第四話「ネット殺人!闇の正義者現る」
[闇のクスリ箱]そう書かれたサイトにログインすると[ようこそ。あなたの悩みを解決しましょう]という文字が出てきた。「...あの先生のせいで私は...酷い目にあった...」パソコンの前で呟きながら[高校の担任の先生に私がいじめられていることを告白したら助けてやるからとセクハラをされた。しかもその後も助けてはくれなかった。するだけして、何もしてくれなかった...。先生が憎い...。]サイトに書き込むと投稿をクリックした。すると...[ターゲット:高校の担任][承りました。]という文字が現れたかと思うとパソコンにメールが届いた。メールを開くと[闇の正義者です。ターゲットを懲らしめるため、詳しくお話を聞きたいので会ってお話をしましょう。もし、怖ければメールでのやり取りでも構いません。その先生のことを詳しく教えてください。]彼女は、すぐに返信した。
――「おはようございます!」いつもより元気よく挨拶をして入ってくる美子を見て驚く三課のみんな。「おはよう、美子ちゃん」「今日はいつもより元気だね」小島と山口が近づいてくる。「何かいいことでもあったのかな?」自分の席に座りながら聞いてくる駒澤。「あ、えっと...はい!少し...ありました」嬉しそうにしている美子の後ろから水蓮寺がやってきた。「おい古屋、事件だ...行くぞ」そう一言だけ言うと出ていく。美子はまた嬉しそうにすると「じゃあ、行ってきます!」三課に挨拶をすると水蓮寺の後を追って行った。「なるほど...水蓮寺さんがね...」「美子ちゃんのこと古屋って呼んでたね、珍しい...」三課もまた、笑顔になった。
現場は横浜の高校だった。そのため、野次馬は学生たちばかりだった。「高校なんて久しぶりに来ました!」「騒ぐな、ガキか」理科準備室にはいつもの[KEEP_OUT]という黄色いテープが張られていた。そこをくぐると遺体があった。「被害者はこの学校の教師、竹内満さんです。死亡推定時刻は昨夜の一時と思われます」鑑識に話を聞くと水蓮寺は遺体の確認をした。「今回も被害者のそばにこのような紙が置いてありました。」「またか...」鑑識が見せた紙には[悪人に裁きを...闇の正義者]と書いてあった。「前回の三件の事件と同一犯と考えていいだろうな...」いつも通り美子には見えないように確認を済ませると遺体を病院に運ばせた。「この学校の先生たちにも話を聞いてみるか...古屋、行くぞ」「あ、はい!」名前を呼ばれる度に何故か嬉しくなった。
職員室に行くとまずは被害者の座っていた席の横にいた英語教師の女性に話を聞くことにした。「...竹内先生は、とても優秀な先生でしたよ。恨まれるような人ではなかったはずです」「それは全生徒の意見ですか?」「ええ、あの人を嫌う生徒はいなかったはずです」「そうですか...」美子は職員室を見渡した。すると職員室の外から一人の女子生徒がこちらを見ているのに気づいた。「す、水蓮寺さん...あの子...」「ん?」水蓮寺が職員室の外を見るとその女子生徒はハッとしてその場から離れた。美子は慌てて追いかけると女子生徒は立ち止まった。「な、なにか...知っていることがあるんですか?」「...もう一人の刑事さんが何か怖いからあなたになら話します...」そう言われ内心吹き出しそうになったが我慢をして水蓮寺には外で待ってもらうように言った。「...なら俺は他の先生に話を聞いておく。ヘマはするな」そう言い残し職員室に入っていった。美子は女子生徒に連れられて空き教室に来た。「それで...知っていることがあるなら話してください...?」「...竹内先生、一部の生徒には嫌われていたんです...」「え...?嫌われてた...?」「はい、私の友達...冴島乃々華は学校で酷いイジメにあってました。竹内先生は私たちの担任だったんです...」―――
乃々華はクラスでイジメを受けていた。無視や机の中にゴミを入れられるようなことは毎日のように行われていた。そんな中、誰にでも平等に接してくれていた竹内。乃々華は竹内だけは信じていいと思った。だからイジメられていることを打ち明けて助けてもらおうと思った...しかし、そんな乃々華に対して竹内はイジメを何とかする、助けてやるから言うことを聞け...と、乃々華にセクハラをした。助けてもらうためだと受け入れた乃々華だったが、その後イジメが止まることもなく...竹内までもが無視を始めるようになったのだった。もう我慢の限界に達した乃々華は家に閉じこもるようになった。―――
