第五話「危険な遊園地!三課全員出動!」
『お兄ちゃんって、何でいつもスニーカーなの?』『ん?それはね...』――
――朝、美子は珍しく早く目覚めた。時間があった美子は部屋の掃除を始めた。
「朝から掃除するとやっぱりスッキリするなぁ...あれ?なんだろ...これ」掃除をしていると紙切れが出てきた。「紙...?これって手帳の切れ端?」いつも持ち歩いている兄の持っていた古い手帳の切れ端だった。しかし何が書いてあるか滲んでいて読めなかった。「んー...読めないな...」仕方なく手帳に紙切れを挟むと鞄にしまった。
三課に行くといつものように水蓮寺は奥にあるソファで寝ていた。「おはよう、古屋さん」「あ、ボス!おはようございます!」駒澤はボス呼びに対して満更でもない表情をしていた。
三課のメンバーは当たり前だが今日もみんな揃っていた。すると...「三課のみんな、失礼するよ」そこへ栗田警視総監が入ってきた。二度目の登場なのでそこまで驚く人はいないだろう...と思ったがしかし警視総監なのでやはり驚きは隠せないようだ。ちなみに美子は彼のことがあまり好きではない。何故なら両親の事件のことがあるからだ...。確かに犯人が捕まらなかったことや事件が迷宮入りしてしまったことは、全てが栗田のせいではないが両親を殺した犯人を捕まえられなかった...そのため、恨んでいるというわけではないが、苦手だった。「け、警視総監!どうしたんですか?」駒澤が席から立つと栗田は三課の中を見渡すと「先程、ヨコハマ遊園地に爆破予告が届いたそうだ」「「爆破予告!?」」みんなは驚いて顔を上げ、水蓮寺は眠っていた目を開けた。「うん、そうだ。そこで君たち三課に出動命令が出た。ヨコハマ遊園地に行って警備、そして犯人の確保をお願いしたい。今日は十周年イベントをやっているらしいから遊園地側は中止にはしたくないそうだ」「つ、つまり...遊園地に来ているお客さんたちには気づかれないように犯人を捕まえて、爆発物を処理しろということですか?」駒澤が聞くと栗田は頷いた。「で、でもそれって...普段は一課が行くんじゃ...」「一課は別の事件で誰も手が離せずにいる。今この署で頼めるのは三課しかいない」三課のメンバーはあまりやる気にはなれなかった...。なんせ刑事にはなりたい、だが現場や危ないところには出たくないメンバーが多いからだ。「よし!頼まれたら行くしかないな!」先陣を切ったのは筋肉バカの刑事、崎沼だった。「そ、そうですよ!俺たち刑事じゃないですか!」その後に続いたのはこの間のネット殺人事件で活躍をした柚斗だ。「でも...私、刑事希望じゃなかったし...」「私も危ないところに行って怪我とかしたら嫌ですし...」女性陣は乗り気ではないようだ...。すると水蓮寺は立ち上がり「根性のないやつは来なくていい...役に立たず邪魔なだけだ」そう冷たく言い放つと三課を出ていく。「み、皆さん...行きましょうよ!」美子がそう声をかけると「水蓮寺さんが言うなら...」と山口が立ち上がり「...あんなふうな言い方されたら腹立つわよね...」と小島も立ち上がった。「真白さん...アズミン...!」美子が小島のことをアズミンと呼んでいるのはジャージの血液照合の一件があった時に意気投合したため、仲良くなったのだ。
こうして、駒澤を除く三課のメンバーは初の全員で現場に行くことになったのだ。
そしてヨコハマ遊園地に着いた。「わぁ...私、遊園地なんて何年ぶりに来ただろ!」「俺も久しぶりに来たなぁ...」美子と柚斗は遊園地の入口に来るとテンションが上がっていた。「お前ら...遊ぶわけじゃないんだからな...」水蓮寺たちは入口近くの警備室に行くと事情を説明し、中のスタッフルームに通された。スタッフルームに行くとこの遊園地を経営しているオーナーさんがいた。「わたしがここのオーナーの河竹です。スタッフには話していますが...今日は十周年イベントということもあり、人がたくさんいます...爆破予告が来たと言ってしまうととんでもないパニックが起きてしまいます」「そうですね...お客さんたちには気づかれないように爆発物を回収し、犯人を捕まえます」水蓮寺は三課のみんなを一箇所に集めると指示を出した。「小島は横浜警察署の爆弾処理班をなるべく少人数で、そして私服で来るようにと伝えろ」「は、はい」「古屋、山口、崎沼は手分けしてこの遊園地内の怪しい人物そして爆発物らしきものを探せ」「わ、分かりました!」そう言うとみんな各々に動いた。「あの...俺は?」「お前はパソコンが得意なんだろ?この遊園地全ての監視カメラをハッキングし、監視カメラから怪しい人物を特定してそれを俺に伝えろ」「な、なるほど...了解です」柚斗は監視カメラの見れる部屋に移動すると自分のパソコンを開いてハッキングの操作をした。
