第十三話「決着!〜全ての真相〜」
取調室。安井は真犯人である筒井に話を聞いていた。「ゲーム...?」「そう、ゲームだよ」「お前...なめてんのか!」安井は筒井の態度に腹が立ち机を乱暴に叩いた。「怒んなって...刑事さん」「ッ...こいつ...」「ある人に頼まれたんだよ、殺してくれってな...」「頼まれた?」飽きたのか筒井は真相を話し出した。「そ、依頼されたってわけ...」――筒井はごく普通の一般市民だったが、働き先がなく途方に暮れていた。そこヘある人物がやってきて...『仕事をしないか?とてもいい仕事だよ』『あ?どんなんだよ...』するとその人は50万が入った封筒を見せた。『...これ』『一回50万でどうかな?』金もなく仕事もなく、とにかく金が欲しかった筒井は二つ返事で仕事を受けた。仕事内容は...港にある高層マンションへ行き、有名デザイナーの火島達夫を殺すことであった。殺しを終えると筒井はその人に電話をした。その人は現場に行くと筒井にお金を渡し、遺体の傍に何かを置くと出て行った。その何かとは...恐らく美子の父親の遺品だろう。そして二件目...横浜中華街にある帝東ビルへ行きこちらも有名な弁護士の杉浦悟史を殺し、またその人へ報告の電話をした。するとその人は現場に来ると筒井に金を渡し、先に筒井を現場から返した。その後のことは筒井は何も知らなかった。警察の憶測では筒井が帰ったあと美子が来るのを待ち気を失った美子の手に凶器である包丁を握らせ、父親の遺品を遺体の傍に置き、出て行ったのだろう...。――
「俺が知ってることは全部包み隠さず話したぜ?刑事さん」全て話すと筒井は余裕の表情をした。「...いや、その人物って誰や」「さぁ?顔は見てないから知らない...」筒井によるとその人物は帽子にサングラス、そしてマスクをした状態だったために素顔は全く分からなかった。「なるほどな...その人物について調べる必要がありそうやな...」そう言って安井は立ち上がった。「刑事さん、俺帰りたいんですけど...」「アホか!殺人二件もしてんねん、逮捕じゃ!」軽く筒井の頭を叩くと新堂と共に取調室を出ていった。残された筒井は当然、刑務所に入れられたのだった。
その頃、犯人が捕まったと聞いた美子は三課に戻ってきていた。「安井さんたちが捕まえたんですね!」「あの人たち...ちゃんと刑事してるんだな」柚斗が呑気に話していると山口と崎沼がやってきた。「いやー、でもよかったね!」「良くないですよ...まだ筒井を操っていた人物が捕まってないんですから!」「そうですよね...って水蓮寺さんとアズミンはいないんですか?」疑問に思い駒澤に尋ねると「んー...水蓮寺くんは大事な用事があるって出ていって、小島さんは古屋さんに頼まれたものが出来たか確認しに行ったようだよ」「なるほど...アズミンには感謝しなきゃな」そう言うと美子は三課を出て行った。「あのメモに何が書いてあったか...それさえ分かれば今回の本当の犯人が分かるかも...」涼のメモには確実に今回の事件の犯人、つまり両親を殺した犯人について調べた内容が書いてあった。涼は犯人にたどり着いた。しかしあと少しのところで気づかれた犯人によって殺されたのだと美子は考えた。その犯人が誰なのか...重要な手がかりがメモには書いてあるはず。そして美子は...まだ何か大事なことを思い出していない気がしてならないのだった。
