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飛行のさなか、私は北の指導者に訊ねた。
「星の民とはなんだ? 彼らは生き物か? それとも化け物か?」
北の指導者は答える。
「生き物と言いたいところだが……化け物に近いな。腕がいくつも生えているもの、頭が三つあるもの。摩天楼のように巨大な者もいれば、口の中にすっぽり収まるほど小さな者もいる」
「星の民というからには、星から来たのだろう」
私が続けると、彼は首を振った。
「違う。星からここへ来るには、時間がかかりすぎる。私たちが見ている星は、常に過去だ。星の民からすれば、我々は過去。逆に我々からすれば、星の民もまた過去なのだ」
理解はできなかった。
「では、臍を噛むような思いはないのか?」と問うと、北の指導者は答えた。
「星の民は、過去・現在・未来をすべて見通している」
信じがたい話だった。だが、真実というものは、いつだって受け入れ難いものだ。
「着陸する」
「わかった」
北にもソサエティが存在した。
しかし様子がおかしい。
彼らの姿――翼が生えていたのだ。
その翼は、鳥類の遺伝子を取り込んで生えたものらしい。だが人間の体重では飛べるはずもなく、皆がそれを「偽りの翼」と呼んでいた。
偽りか……。
私もまた偽りの存在だ。
北の指導者に導かれ、ラボを訪れた。ここでは遺伝子組み換えの実験が行われているという。
「どんな実験だ?」と訊ねると、彼は答えた。
「植物と人間の遺伝子を組み合わせている」
「そんなことが可能なのか」
私は驚き、フラスコを手に取り、その液体を一気に飲み干した。
異変も異常も感じられなかった。
植物とは、育つのに時間がかかるものなのだ。
私は北のソサエティで南のことを語り、姉を探していると告げた。
だが「知らない」と返されるばかりだった。
私は怒りに駆られ、「姉は生きているのだ、嘘をつくな」と言ってしまった。
やがて後悔した。
――これは恐喝ではないか。
牢に放り込まれるのではないか。
そんな疑念ばかりが頭を過ぎる。
天の民よ、聞こえるか。
「聞いている」
――これは恐れ入った。
正気の沙汰ではない。
私に何ができる。
「私は言ったはずだ。戻れ、と。影に忘却されたいか」
やめてくれ。
「ならば、反対の行動をとれ」
反対の行動? どういう意味だ。
何に対しての反対なのだ。
すると北の指導者が言った。
「ここで待っていてくれ。すぐ戻る」
私は思案を巡らせることもなく、行動に移した。
――やってやろうではないか。
「玉」と念じ、「飛車」の真似をした。
月光に照らされながら、摩天楼を上から見下ろしていた。