怪しい人物と爆発物を探していた古屋と山口、そして崎沼は遊園地内を捜索していた。もちろんバレてはいけないため、客を装ってだ。「んー...どの辺に爆発物って仕掛けられてるんでしょうか...」「さぁ...私にはさっぱりですねぇ」相変わらず山口は髪を整えている。「全く...少しは探しましょうよ!山口さん!」崎沼は山口の肩をポンッと軽く叩くと捜索に戻った。山口は少し不満げな顔をしたがその空気を変えようと美子は話した。「あ!そういえば...ドラマとかでよく見かけるんですけど爆発物とかってゴミ箱とかに仕掛けられていませんか?」「ゴミ箱か...確かにそれはありそうだな!」そこから遊園地内にあるゴミ箱を一つ一つ確認していった。しかし爆発物は全く見つからない。
「んー...ないですね、爆発物...犯人らしき怪しい人物も分からないままですし...」「んー、となるともしかしたら犯人はまだ爆発物をしかけてはいないということかな...?」崎沼は考えながらも遊園地内を捜索する。
その頃、小島が呼んだ爆弾処理班が遊園地に到着する。「小島さーん、言われた通り私服で少人数と言われたので五人で来ました!」「ありがとうございます!まだ爆発物が見つかってはないので見つかり次第出動をお願いします」そう言われると爆弾処理班は控え室に行った。
監視カメラのハッキングが終わり、怪しい人物を探している柚斗はまだ怪しい人物を確認できることは無かった。「こんなに監視カメラあったら...いくらなんでも難しいだろ...」ため息をついたが「...ん、待てよ...さっき確か水蓮寺さん...」『この遊園地のカメラを全てハッキングし』水蓮寺の言っていた言葉を思い出すとまたパソコンを開いて作業をし始めた。
そして爆弾を探している三人はというと...「ねぇ!あれ食べようよ美子ちゃん!」「あ、いいですね!クレープ美味しそうです!」女子二人はクレープ屋を見つけて並びに行ってしまう。「二人とも!捜査中に外れちゃダメじゃないですか!」崎沼はそのあとを追い注意するが聞いてはもらえない...。
水蓮寺は何の作業をしているのか、遠くからそれを見つけると「...なにやってるんだ...あいつらは役に立たないな」とため息をつくと自分の作業に戻った。
監視カメラの前で何やらパソコン作業をしていた柚斗は作業が終わったようだ。「よし、これで怪しい人物の特定ができるな」柚斗は監視カメラ三十台全てを調べるのは不可能だと思い、全てのカメラにハッキングして少しでも怪しい動きをしている人物がいると特定して拡大してくれるという優れた要素を取り入れた。「これで...怪しいやつをすぐに見つけられるな!」そう言うと柚斗は優雅にご飯を食べた。
水蓮寺は作業を終えると監視室にやってきた。「おい、怪しい人物はいたか?」「す、水蓮寺さん!?あ...まだですね」くつろいでいた柚斗は驚いて立ち上がった。「...まだか、もうそろそろ中にいてもいいはずだ...俺の仕掛けもそろそろだな」水蓮寺は一つの監視カメラを見つめるとカウントダウンをしだした。「三、二、一...」するとメリーゴーランドの近くで爆発音がしたかと思うと花火が上がった。お客さんたちだけでなく、外にいた三人も柚斗も爆弾処理班と共に待っていた小島も驚いた。「す、水蓮寺さん...何やったんすか!?」「まぁ見てな...」花火が上がったと同時に遊園地内のアナウンスが聞こえてきた。「皆さん!本日は来てくれてありがとうございます!今日はなんと...この遊園地が建って十年目になります!イベントもたくさんあるので、楽しんでいってくださいね!」「何だ...イベントの演出か...」お客さんたちもイベントだと分かるとホッとした表情になりまた歩き出した。「す、水蓮寺さん...?」「あれは犯人を誘き寄せるために俺が仕掛けた花火だ...ここの係員には言ってあるから安心しろ」そう言うと水蓮寺は柚斗にトランシーバーを渡す。「え、これはなんですか?」「もし監視カメラを見ていて何かあったらすぐにこれで俺に知らせろ」そう言い残すと監視室を出ていく。「ほんと...無茶苦茶な人だな...まぁ、すげぇけど」一人になった監視室で柚斗は呟くと作業に戻った。