美子は警察署から近い喫茶店へ入るとテーブル席に座った。「ご注文は何にしますか?」「えっと...コーヒーを一つお願いします」注文を終えると持ってきていた事件当時の資料を広げた。「んー...真犯人は...他にいる?」涼のメモを見つつ推理をするのだった。「お待たせしました」店員にコーヒーを貰うと一口飲んだ。「...コーヒー飲めるようになったんだね、私も...」昔の思い出を懐かしむように思い出しているとまた一つ忘れていた記憶を思い出した。――『にっがーい!』『コーヒーはまだ早いぞ』それは父との思い出だった。父の飲むコーヒーが気になって小学校に上がる前の私は父からコーヒーを貰った。しかし一口飲むとやはり子供の私には苦さしかなく、すぐにコーヒーの入ったカップを返した。『美子、父さんのコーヒー飲んだのか?』そこへ兄もやってくる。『だって美味しそうに見えたんだもん!』『これは大人が飲むもんだぞ?』苦笑いをしながら美子の頭を撫でる兄。すると母がやってきて『ほら、苦かったならこっちでオレンジジュース飲む?』『わぁい!のむ!』私は走って母の元へ行った。『走ると危ないぞ、美子』笑いながらも心配で後を追いかけてくる兄。それを眺めながら優しく笑う父と母。こんな幸せな家庭が他にあるのだろうか...私はずっとそんなことを思っていた。しかしある日をきっかけに...父の様子がおかしくなった。それは父の刑事仲間の人が家にやってきた時だった。私たちは軽く挨拶をしただけでそれ以降はその人も家に来ることはなく、会っていなかった。その日から父は家にいても浮かない顔をして...今までのような笑顔の絶えない家庭に戻ることは無かった。『ねぇ、おとうさん...ッ』『ごめんな、美子...忙しいんだ...』話しかけても忙しいと言うばかりで相手をしてくれなくなった。そんな時だった...父が一週間家に帰ってこなかった。水蓮寺に聞いたが、あれは刑務所に入っていたのだ...。――「お父さんはやっぱり...情報横領を...?それで...ずっと...」そんなわけないと首を振り、残ってきたコーヒーを飲みきると店を出た。
その頃、水蓮寺はある人物と別れた後...三課に戻ってきた。「古屋は...?」戻るとすぐに美子のことを尋ねた。「あー、確か小島さんの鑑定結果を聞いてくるとかで...出ていったよ」残っていた駒澤がそう言うと、水蓮寺は考え事をしながら三課をあとにした。不思議に思った駒澤だったが...すぐにまたパソコンに向かって作業をした。
三課を出た水蓮寺はどこかへ向かっているようだった。「...鑑定結果...?いったいなんの...」そう呟きながら車を走らせた。
そしてその頃、喫茶店を出た美子に小島から電話がかかってきた。「もしもし...」《美子ちゃん?メモの切れ端の修正が出来たの!今、メモのメール送るからね!》「ほんとですか!?はい!」するとすぐにメールが届いた。《私もそのメモ見たけど...いったいどういう意味?書かれてることの意味がよく分からなくて...》小島がそう言うと美子は「確認してみます!ありがとうございました!」電話を切るとすぐに届いたメールを確認した。「え...これって...」そこには【事故、情報横領、ヤクザ、影月組、父さんとの関係が深かった刑事。後輩...KU】と書かれてあった。美子は涼のメモ帳を出すとメール画面と合わせてみた。すると...「え...これって...まさか...ッぐ...!」真犯人の正体にたどり着いた美子は後ろから誰かによって薬を嗅がされ気を失った。カシャン!と音を立てて落ちた携帯とメモ帳はその人物の手に拾われた。
――「ん...ッ」美子は目をゆっくり開けた。「ここ...は...?」どこか知らない廃ビルの一室にいるようだった。「え...なにこれ...ッ」見ると美子は椅子に座らされ、腕は後ろで縛られていた。腕を縛っているロープを何とかして解こうとしていると...「目が覚めたかな?」ある人物が入ってきた。そのある人物とは「...栗田警視総監」そこにいたのは栗田警視総監だった。「やっぱり...ッどうして...あなたが!」「どうして?大丈夫、それは今から全て君に話してあげるよ...ゆっくりと時間をかけてね...」裏表のない笑顔を近づくと美子の縛られている椅子の前に座った。「私はね...君の父親、当時私の先輩であった古屋圭司にバレてしまったんだよ...情報横領のことをね」―――
