第六話「兄の事故の真相」
――「お前に大事な話がある...座ってくれ」そう言われて水蓮寺に座らされた美子。「...古屋」「もしかして...また冗談でからかうつもりですか?」「は?」「そんな真剣な顔して...騙されませんよ?今まで何回も騙されましたけど...」そう言って立ち上がろうとした。すると「ちゃんと聞け!お前の兄のことで話があるって言ってるんだ!」初めて声を荒らげる水蓮寺を見て美子は大人しく座った。「兄のことで話って...どういうことですか...?」「その前に、お前から兄のこと...教えてくれないか?」水蓮寺はいつもと違う優しい話し方で聞いてきた。「わかりました。私、両親を小学生の頃に亡くしてるんです...小学六年生の頃でした」―――
『ばいばーい!』友達と別れて家に帰った。家の前に着くと人がたくさんいた。『何かあったのかな?』人ごみを抜けて一番前に来ると自分の家の前には黄色いテープ、そして警察が立っていた。その間をすり抜けて家の扉の前へ行くとちょうど扉が開いた。そこから兄の涼が出てきた。当時、兄は中学生だった。扉を開けて私の姿を見るなり『来るな!早くこの家から離れろ!』と怒鳴られた。兄がそこまで感情的になることがなかったので私は驚いて声すらも出なかった。『早く!行くぞ!』そう言って家から離れようと兄が私の背中を押した時、家の中から担架に乗せられ顔が見えぬよう上から布をかけられた人が二人出てきた。小さいとはいえ、もう小学六年生だった私にはソレが何なのか一目でわかった。『...え』運ばれて行く担架を見ることしか出来なかった。すると私たちの目の前に男の刑事さんがやってきた。『君たち、ここの家の子かな?』驚きで声を出せずにいた私に変わって兄が答えた。『はい、こっちは妹です』そう言いながら私を自分の後ろに隠した。きっと知らない人に怖がっているのが分かったのだろう...。『少し話を聞かせて欲しいんだけど...いいかな?』『俺は構いません。現場を見たのは俺です。妹は今来たばかりで何も見ていないし、知りません』兄は私のことをちゃんと守ろうとしてくれた。『そうか、ならお兄ちゃんだけ来てもらおうかな?』『すみませんが、妹を一人にはしたくないので一緒に連れていきます。大丈夫か?美子...』刑事に向けてハッキリとした口調で話すと私の方を向いていつもの優しい表情で頭を撫でながら聞いてきた。『...うん』私はそう答えるのが精一杯だった。何の話をするのかは少しは分かる...だけど今は兄と一緒にいたかった。
パトカーに載せられ警察署に着くと広い会議室のようなところに案内され、飲み物を出してくれた。『それで、一応第一発見者のお兄ちゃんに話を聞きたいんだがいいかな?』そう言うと刑事さんの隣にパソコンで記録を入力する別の刑事さんが座った。『...はい、俺は学校が少しだけ早く終わったのでそのまままっすぐ家に帰りました。そしたら...』『お父さんとお母さんが亡くなっているのを発見してしまったんだね?』『はい...犯人らしき人は誰もいなくて、両親が血まみれで横たわっているのだけが見えました...』本当は思い出したくもないはずなのに記憶を無理やり思い出して話す兄を見て私は思わず拳を握りしめた。『家の中の状態はどうだった?』『荒らされた感じもなかったので...強盗とかではないかと俺は思います』『その...言い難いんだけどさ、君たちのお父さんは昔刑事だったと聞いたのだけど...おじさんは会ったことはなくてね』『父が刑事だったのは俺が生まれて間もない頃までです。だからその記憶はあまりありません』まっすぐ前を向いて話をする兄。『そうか、ならお父さんの刑事時代の周りの人物とかも知らないという事だね?』『はい、全く知りません』『なるほどね...その辺はこちらで調べて必ず犯人を捕まえるからね』刑事さんはパソコンで入力していた刑事さんに声をかけると立ち上がり、私たちの頭を撫でると『両親がいなくなったんだ...君たちおじさんのお家で預かることも出来るけど...どうかな?』『...え』私はその言葉に顔を上げると兄に見られていることに気づいた。きっと兄は私の考えを尊重するだろう...。そう思っていると『いいえ、大丈夫です。俺たち二人で生きていけますから』そうキッパリと言い放つと『では、失礼します。美子行くぞ』私の手を引いてその場を去った。―――