その頃、三人は...「さっきのあれ、絶対に水蓮寺さんですよ!あんな無茶苦茶なこと水蓮寺さんしかしません!」「まぁ確かに...あれは驚きましたね。でもそんな無茶なところがいいんだと思いますよ?」美子の発言に対して少しフォローを入れる山口。「あれ?山口さんってもしかして...?」そこにすかさず崎沼がちゃちゃを入れる。「ん?なんです?無茶なことをしてこそ犯人の手がかりが分かるってこともありますよねってことですよ」「あ、ちょっと山口さん!?」少し笑顔で誤魔化すと山口は美子を連れ去って崎沼から離れていってしまった。
監視室でカメラを見ている柚斗はある人物が目に入った。その人物は先程から水蓮寺が仕掛けたであろう花火に少しだけ驚いていたようだが...その後、自分の鞄の中を探ると中からスイッチのようなものを出したのだ。柚斗はその近くにいた崎沼に連絡を入れたが繋がらず...仕方なく美子に連絡をした。美子は電話の音に気がつくと電話に出る。「もしもし?」《古屋、お前たちの近くにスイッチらしきものを持った怪しい人物がいる...すぐ崎沼さんを呼んで一緒に...》「え!?わかった!すぐに行く!」最後まで聞かずに美子は電話を切ってしまった。「おい!おいっ!...ったく、どうすんだよ...」慌てながらも監視カメラを確認すると美子の姿を追う。どうやら美子は山口を連れて共に怪しい人物の元へ行ったようだ。「あいつどうする気だ...っ」水蓮寺に連絡するも繋がらず、ただ見守るしかできなかった。
「あの人ですよ...山口さん」「...え、あの人がですかぁ?」山口と美子は柚斗に言われた怪しい人物の元へ気づかれないように行くと陰からこっそりと覗いた。なにやら鞄の中を確認しているようだった。「あの中に爆発物が...?」しばらく見ていると怪しい人物は鞄をベンチに置くとベンチから離れようとした。すると山口が「あっ!待ちなさい!!」と飛び出してしまった。「や、山口さん...!」その声に気づいた怪しい人物はこちらを向くと逃げた。「あ!待ちなさいってば!」「だ、だから山口さーん!」怪しい人物を追いかける山口を追いかける美子であった。
少し離れると怪しい人物は持っていたスイッチを押してしまった。すると先程仕掛けたであろうベンチの上にあった鞄が爆発した。幸い、近くに他の人がいなかったため怪我人は出なかったようだが......、さっきとは違うただの爆発音がしたのだから...もちろん遊園地内は徐々にパニックになっていった。その間に怪しい人物...いや、爆弾犯は逃げてしまった。「あっ!!」山口が爆発音、そしてこのパニックに唖然としている中、美子は「真白さん!真白さん!私はアイツを追いかけます!だから水蓮寺さんを呼んできてください!お願いします!」と山口に水蓮寺を呼んでくるように頼むと爆弾犯を追いかけた。
その頃、控え室にいた爆弾処理班と小島もその騒ぎに気づき監視室に行った。そこには監視カメラを見ている柚斗がいたからだ。「...やべぇよ爆発しちまった...!」「それじゃあ爆弾処理班寄越しても意味ないじゃない!」「いや...他にも仕掛けられている可能性は大いにある」山口と美子と離れてからは、どこにいたのか分からないが急に崎沼が現れた。「じゃ、じゃあ...とりあえず現場に向かいましょう!」そう言うと小島と爆弾処理班五人は遊園地内の現場に向かった。崎沼もそのあとを追った。
柚斗は監視カメラで美子が一人で爆弾犯を追いかけていることを知ると、事前に水蓮寺に渡されていたトランシーバーで美子と爆弾犯のいる居場所を教えた。