当時新人刑事だった栗田は...なかなか仕事が上手くいかずに大変だった。そこで影月組の組長の影月昴と出会った...彼はその当時はまだ組も大きくなくて、簡単に繋がることが出来た。『俺と組むって...あんた刑事やろ?』『そう、刑事だからこそヤクザと組むなんて最強だろ?』そう言うと影月は笑い手を組むことになった。そこからは影月組にとって目障りな店や他のヤクザ組の情報をまわしてもらい、栗田は色んな組織や店を捕まえることが出来た。もちろん...影月組が麻薬取引をする時や影月組が所有している店に潜入捜査や家宅捜索が入る時は影月に情報を伝えた。それをしたことによって影月組は横浜で大きな組織になった。―――「そして私もまた、大きくなることが出来た...少しの邪魔が入ったが...ね」「邪魔...?それって父のことですか...」そう言って睨みつけるとそんな美子の睨みにも表情を一つ変えず話を続けた。「そう、君のお父さんだよ」――その当時、栗田の先輩であった古屋は栗田の行動に疑問を持ち始めた。『栗田、俺になにか隠してないか?』『...どういうことです?』もちろん認めるわけもないし、言うわけもない。それ以降は特に問い詰めてくることは無かった...。しかし古屋圭司という男はとても勘の鋭い刑事だった...だから栗田が先に古屋圭司をおとしいれようと思った。自分が怪しまれているのなら、その罪を古屋に全て擦り付けてしまおうと...。栗田は上層部に報告をした。栗田が今までしてきた情報横領の資料を...古屋圭司の名前に変えて...その資料を渡した瞬間、上層部の目の色が変わった。そして疑いをかけられた古屋は案の定刑務所へ入れられた。『お前...俺に罪を...ッ』『何を言ってるんです?先輩がしたことでしょ?』面会をした栗田は上機嫌で古屋に会いに行った。だがそんな時間も束の間...証拠が出てこない、そんな理由から古屋はわずか一週間で釈放され刑事に復帰した。ますます栗田を疑った古屋は栗田のことを色々調べだした。『何を調べても...出てきませんって』そういう栗田を無視し何日も何日も...調べ続けた。しかし途中で古屋は警察を辞めた。栗田のことを諦めたのかと安心した...。だがそうじゃなかった。栗田の目の届かないところで色々調べて今度は止められないようにしようとしていた。
古屋が警察を辞めてから五年が経った頃...一度栗田に会いに行った。何を言われるのかと思えば、久しぶりに飲みに行こうだなんて言うもんだから...。栗田と古屋は当時行きつけだった居酒屋に入った。『...で、なんですか?』『立派になってきてるな...お前』『何が言いたいんです?』そう言うと古屋はビールを一口飲むと『いや、最近よく話を聞くからさ...昔の同僚から栗田は頑張ってるよって』すると栗田の手を取り誇らしげに笑った。もう完全に事件のことは覚えていないのか...そう思って一安心していた。だけど...その一年後、また急に古屋から電話が来た...《もう少しだ...》『はい?』《もう少しでお前の化けの皮を剥いでやる...》憎しみのこもった声でそう言うと電話を切られた。これはまずいと思い...栗田は古屋を呼び出した。なのに古屋は来なかった...。仕方なく家まで訪ねた...そしたら二人とも家にいた。『お前...ッ』『先輩...俺の化けの皮剥がすんですよね?』『あ、あなた...ッ!』キッチンから顔を出した古屋の奥さんを見て栗田はもういいやと何かが吹っ切れた。『化けの皮を剥がされる前に...消しちゃえばいいんですよ』そう言うとポケットからナイフを取り出し奥さんの心臓を一発で刺した。『な、何してるか分かってるのか...ッ!』『なに?そんなの分かってますよ...』『やめろ...ッ頼む!やめてくれ...ッ!』奥さんの心臓に刺さったナイフを抜き取ると今度は古屋の心臓を刺した。『あーあ...まぁいいや』涼や美子が来る前に替えの服に着替えると外に出た。―――「その後のことは...君も覚えているね?古屋さん」「...ッあなただったなんて...」「君は会っているよ?むかーしね?」