「その時の刑事さんが...栗田警視総監です」「そうだったのか...だからお前はあの人が苦手なんだな」水蓮寺は何かを見透かしたように話した。「え...そう見えますか?」「両親を殺した犯人を捕まえられなかった栗田に対して苦手意識が出てる感じがしたからな...」そう言うと水蓮寺は美子を連れて医務室を出た。「水蓮寺さん...?」「もうすぐここは閉園する...だから場所を移動するぞ」「は、はい...」途中まで話すと水蓮寺と美子は遊園地を出た。水蓮寺は用意していた車に近づくと鍵を開けて美子を助手席に乗せた。「水蓮寺さんって車運転できたんですね」「当たり前だろ...刑事がパトカー運転できないとダメだろ」そして水蓮寺も運転席に乗るとエンジンをかけた。「で...その先はどうなんだ?」「へっ!?」すっかりと気を抜いていた美子は驚いて水蓮寺の方に顔を向けた。「だからさっきの話だ、続きを話せ」「あ、は、はい!それで...栗田刑事の元を離れた私たちは...ホントに二人で暮らすことにしたんです。もちろん、二人とも学生なのでお金なんてほとんどありませんでした」――
とにかく両親の亡くなった家にはいたくなくて、すぐに家を引き払うことになった。しかし事故物件と登録されたため、お金もあまり貰えなかった私たちはしばらくはインターネットカフェで過ごすことにした。兄は中学に行きつつ夜はバイトをしてお金を稼いでいた。私は小学校に通いながらも友達や先生にはインターネットカフェで過ごしていることは黙っていた。これは兄との約束だった。昼は中学へ行き、夜はバイトをして朝に帰ってきたと思ったらすぐに学校へ行く、そんな生活を送ってきていたが...兄の体力も限界が来ていた。そんな時、一通の封筒が届いた。『...手紙?』封筒を開けると小さな手紙と通帳とカードが入っていた。手紙の内容はこうだった...[この通帳は古屋圭司の物です。あなたたちに託しますので困った時に必ず使ってください。]そう書かれていた。『お父さんの...?』手紙の裏には[追伸、怪しいと思った場合はこちらに電話してください。怪しくないということを証明します。]と電話番号も書かれていた。『お兄ちゃん...』『大丈夫だ、俺ちょっと電話してくる』そう言い残すと私を部屋に残して出ていった。
『もしもし...涼です』《君が涼くんだね、お父さんのように警察になるのが夢だったんだろ?》『はい...でももうその夢も諦めないといけなくなりそうです...』悔しそうに話す涼。《だからその通帳に入っているお金を使うといい。入学金だけでなく、君たちの家を借りるお金や多少の生活費とかにも困らないはずだよ》『...ほんとに父のなんですか?』《通帳を見ただろ?お父さんの名前が書いてあったはず、遠慮しなくてもいい...ちゃんとお父さんから君たちにと預かっていた》少し考え込むと涼は『はい、ありがとうございます』と二つ返事をした。兄が誰とどんな内容を話していたかは知らなかったが...戻ってきた兄の表情はとても柔らかく微笑んでいた。『お兄ちゃん?』『美子、お金ができたから家を借りようか!』そう言いながら封筒に入っていた通帳を見せてきた。兄は今年から警察学校に行くため、家がどうしても必要だった。『俺は警察学校に行くからしばらくは帰って来れない、そんな中一人でネットカフェを彷徨わせるわけにはいかないから、今のうちに家をすぐ借りよう』『うん!』そして私たちは兄の通う警察学校からなるべく近いところのマンションを借りた。