「今も...ずっと学校には来ていません...」彼女が話終えると学校のチャイムが鳴った。「あ、私...授業あるので行きますね」「あ、はい!貴重な意見、ありがとうございました!」頭を下げると彼女は教室から出ていった。
美子も教室から出ると外には聞き込みを既に終えた水蓮寺が壁にもたれかかって待っていた。「あ、水蓮寺さん!」「終わったか...話、聞かせてもらうぞ」「は、はい...」あまりにも残酷なことに美子は頭が混乱していた。
女子生徒から聞いたことを全て水蓮寺に話した。「そうか、なら他にも被害者を恨んでいるやつがいた可能性が出てきたな」「そうですね...でも、今回の事件って前の三件と同一犯の可能性が高いんですよね?だったら...まずは被害者四人の共通点ってあったんですか?」「いや、被害者自体に共通点はなかった...」「え!?じゃあどうして...」「被害者のそばには必ず...悪人に裁きを...闇の正義者という文字が書かれた紙が置いてあったそうだ...」「闇の正義者...って確かネットで騒がれてる三人組ですよ!」美子は携帯を取り出すとサイトのページを出し、水蓮寺に見せる。「これです。闇のクスリ箱というサイトは闇の正義者と名乗る三人組が開設したんです」「闇のクスリ箱...?どういうことだ...」「あ、それについては詳しい人が三課にいますよ!」
――「はい、任せてください!パソコンのことやネットのことなら誰よりも詳しい自信がありますから!」「へぇ...」そう、美子と共に三課に配属された滝野柚斗は今どきの人間...というのもあり、ネットのこととかに詳しいのだ。そして柚斗が今、個人的に注目していたのが[闇のクスリ箱]だった。「闇のクスリ箱というのは学校や会社や家庭などで誰にも言えないような悩みを書き込むサイトであって、ただの愚痴を書き込むサイトとは違い、ごく稀になんですが...サイトに書き込んだと同時に[ターゲット:○○][承りました]っていう文字が浮かび上がって、闇の正義者と名乗る人物から個人的に連絡が来るらしいんです。」器用にパソコンを打ち込みながら説明する。「水蓮寺さんって...あんまりネットとかしているイメージないですね」「は?したことないが」「えっ!!ネット見たことないんですか!?」「メールや電話、それが出来ればいいだろ」水蓮寺は当たり前のように話した。「そ、それで...もしかしたらこの闇の正義者っていうのが今回の事件に関係している可能性が高いんだけど...私もそんなにネット詳しくないし、水蓮寺さんは...ね」苦笑いで柚斗を見ると「了解、この闇のクスリ箱と闇の正義者のことをもっと詳しく調べればいいんだな?」柚斗はそんなの朝飯前だと言って受けてくれた。「ありがとう柚斗!何かわかったらすぐに連絡して!」「了解」そう言うと柚斗はパソコンに向かった。
「では、私たちは別の...って水蓮寺さん?」振り返ってみると水蓮寺は何か悔しそうな顔をしていた。水蓮寺がこのような顔をするのは初めてだったので美子は思わず見つめてしまった。「...なんだ、行くぞ」それに気づいた水蓮寺は嫌そうな顔をして三課をあとにした。「あ、水蓮寺さん待ってください!」美子もそれに続いた。
今回の連続殺人事件は被害者自体には共通点が全くなかった。しかし被害者の遺体のそばには必ず[悪人に裁きを...闇の正義者]と書かれた紙が置いてあった。そこで美子と水蓮寺は他の被害者の周りにあたってみることにした。
今回の事件の最初の被害者、峰岸不二恵さん。彼女は近所では有名な迷惑おばさんだったそうだ。「自分はゴミの日を守らないくせに、他の人がゴミをちょっと早く捨てているとすぐ怒鳴って怒るんですよ」「その、峰岸さんのことを一番恨んでいた人物っていますか?」「一番?あぁ隣の家に住んでいる山田さんかしらね?山田さんいつも夜に怒鳴られていたから」「そうですか...ありがとうございます」その話を聞くと二人は山田さんの家に行った。
「はい...毎晩赤ちゃんの夜泣きがうるさいって言われてしまって...怒鳴られていました。」「で、でもそれは仕方ない事じゃ...」「それで峰岸さんを恨んでいたんですね」「確かに...嫌いでしたが...そんな殺したりしてません!」美子と水蓮寺は峰岸さんの他に橘有紗さん、桑野孝宏さんの遺族に会いに行ったが二人は恨まれるような人間ではなかったようだ。しかし二人とも一部の人にはよく思われていなかったようだった...。橘有紗は大学では友達が多く、とても優しい人だったようだが裏では酷いイジメをしていたそうだ。桑野孝宏は会社では懸命に働いて営業成績もよかったが、どうやら会社に黙って横領していたそうだ。