すると美子は小さい頃の忘れていた最後の記憶を思い出した。『この人はね、父さんの後輩なんだよ』『よろしくね、美子ちゃん』そう言って手を伸ばしてきた人...その人は...栗田だった。「...あの時の...ッ」「そう、君が私に初めて会ったのは両親が殺されたあの日じゃなかったんだよ?」「そんな...ッ」美子は唇を噛み締めるとまた栗田を睨みつけた。「そうそう、君のお兄さん...涼くんも私の事件にたどり着いてしまったんだよ...」「え...」「とてもいい刑事だったんだけどね」―――涼が警官から刑事になった頃、栗田は既に警視総監になっていた。横浜警察に配属になった涼は栗田のことを覚えていた。『よろしくね、古屋涼くん』『...はい!あの時は...ありがとうございました!』そう言うと涼は栗田の手を握った。横浜警察の中でもとても優秀で...水蓮寺と涼は名コンビだった。事件解決は早く、市民にも刑事仲間にも人気だった。栗田は...少し失敗をしてしまった。それは涼が警視総監室に入ってきた時だった。ついうっかり...情報横領をしている資料を見られてしまった。ほんの一瞬だったが、やはり優秀な刑事だった古屋圭司の息子の涼はその一瞬でも何かの疑いに変わった。その時は何も言わずに出て行ったが、その数ヶ月後...涼は栗田に問い詰めた。『警視総監...俺、調べたんです。あなたが...俺の両親を殺した犯人の可能性があるって...あと、影月組に情報横領をしていたって...』『何を言ってるんだ?おかしな話はやめてくれないか?』『でも俺...ッ!』『いいのかな?私に逆らっても...』『え...』『大切な妹がいるだろ...君には』それだけ言うと涼の元を去った。それ以降は涼も何かを言ってくることはなかった。しかしバレてしまったのは事実だった。栗田はもう歳だったから影月組の殺し屋を雇って涼の車を少しばかりいじってもらった。そして涼は事故に見せかけ殺された。―――「まぁ、一緒に乗っていた水蓮寺も勘の鋭い男だったから消してしまえと思ったが...涼の思惑か、水蓮寺が死んでいなくてびっくりしたけどね」そこまてま話終えると立ち上がった。
その頃、水蓮寺は小島の元へ来ていた。「小島、古屋来なかったか...?」「美子ちゃんなら...さっきメールで頼まれてたこのメモの写真送ったら電話切っちゃった」そう言いながらメールで送った修正済みのメモの切れ端を見せた。「...ッ!!」すると水蓮寺はその切れ端を見た瞬間に顔色が変わった。「水蓮寺さん?」「...古屋が危ない」そう言って走り出そうとした水蓮寺を小島が止めた。「待って!行くなら...これ持って行って?」渡されたのは小さな血糊の袋だった。「...は?なんでこれ...」「いいから!はい、行ってらっしゃい!」水蓮寺は小島に背中を押されると不思議に思いながらも血糊の袋を胸ポケットにしまい、走り出した。
水蓮寺がやってきたのは影月組の事務所だった。「水蓮寺さーん...あんたまだッ...」影月が呑気に出てきた瞬間に水蓮寺は影月の胸ぐらを掴んで壁に押し付けた。「お前!組長に何を...ッ!」掴みかかろうとした子分たちを蹴りで交わすと影月を睨んだ。「...栗田はどこだ...知ってるだろ...」「栗田?知りません」「嘘つくな!...お前...栗田と繋がってるだろ...知ってるんだ...!教えろ...」水蓮寺は今にも影月を殺しそうな勢いだった。「...栗田の場所は知らんけど...影月組の所有してる警察に絶対見つからん廃ビルなら...港の方にあります」苦しそうにしながら答えると水蓮寺は影月を離し、再び走り出した。