その後、私が高校に入学した頃、兄が警察学校を卒業した。警察学校に通っていた頃も兄はたまに家に帰りわたしの勉強を見たりしてくれていた。『お兄ちゃん!警察学校卒業おめでとう!』『ありがとう、美子!』兄は警察学校を無事卒業すると横浜の交番勤務となった。帰りはそこまで遅くなく、警察学校にいて帰って来れなかった分私と一緒の時間を多くとってくれた。夕方には帰ってきて夕食を一緒に作ったりもした。『警察になったお兄ちゃんね、クラスの中で人気なんだよ!』『え、俺が?そんな人気になっても困るなぁ...』笑いながらそんな会話をする。『でも...お兄ちゃんは絶対に誰にも渡さないもんねー!』『分かってるよ、俺は美子から離れたりしないよ』そう言うと私の頭を優しく撫でる兄。
そして私が高校二年になった頃、兄は横浜県警の刑事になることが出来た。『やっと...やっとお兄ちゃんの夢が叶ったね!』『これからは前のように帰りが必ず早いわけじゃないから...一人で大丈夫か?』刑事になった兄はもちろんいろんな刑事事件に関わることになる。だから帰りが遅い日もあれば帰って来れないことも...そんなことを心配する兄を私が寂しがって困らせるわけにはいかない。『大丈夫だよ!もう高校二年なんだよ?料理もできるし、お兄ちゃんのために料理も作るからね!』そう言って笑ってみせた。『...うん、変な男に捕まるなよ?彼氏とかできたらすぐ言え?お兄ちゃんが見定める!』『もう...大丈夫だよ!お兄ちゃんの妹なんだからね?』変なとこ心配症だなと思い、笑いながら兄の背中を押す。『じゃあ...行ってくるな』
しばらくして兄に相棒が出来た。家に帰ってくる兄はいつも相棒の話をしていた。『あいつはホントに良い奴なんだよなぁ...まぁちょっと口は悪いけど』『そんなに仲良いんだね』ちょっぴり嫉妬するけど...楽しそうな兄を見て私も嬉しくなった。『でも相棒が出来たってことはホントに危険な事件とかも関わるんでしょ?気をつけてね?』『ん?わかってるよ、大丈夫!』そう言って私の頭を撫でた。何歳になっても兄に頭を撫でられるのは嬉しいし、幸せな気持ちになる。『いいなぁ...私も刑事になったらお兄ちゃんと一緒に仕事できるのかな?』『美子も刑事になるのか?でも俺にはもうあいつがいるから無理だろうなぁ』クスクス笑う兄に対して頬を膨らまして『もぉ!私だってお兄ちゃんと仕事したいし!』私も冗談っぽく怒ってみせた。こんな生活が楽しくて、いつまでも続くと思っていた。その時は...。
それから私が高校三年生になった時だった。『お兄ちゃん今日は大きな事件担当するんでしょ?』『あぁ、前から追ってた事件なんだよ』『絶対に気をつけてね?』朝、二人でご飯を食べながら私は兄に話した。『あ、今日さ帰ってくるの遅くなる?』『んー...その事件の犯人を捕まえれたらすぐに帰れると思う。調書とかは他の刑事さんが担当だからね』『ほんと?じゃあ久しぶりに一緒にご飯作ろ!』そう言うと私は携帯で料理を調べた。『そうだな、久しぶりに一緒に作ろう!』優しく笑うとご飯を食べ終え、私と兄は一緒に出て行った。マンションを出ると兄はいつものように『じゃ、行ってくるな!美子も行ってらっしゃい』そう言って後ろを向いて歩き出す。『お兄ちゃん!』私は歩き出す兄を呼び止めた。兄は振り返り『ん?どうした?』『...絶対に気をつけてね?絶対だよ?』そう言うと兄はポケットから私があげたお守りを出すと『これがあるから絶対に大丈夫だ!』と言って笑った。『...うん、そうだね!行ってらっしゃい』『行ってきます』そして兄は再び歩き出すと行ってしまった。
兄が刑事になってから何度も危険な現場に行ったり、事件を捜査したりしていたのに何故か不安になり胸騒ぎがした。これで最後なんじゃないかと...でも最後に見せた兄の笑顔はいつも通りで、その不安は不思議と消え去った。そして私は夜ご飯のメニューを考えながら学校へ行った。一瞬の胸騒ぎが的中するとは...その時は思ってもいなかった。
