字を走査スキャンしていた。


『次:王都ルミナスへ帰還』


了解。

明日、この座標から移動を開始する。


その時、天幕の外から音響信号こえが届いた。


「ロラン様、捕虜の中にヴァルター・グライゼルがおります。彼が、貴殿への面会を……」


外部メモ、およびTV内のログを検索。

『ヴァルター・フォン・グライゼル:重力魔法使い。過去に二回の交戦記録あり』


エピソード記憶は、存在しない。

ただ、戦術データ上の「重要人物」と判定。


「……受諾。面会を許可します」


数分後。

灰色の男が、兵士に連れられて入ってきた。

黒い鎧。両手に繋がれた重い鎖。


ヴァルター・フォン・グライゼル。


「久しぶりだな、ロラン」


……久しぶり。

その単語に対応する記憶ディレクトリは、すでに物理的に削除されている。


「……覚えていないのか?」


ヴァルターの顔面筋が、歪んだ。

悲嘆。あるいは、憐憫。


「お前は変わったな。初めて会った時、その瞳には確かに光があった」

「二度目の時も、まだお前は『人間』だった」

「だが、今のお前はどうだ――。何も、感じていないのではないか?」


感じているか、否か。

センサーによる熱量や輝度の検知は正常だ。だが、ヴァルターが言う「感じる」は別の定義を指していると推測される。


「ロラン、聞け」


ヴァルターが、捕虜とは思えぬ鋭い視線を向けてくる。


「お前は、このまま進めば人間でなくなる。……いや、もうなりかけている」

「ただの演算装置だ。数値を管理し、命をただの『数』として処理する機械」

「そんなものは――人ではない」


定義の不一致。

演算能力の向上は、戦術的最適解を導くために不可欠だ。


「お前の仲間たちの熱源かおを見たか? 皆、恐れている。……お前という怪物を」


恐怖――。

彼らが僕に対して「回避・警戒」の信号を発している理由は、算出できない。


「お前の目は、もう死んでいるんだ。何も映していない。ただ、数式だけを見ている」

「ロラン、最後に一つだけ言わせてくれ」


ヴァルターが鎖を鳴らし、一歩前へ出た。


「止まれ」


「このまま進めば、お前は勝つだろう。すべての敵を倒し、すべての戦いに勝利する。だが――」


ヴァルターの瞳が、一瞬だけ強く発光したように見えた。


「勝った時、お前の隣には誰もいない」

「仲間も、友も、すべてを失っている」

「それでも……お前は、戦い続けるのか?」


問いに対する、解が出ない。

なぜ戦うのか。誰のために。

TVには、その「目的」を規定するプログラムが存在しない。


「……判別不能。回答を持ち合わせていません」


ヴァルターは、重く、長い吐息を漏らした。


「そうか……。もう、手遅れというわけか……」


男は、そのまま兵士に連れられて天幕を去った。


(勝った時、隣には誰もいない――)


反芻される音声ログ。

意味は、理解できない。


夜。天幕の外から、兵士たちの低い会話がノイズのように入り込む。


「……ロラン様、本当に大丈夫なのか?」

「死んでもいい、なんて。あんなの、もう……」

「ああ……。あれはもう、『人間』じゃないよ」


人間、ではない。


外部メモを再確認。

『個体識別名:ロラン・フォン・アシュベル/種族:人間』


記録メモには、人間と書いてある。

ならば、僕は人間であるはずだ。


「ロラン……。少し、話せるかな?」


高輝度の熱源が、許可なく天幕へ入ってきた。

検索。

個体名:『アルベルト』。


「……肯定。どうぞ」


「ロラン、君は……本当に、何も感じていないのかい?」


「判別不能。質問の意図が理解できません。『感じる』とは、具体的にどの感覚器の反応を指しますか?」


アルベルトの顔(熱源)が、激しく歪んだ。


「感じるっていうのは……喜びとか、悲しみとか、そういう感情のことだよ!」


「喜び――」


メモを検索。

『喜び:望ましい事象の発生に伴う、報酬系回路の反応』


「僕には、喜びは検出されません。同様に、悲しみも。怒りも。感情に分類される信号は、一切確認できません」


淡々と、事実のみを報告する。

アルベルトの瞳から、高熱の液体なみだが溢れ出した。


「そんな……。そんなことが、あっていいはずがない……」


「……ですが、問題ありません」


僕は、彼を安心させるために、外部メモを提示した。


「僕には、このメモがあります。記録された情報を、僕は『絶対』として処理します」

「メモには、『アルベルト:友人』と記述されています」

「だから、あなたは僕にとっての友人です。間違いありません」


アルベルトが、顔を覆って声を上げた。


「それは……。それは、友情なんて呼ばないんだよ……ッ!!」


「……そうですか」


なぜ彼が激しく排熱し、水分を流すのか。

僕には、もはや理解する術がない。


――翌朝。


独立連隊は、王都に向けて出発した。


『帰還ルート:最短経路を選択/所要時間:七十二時間』


灰色の馬に跨り、一糸乱れぬ行軍を先導する。


ヴァルターの警告が、ノイズのように脳内を明滅した。

(勝った時、隣には誰もいない――)


意味は、不明。

隣を見れば、リーナと呼ばれる個体が、馬を並べている。


彼女の表情は、暗い。

なぜか。……わからない。


灰色の空。灰色の大地。

すべてが、輝度と彩度の低い無機質な記号。


勝利という「結果」の後。

僕は、ただ、メモと数値の奴隷として、灰色の世界を進み続ける。





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