「んー...被害者は一見恨みを買うような人ではなかったけど、裏では大変なことをしていた...。峰岸さんは普段から近所の嫌われ者だった...」「古屋、さっき言っていたサイトだが...誰にも言えない悩みとかを書き込むサイトだって言ってたよな?」「はい、そしてごく稀にその悩みを解決してくれる...闇の正義者が現れるとか...」そう言うと水蓮寺は何やら企んでいるような顔をしていた。美子はこれはまた...嫌なことに違いないと思った。
署に戻ると柚斗がパソコンで闇のクスリ箱のことについて調べてきた。「おい、お前...そのサイトに書き込みをしろ」「えっ!!?」「ちょ...水蓮寺さん何を...ッ」「闇の正義者とやらに会うにはそれしか方法がない、ちゃんと恨みを晴らしてもらえるような書き込みにしろよ?」そう言うと水蓮寺は出ていった。「お、俺が...ここに...?」「だ、大丈夫?できる?」「...でも何で...こんなこと...」「おとり捜査ってやつやな」すると一課の安井と新堂がやってきた。「おとり捜査?」「せや、サイトとかそういうのんは犯人が分かりにくいねん。せやから自らサイトに相談する人となって、犯人を誘き寄せるってことや!」「なるほど...それを柚斗が...」柚斗はパソコンに映し出されているサイトを見つめると打ち込み始めた。「え、な、なんて書くつもり?」「やれと言われたんだ...水蓮寺さんの名前を使っても文句は言われないだろ」そう言うとサイトには[上司からパワハラを受けています。理不尽なことで怒られ、夜遅くに呼び出されたかと思うと無理な実験に付き合わされ...もう限界です。上司なんかいりません]そう書き込んだ。「これって...水蓮寺さんのこと?」「おもろいなぁ、水蓮寺のやつターゲットにされるで」「ここには名前は書かないが、闇の正義者が現れて聞いてきたら水蓮寺さんのことを使わせてもらう」そう言うと投稿をクリックした。すると...[ターゲット:会社の上司][承りました。]という文字が現れた。そして...柚斗のパソコンのメールにメッセージが来た。「ホントに来た...すげぇ...」メールを開くと[闇の正義者です。あなたの上司を懲らしめるために詳しく聞きたいです。会いませんか?もし会うのが怖ければメールでのやり取りでも構いません。]そう書いてあった。「会うに決まってるだろ、それが目的なんだから...」「柚斗、大丈夫?一人で行かないでね?私たちが後ろで隠れてるから!」と言いながら美子は安井の腕を引っ張った。「な、なんや美子ちゃん!?」「安井刑事...ついてきてくれますよね?水蓮寺さんじゃ絶対についてきてくれません...お願いします!」頭を下げると安井は嬉しそうにして「当たり前やろ!お安い御用や!」「安井さーん、いいんですか?三課に付き合うと部長に怒られますよー?」新堂はそう言うが安井の耳にはもう届いていない。「ありがとうございます!安井刑事!」「じゃ、返信するぞ」柚斗はパソコンに向かうと闇の正義者に返信をした。[もちろんです!会って詳しく話します。懲らしめてもらうためですから!]送信ボタンをクリックするとすぐに返信が返ってきた。メールを開くと[それでは明日の午前十時、むさしの公園に来てください。待っています。闇の正義者より]そう書いてあった。「よし、明日だな」「無茶だけはしないでね...?」柚斗が返信を終え、パソコンを閉じた頃に水蓮寺は戻ってきた。「どうだった...」「明日、会うことになりました。とりあえずは接触することに成功しました」「まだだけどな...そう簡単にはいかないはずだ」水蓮寺は柚斗に小さな紙を渡すと「これ、明日必ず持っていけ...じゃあな」それだけ言って帰ってしまった。今日はみんなも帰ることにした。