「今回の事件は私が筒井に頼んだんだよ...」立ち上がった栗田は美子にナイフを向けるとまた話し出した。「...どうして」「被害者の二人には全く恨みなんてないよ、ただ君を容疑者にしたかっただけ...」「え...」「そろそろ気づいているかと思ってね...父親みたいに刑務所に入れてしまえばいいと思ったんだよ」栗田は美子が自分のことに気づいてると思い、今回の事件を起こすべく公園で出会った筒井に頼んだ。被害者の傍に美子の父親の遺品があれば確実に美子に矛先が向くだろうと...「だが一件で捕まるかと思ったが...一課は何をしてるのか...君が捕まることは無かった」「だから...二件目を...」二件目は確実に美子を犯人にするために栗田も現場に出向いた。二件目の被害者を筒井が殺したあと、栗田は事務所の中で待ち伏せをした。あらかじめ美子が死体が苦手だということを調べた上で...美子を呼び出したのだ。そして気を失った美子に近づくと凶器である包丁を手に握らせて被害者の近くにはまた美子の父親の遺品を置いて、その場を去った。「...でもこれもまた、三課のみんなが頑張ってしまったおかけで...筒井を逮捕されてしまった」「筒井は...あなたのことを一つも話していなかった!」「そりゃそうさ、会う時は顔を見せないようにしていたからね?声も機械で変えていたし、私が誰だかなんてしらなかったはずだよ」勝ち誇ったかのような顔をすると栗田はナイフを美子に突きつけた。「...ッ!」「最初から殺してしまえば...よかったんだと思った」「...わ、私を殺せば...水蓮寺さんがあなたを捕まえますよ!」「水蓮寺くん?あぁ、彼もまた殺せばいい...影月組の殺し屋に頼んでね」ニヤリと笑うと栗田はナイフを美子の心臓に持っていき「...君のお父さんもお母さんも一発で死んだよ。どうやら私は心臓に刺すのが得意みたいだからね」そう言うと美子の心臓にナイフを刺そうとした。「...ッ助けて!水蓮寺さん!」美子は最後に心の底から叫んだ。「叫んだって誰も来ないよ...」すると...「古屋!」ガンッと大きな音を立ててドアが開いた。「...水蓮寺くん」「はぁ...ッあんた...どこまで腐ってんの...」息を切らした水蓮寺は栗田に近づいた。「君から来てくれるなんて...影月組に高いお金を払って殺してもらわなくて済んだよ」「もう歳だろ...俺に勝てると思ってんの?」そう言うと水蓮寺は栗田に向かった。動けないと思っていた栗田は水蓮寺の攻撃を避けた。「動けんだな...おっさん」「警視総監に向かっておっさんはないと思うよ?水蓮寺くん」会話をしながらも二人の抗争は続く。「...水蓮寺さん...ッ」縛り付けられた美子は見ていることしか出来なかった。すると栗田がナイフを振りかざして水蓮寺に襲いかかった。水蓮寺はギリギリ避けようとしたが...運悪く胸の辺りを刺され血が出てきた。「ッく...!」その血の量を見た美子は涙を流しながら叫んだ。「い、いや...水蓮寺さんッ!!」その声に一瞬振り向いた栗田だったが、その一瞬で水蓮寺は栗田に蹴りを入れて栗田を倒れさせた。素早く手錠をかけるとちょうど駆けつけた安井と新堂により栗田は連れていかれた。安井たちに栗田を託した水蓮寺は美子の元に駆け寄り、ロープを外した。「す、水蓮寺さん!血が...」美子は泣きながら水蓮寺の胸から大量に出る血を見ながら言った。「偽物だ...」ロープを外すと心配する美子に水蓮寺は何も無かったかのように答えた。「え...」「小島から貰った血糊の袋がナイフがかすれたことで破れただけだ...よし、解けたぞ」そう言うと胸ポケットから破れた血糊の袋を出して見せた。「...ほんと...だ...。...もう!心配したんですから...ッ!」怒って立ち上がった美子を水蓮寺は抱きしめた。「...ッす、水蓮寺さん...!?」驚きを隠せない美子に対して水蓮寺は強く抱き締めながら少し震える声で呟いた。「...俺を心配させるな...」「す、すみませんでした...」謝る美子の声に被せるように水蓮寺は「俺にはお前が必要だ...」はっきりとそう言った。「え...ッ」「...もうお前を離さない」一言言うと戸惑っていた美子も水蓮寺の背中に手を回して「...はい」静かに頷いた。