それは突然起きた。授業中に他の先生が慌てて入ってきて私を呼んだ。『古屋!すぐに来い!』『え...?』『お兄さんが...』その言葉で私の脳裏には嫌な予感しかなかった。教室を出て先生の車に乗ると説明してくれた。『お兄さんが事故にあったそうだ、すぐに病院まで送る』『...はい』落ち着いたように見えるが心臓ははち切れそうだった。
病院に着くと案内されたのは手術室の前でもなければ病室でもない...そこは、死んだ人を運ぶ霊安室だった。霊安室の前には当時はもう警視総監になっている栗田がいた。私は一礼する余裕もなく霊安室に入った。顔には布が被せられていた。布を取ると事故とは思えないほど綺麗な顔だった。『...お兄ちゃん』『古屋くん捜査中だったそうだ...』『捜査中...』『車が崖から落ちて...ほとんど即死だったそうだ』栗田はゆっくりと説明してくれた。『そうですか...』私は現実を受け止めきれず霊安室を出た。椅子に座っていると栗田が来た。『...これ、古屋くんの手に握られていたそうだ』そう言って渡してきたのは私があげたお守りだった。それを見た瞬間に我慢していた涙がどっと溢れてきた。『...っ、な...んで...お兄ちゃんッ...』『美子ちゃん...』『...ッごめ...なさい...』私はその場にいたくなくて立ち上がって走り出した。すると霊安室から出てきた男の人とぶつかってしまった。『ッ...!す、すみません...』涙で視界が歪んでいて誰なのか分からなかったがその人は私を見て『...大丈夫だ』そう言うと去っていった。そこから私は病院のトイレで気が済むまで泣いた。――
「そこから...どれだけ泣いたかは覚えていませんが、泣き終えたあとはもう暗くなっていました」夜の街を車で走りながら全てを話した。その間、水蓮寺は黙って聞きながら運転していた。「そうか...それで古屋は刑事になろうとしたわけか」「...刑事になろうと思ったのは兄に憧れてというのもあったんですが...兄の死の真相を確かめるためなんです」「え...」水蓮寺はチラッと美子を見た。「...あの後、家から兄の手帳が見つかったんです。その手帳には兄が何かの事件をみんなには内緒で捜査していたような内容が書かれていました」「その手帳...」水蓮寺は何かを思い出したのか車を路肩に止めた。「水蓮寺さん...?」水蓮寺は鞄から自分の手帳を出すと写真を取り出した。「その手帳ってこれか?」水蓮寺が見せた写真には美子の兄の涼が嬉しそうに手帳を見せている写真だった。「え...水蓮寺さん...これって...」「古屋、兄のこと...両親のことを全て話してくれてありがとう...次は俺が全て話す番だ」そう言うと水蓮寺はシートベルトを外して美子の方に体を向けた。「え...」「俺は...古屋涼、つまりお前の兄のかつての相棒だ」今までみたいな冗談ではなく真剣に話す水蓮寺に美子はからかっているわけではないとすぐに分かった。「...水蓮寺さんがお兄ちゃんの相棒...?」「あぁ、当時俺たちは横浜県警の刑事...相棒だった」――
当時、横浜県警の刑事になって間もない俺と涼は仲が良かった。性格は全くの正反対だったが...。俺はこんな性格だから周りに人が寄り付かない、だけど涼だけはそんな俺の傍に来てうるさく付きまとった。『お前、いつまでついてくるんだ』『いつまでって...水蓮寺が俺を認めてくれるまでだな!』『はぁ...うざい』そう言いながらも嬉しかった。こんなに声をかけてくるやつはいなかったから...。涼はずっと俺に話しかけてきて俺の心を開いた...というよりこじ開けてきた。結局、俺たちは相棒を組んだ。二人で事件を捜査すれば解けない事件はないって思ってた。『お待たせ光!』『遅いぞ、涼』俺たちはいろんな捜査に出動しては事件を解決し、横浜県警では優秀コンビ扱いされていた。