家に帰り、お風呂から出ると美子はベランダに出て考えていた。「被害者は...恨みを買っていた。そしてその恨んでいる人が闇のクスリ箱に投稿し、闇の正義者が恨んでいる相手を殺害した...でも、何でサイトに投稿した人のパソコンのメールアドレスが分かるんだろ...」「お前、外に筒抜けだぞ」いきなり隣から声がして美子は驚いて横を見た。するとやっぱり...水蓮寺が隣のベランダにいた。「す、水蓮寺さん...脅かさないでくださいよ!」「別に脅かしていない...お前の声がデカすぎて来ただけだ」もう...。と言いながら体勢を整えると水蓮寺のベランダの方を見ながら「水蓮寺さんはどう思いますか?闇の正義者三人組のこと...」「正義者とは言えど殺人犯には変わりない、奴らはハッキングの知識もあるようだからな...」「え...ハッキング...ですか?」「じゃないと投稿者のメールアドレスに直接メッセージが送れるはずがないだろ」水蓮寺はそう言うと煙草に火をつけた。「え、つまり...柚斗も?」「あぁ恐らくな...警察署のパソコンからの投稿だとバレてるだろう...明日、下手な嘘をついたら逃げられる可能性がでかい」「そ、それじゃあ...柚斗は嘘が付けないということですか?」「いや、刑事だと分かってて投稿に反応したんだ...過去にも刑事からの依頼があったんだろうな、刑事だって不満や悩みくらいはあるからな」そう言うと寒いからと部屋の中に入ってしまった。「悩みや不満...か」美子は部屋に戻ると机の引き出しを開け、古い手帳を取り出した。「お兄ちゃん...お兄ちゃんには悩みとかあった?私には...全くそんなの言わなかったし、いつも笑顔だったね...」―――
『お兄ちゃん見て見て!』『ん?それなんだ?犬か?』『ひっど!どう見てもクマだよ!これ、お守りにしてもらおうと思ってさ?』『お守り?』『うん、明日結構大変な事件の捜査に行くんでしょ?』そう言うと美子はお守りを涼の手に乗せた。『...ありがとう。これがあれば大丈夫だな』―――
「大丈夫だって...言ってたのに...バカ」手帳を置くと眠りについた。
次の日、一番に三課についた美子は出かける準備をしていた。そこに柚斗がやってきた。「お、早いな」「あ!柚斗、あのね...昨日のやつなんだけど...相手は柚斗が刑事だって...」「あぁ、ここのパソコンからなら分かるだろうな、ハッキングされてるだろうし」「え...?」あまりにも当たり前のように言うので美子は会話を止めてしまった。「だから俺個人のパソコンからアクセスしたんだ。それならハッキングされても警察署のパソコンじゃないから心配ないってこと。」「そ、そうだったの...?知ってて...そうしたんだ...凄いな、柚斗」「まぁ一応これでも刑事ですからね」自慢げに笑うと安井と新堂がやってきた。「ほな、行くで!パトカーはあかんやろから滝野は電車で俺らは普通の車で先回りや」「は、はい!」準備をすると三課を出ていく。
車に乗ると新堂は助手席で安井はもちろん運転席、そして美子は後部座席に座った。「なんや、美子ちゃんが助手席に座るかと思ったのに...」「あ、俺じゃダメでした?」「いや、今回はええ」車が出発すると柚斗も駅へ向かった。むさしの公園までは電車だと十五分くらいで車だと駅までの道のりがないため、十分ほどで着く。
先に公園に着いた美子、安井、新堂は公園の近くに車を停めた。「...闇の正義者三人組は既に来ているんでしょうか?」「いや...でも公園には結構な人が来てるからな」三人は車の中で待つことにした。すると柚斗が公園にやってきた。
公園のベンチに座っていると向こう側から人がやってくるのが見えた。「あ...えっ...」柚斗は驚いた。なぜならやってきた人は仮面を被っていたからだ。「お待たせしました、闇の正義者です」その人は丁寧にお辞儀をすると柚斗の隣に座った。
「あ、あの...闇の正義者さんは三人組と聞きましたが...」「あぁ、僕は話を聞く担当なんです。パソコン担当、話を聞く担当、そして...裁き担当です」「そう...なんですか」二人は並んでベンチに座った。美子たちは車の中で待機していた。「何を話しているか...分からないですね」「せやな...でも仮面被っとるし、闇の正義者の正体は分からんままやな」真剣に公園を見る二人とは違い、パンを頬張る新堂。
「そうでしたか...それは辛い思いをしましたね...。でももう大丈夫です、我々が裁きを下します 」サイトで話していたことを詳しく話すと闇の正義者は今夜には裁きを下すと伝え、去っていった。
彼が去っていったのを見送ると公園の外に待機していた美子たちの乗っている車に乗った。「どうやった?」「闇の正義者って...一人だったの?」「いや、闇の正義者はパソコン担当、話を聞く担当、裁き担当の三つに分かれているらしくて...来たのは話を聞く担当の人らしいです」「三つに...分かれてる...」車を走らせると柚斗は話を続けた。「奴は、今夜決行すると言っていました...ターゲットは水蓮寺さん。」「だったら水蓮寺さんの家を教えたってこと?」「いや...事前に水蓮寺さんからこの住所を言えって言われてて...」そう言いながら柚斗はポケットから紙を出した。そこには水蓮寺さんの住んでいるマンションとは全く別の住所が書いてあった。もちろん名前を全くの別人だった。「山口はじめって...ありそうでない名前だね」「まぁ、今夜ってことはその家の近くに待機やな...俺らは別の事件で行かれんけど...頼むな!」そう言うと車を署に走らせた。