「水蓮寺...そろそろ...ッたく...」栗田をパトカーに乗せたあと様子を見に来た安井は二人の姿を見て「見せつけてくれんで...ホンマに...」小さくそう言うとパトカーに戻って行った。後から来た新堂は「...やっぱり俺があの時に言ってよかったっすね」と自慢げに言いながらパトカーに乗った。「ん?水蓮寺になんか言うたんか?」「あぁ、実は俺...相棒をシャッフルした時に気づいたんですよ...水蓮寺さんの気持ちに」―――『水蓮寺さん、すい...』古屋さんが安井さんの手を引っ張っていくのを見た水蓮寺さんは嫉妬している様子だったので...様子を見ながら色々と調べてたんです。そしたら...それが水蓮寺さんに見つかっちゃって...『お前...どういうつもりだ...』『どういうつもりって...水蓮寺さんならもう分かってるんじゃないですか?自分の気持ち...』俺は水蓮寺さんに聞いたんですよ...『安井さんと古屋さんがキスしたって聞いて内心焦ってましたよね?確実に...』『は?そんなわけないだろ...』『まぁ...そのうち分かりますよ...きっとね』―――「で、古屋さんにも水蓮寺さんのこと好きなのか確かめようとして...わざと水蓮寺さんがヤクザ組と繋がってる的な嘘を言ったんですけど...」「ヤクザ組と繋がってんのはホンマやったってわけやな...」「あれはびっくりしましたね...でも、水蓮寺さんがヤクザ組と繋がってるって聞いた時の古屋さんの反応は確実に水蓮寺さんのこと好きでしたね...」新堂は満足気に笑うと「あ、安井さんのことはちゃーんと慰めますからね!」「あほ!さすがにもう落ち込んでへんわ!」そう言うと車のエンジンをかけた。
栗田は全ての犯行を認め、無期懲役の判決をくだされた。もちろん、取り調べをしたのは安井だったが...話をする前に全てを認めて全部話され、呆気に取られていたようだ。栗田は昔のことも全て話し、影月組と繋がっていたこと...そして影月組の悪行まで話してしまったため、後日影月組への家宅捜索が行われ...見事に影月組は一人残らず全員逮捕されたのだった。
栗田のしたことはたとえ上に上がりたいという目的があったとしても...全て許されることではない。
そしてその報告をするために...美子はお墓参りに来ていた。「お父さん、お母さん、お兄ちゃん...全部終わったよ。私、ちゃんと終わらせたよ」お墓の前で手を合しながら話していると兄の涼が隣にいる気がした。いつものように...『美子、やったな!』そう言って笑顔で頭を撫でてくれているような気が...。
あれから一ヶ月が経ち、美子はもう立派な刑事だった。「行ってきます、お父さんお母さん...お兄ちゃん!」机の上に飾られた写真に挨拶をすると家を出た。すると隣の家のドアも開いた。「あ、水蓮寺さん!おはようございます!」「...あぁ」一言だけ言うと先に歩き出す水蓮寺。美子は後を追いかけると「一緒に行きましょうよ!水蓮寺さん!」「は?誰がお前と行くか...寝言は寝て言え」冷たく言い放つと早歩きをした。「あれ?お前が必要だって言ってくれたじゃないですかぁ?あれは嘘だったってことですかぁ?」とからかうように言うと水蓮寺は美子に近づいた。「な、なんですか...」黙って美子の顎を持つと軽くキスをした。驚いた美子は怒ろうとした。「ま、またそうやって冗談で...ッ!」すると水蓮寺は美子の耳元に唇を近づけると小さな声で「お前が好きだ」それだけ言うとまた先を歩いて行った。「...ッえ」顔を真っ赤にしながらも我に返ると慌てて水蓮寺を追いかけた。「ちょ...ま、待ってくださいよ!水蓮寺さーん!」
ドSでド変態な刑事の水蓮寺とそれに振り回される超純粋な無経験刑事の美子。この二人に今後、どんな事件が待っているのでしょう。
最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。
こちら完結しましたがスペシャル版として続編を書いているところです。
もし気に入って頂けましたらそちらも待っていてくれると嬉しいです。