しかしその反面よく思っていない奴らもいたと思う。そんな奴らにも気にせず振る舞う涼が凄いと思った。俺にとっては涼は光だった。『お前って光だよな』『え?』『お前は光で俺が影...陰と陽って感じだな』そう言うと涼は笑って『光って...お前じゃん』『は?』『水蓮寺光、お前の方が完全に光じゃん』そんなことを言われたのは初めてで...俺は唖然としたが次に笑いが込み上げてきて爆笑した。『ぷっ...はは!そんなこと言うの...涼だけッ...ははッ!』俺があんなに笑ったのはあれが最初で最後だと思う。そうやって涼は俺にとって必要な人物になった。
涼には妹がいた。俺はあったことはないが、いつも写真を見せてきては自慢してきた。『可愛いだろー?俺の妹!』『あぁ...』『光、思ってないな?』疑いの目で見てくる涼。そりゃ三十回以上も見せられたらな...と思った。『思ってるって...俺の女にしたいくらい』『え!そ、それはダメだ!美子は誰にも渡さないからな!』冗談で言うとかなり焦っていた。そんな様子も面白く、笑ってしまった。毎日が楽しかった。
いつからか涼が俺に対してよそよそしくなり、一人での行動が多くなった。それに何かを隠しているようにも見えた。だが俺はそれに対して何かを聞いて問い詰めるより涼が話したくなったら話してくれるだろうと思っていた。
だけどあの日...涼が事件の犯人を追跡中に事故にあった。病院に行くともう涼は息を引き取った後だった。霊安室に入り涼の姿を見ると出てくるはずの涙は出なかった。『あぁ...やっぱり俺は冷めた人間なのか...』そう思いながら霊安室を出ると女の子とぶつかった。女の子は顔を上げると大粒の涙を流しながら謝ってきた。顔を見ただけですぐに分かった。あ、涼の妹だ...。何度も写真で見せられてきたから分かる。こういう時、どういう言葉をかければいいか分からず『...大丈夫だ』とただ一言しか言えなかった。その後、女の子の元を去った俺は病院の屋上に行き、煙草を吸っていた。その時初めて...涙を流していることに気づいた。『...泣けるんだな、俺』あの子の涙を見てから何故か涙が止まらなくなった。―――
「...これが俺が話せる全てだ」「水蓮寺さん...」水蓮寺はシートベルトを締め直すと再び運転した。「...俺が兄の相棒だと知ってガッカリしたか?」「...え」「兄が嬉しそうに話していた相棒の正体が俺だと知って...ガッカリしたか?」水蓮寺は前を真っ直ぐ向いたまま聞いた。「...いえ、そんなことは...」「...そうか」そこからは美子も窓の外を見つめたまま、水蓮寺は前を向いたまま運転をし...静かに街を走った。
マンションの駐車場に車を停めると美子が口を開いた。「あの...」「なんだ?」「...す、水蓮寺さんが相棒なら...どうして兄と一緒に車に乗っていなかったんですか?」「...え」「水蓮寺さんが兄と一緒に乗っていたら...兄は事故になんて合わなかったかもしれないのに!」美子は水蓮寺に怒鳴った。水蓮寺は何も言わず反論もせずに聞いていた。「...どうして...ッそんなんで相棒って言えるんですか!なんで...お兄ちゃんと一緒に...ッ」もう涙は止められなかった。水蓮寺が悪いわけではないことは分かっていた。水蓮寺を責めても意味ないと分かっていたが...ここまでずっと我慢してきた何かが吹っ切れてなのか...誰かを責めずにはいられなかった。美子は涙を流しながらシートベルトを外して車を降りた。「...もう、水蓮寺さんが信じられません...!顔も見たくないです...!」そう一言残すと車のドアを乱暴に閉めて家に入っていった。残された水蓮寺はエンジンを止めると煙草に火をつけた。「...信じられない...か...相棒ってなんだろうな...俺はあの時、どうしたらよかったのかな...涼」そう呟くと車を降りて家に入った。