署に戻ると三課に横浜警察署の警視総監が来ていた。「警視総監!?」「あぁ、君は古屋さんだね」「...は、はい」「久しぶりだね、五年ぶりかな?」ここの警視総監...栗田警視総監は両親が亡くなった事件当時、現役の刑事だった。事件の捜査もしてくれていたが犯人は見つからず事件は迷宮入りした。その後、両親のいない涼と美子のことを気にかけていてくれた。涼が横浜警察署に配属された時も一番に喜んでくれた。もちろん今回、美子が涼と同じところに配属されたと聞きやってきたのだ。「お久しぶりです...栗田警視総監」「涼くんと同じところに配属なんて、さすがだね美子ちゃん」優しい眼差しで美子を見つめ、頭を撫でると三課を出ていった。「し、知り合いだったのか?」「あーうん、小さい頃にちょっとね...」「それより...闇の正義者には会えたのか?」水蓮寺はちらっと美子を見ると柚斗に問いかけた。「あ、はい!でも闇の正義者三人組は担当に分かれているようで...」公園であった出来事を全て水蓮寺に話した。
「そうか...じゃあ今夜、俺を狙いに来るということだな」「はい...なので俺達も近くで待機しています」「私も待機しています!水蓮寺さん!」
――その日の夜、水蓮寺が借りた家には水蓮寺が眠っており、その近くには柚斗と美子が待機している車があった。「今までも...死亡推定時刻は一時だったから今回ももしかしたら...」「そうかもな...」そう話していると仮面を被った三人組がやってきた。三人組は簡単に家に入ると水蓮寺が眠っている部屋に忍び込んだ。「よし、ターゲット発見。やるぞ...」「了解」二人が水蓮寺を抑えるとロープで首を括りつけた。「さぁ...裁きを...受けろ」すると部屋の電気が点いた。「裁きを受けるのはお前らだ...」三人が驚いて振り返ると部屋の入口に水蓮寺が立っていた。「な、なに!?」「運が悪かったな...ターゲットが刑事だったなんてな... 」そう言うと水蓮寺は一人を捕まえたが後の二人は窓から飛び降りた。外には柚斗と美子が待機していたため降りた先には二人がいた。「っち...」「もう逃がさねぇからな...」「わ、私だって...刑事なんですから!」二人は同時に柚斗と美子に向かって走った。柚斗は当たり前のように男を捕まえた。しかし美子は苦戦していた。「や、やばい...!」「女なら刑事でも大丈夫みたいだな...!」「古屋!俺に任せろ!」そう言うと柚斗は美子の元に向かってきて最後の一人を倒し、捕まえた。「あ、ありがとう...柚斗」「いいって、それより大丈夫だったか?」「うん、おかげで助かった」水蓮寺ももう一人の犯人を捕まえ、下にやってきてパトカーを呼んだ。「水蓮寺さん、大丈夫でしたか?」「当たり前だ...俺が失敗するわけないだろ」美子と水蓮寺の言い合いを見ている柚斗は楽しそうに...でも少し羨ましそうに笑っていた。
パトカーが来ると水お三人をパトカーに乗せた。「なぁ古屋...」「ん?どうしたの?」「何かさ...現場に出るってのも悪くないな」「え...?」そう言い終えると柚斗もパトカーに乗った。
闇の正義者も捕まり、闇のクスリ箱というサイトもいつの間にか閉鎖されていた。きっと柚斗がやったのだろう。彼らは学生の頃に犯罪を犯していた少年たちだった。正義者になりたかった...誰かの悩みを聞き、恨みを買っている人への裁きをすることで学生の頃の犯罪の罪を償っているつもりでいたそうだ...。とんだ狂った三人組だった。
そして、騒動の後、水蓮寺と美子は借りていた家の戸締りを終えると帰ることにした。
「水蓮寺さんにも分からないことってあったんですね...」「...そうだな、古屋」水蓮寺は足を止めると美子の前に来た。「な、なんですか?」水蓮寺は黙って美子に近づくと携帯を取りだした。「そういえば、お前の連絡先を知らなかった。今回みたいに分からないことがあるのは...俺としては納得がいかない。だから...」「あっ、分かりました!交換しましょう!連絡先」美子も携帯を出すと水蓮寺と連絡先を交換した。
この日、初めて少しだけ水蓮寺との距離が縮まったと思った美子であった...。