そして山口は水蓮寺の姿を見つけると声をかけようとした。しかし水蓮寺は柚斗によって全ての状況を把握したため、山口を待たずに走り出した。「え!?ちょ...水蓮寺さん!?」山口もそのあとを追った。
爆弾犯を追いかける美子だが、もちろんパニックになり走り回る人ばかりで何度も見失いそうになった。「す、すいません!すいませ...通してください!その人...ッ」いっその事大きい声で爆弾犯がいると言ってしまおうかと思ったが...そんなことを言うとさっきよりもパニックになるに違いないと思い、無言で追いかけ続けた。「待って...ッ!」遊園地内の行き止まりあたりまで追いかけると爆弾犯は止まった。美子も走るスピードを緩めた。「もう逃げられませんよ!観念して逃げるのはやめてください!」「...ちっ」美子はやっと犯人を追い詰め近づいた。しかしその時、逃げ遅れたのか小さな女の子が爆弾犯の近くにやってきた。爆弾犯は女の子を見つけるとそこに一直線で走った。「ッ!!だめ!!」美子は勢いよく走り出すと爆弾犯より先に女の子の元へ辿り着くと女の子を抱きしめて庇った。しかし爆弾犯は止まらずポケットから刃物を取り出して美子の元へ走ってきた。「...やばいッ!」もうダメだと思ったが...「古屋ッ!!!」という聞き覚えのある叫び声がしたと思ったら、その人物は美子と女の子を守った。「ッく...!」美子が後ろを振り向くと...「す、水蓮寺さん!?」そこには腕を切られた水蓮寺の姿があった。「...水蓮寺さん!」爆弾犯は逃げようとした...しかし爆弾処理班、小島や山口とともにやってきた筋肉バカの崎沼の活躍で爆弾犯は取り押さえられた。
「大丈夫ですか!?水蓮寺さん!」美子は後からやってきた母親に女の子を返すと水蓮寺の元へ駆け寄った。「...かすり傷だ、心配するな」「でも...手当をしないとですよ!」そういうと水蓮寺の怪我をしていない方の腕を引っ張ると遊園地内の医務室へ行った。
小島と山口、そして爆弾処理班は爆弾犯を確保した崎沼と共にパトカーで署へ戻った。そして監視室にいた柚斗は遊園地側のスタッフに事情を説明しハッキングを解除するとそのまま帰った。遊園地側も爆弾犯は捕まりもう大丈夫だということを放送で流したことにより一般の市民も落ち着きを取り戻した。もちろんそれがあったことにより軽い怪我をしてしまった人もいたが...。怪我人が少人数で済んだのは不幸中の幸いというものだった。
署で残っていた駒澤も三課からの全員無事という報告、そして犯人確保の報告を聞くと嬉しそうに警視総監の元へ行った。
ちなみに今回の犯人は単にこの遊園地に思い入れがあった。だからこんな小さな形で十周年を迎えて欲しくなかった...という理由だそうだ。しっかりと罪を償ってもらおう。
そして医務室では「全く...無茶しすぎですよ!水蓮寺さん」美子は水蓮寺の腕の傷の手当てをしていた。「...それはこっちのセリフだ。誰のせいでこうなったと思ってるんだ」「だって...女の子が危ないのに放っておけるわけないじゃないですか...」水蓮寺は大人しく手当てをされていた。「...お前、意外とこういうの上手いんだな」「え?あー...兄がよく傷を作って帰ってきていたので、それで手当てに慣れたんですかね?」くすくす笑いながら水蓮寺の腕に包帯を巻く。「あと、さっきのだが...走りやすくするためにいつもスニーカーなんだな...お前」「それも兄の受け売りです。ほら、前に兄は優秀な刑事だって話したじゃないですか」「あぁ...」「それで兄はいつもスニーカーだったんです...犯人が逃げた時にスニーカーの方が走りやすいだろ?って」水蓮寺は黙っていた。「だから私も兄みたいになりたいんです。私にとって兄は憧れなんです!」そう言うと少しだけ寂しそうに笑った。「...古屋」「はい、手当て出来ました!あ、でもあくまで応急処置なので病院には行ってくださいね?」美子はそう言うと立ち上がった。すると...水蓮寺は美子の腕を掴んだ。「...水蓮寺さん?」「古屋...俺...」水蓮寺は美子を見上げると真剣な顔をした。「...な、なんですか?」「お前に...大事な話がある...座ってくれ」そう言うともう一度美子を座らせた。




