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その男は自らを「指導者」と名乗ったが、どこの地域の指導者であるかは明かさなかった。
私が南の者である以上、少なくとも南でないことは確かだ。
おそらく東か西だろう──そう考えながら、ひとり思索に耽る。
考えるという行為は、疲れるものだ。
ただ男がそこに立っているだけで、「敵か味方か」と判断を迫られる。
男は言った。「助けに来た」と。
そして私にこう尋ねてきた。
「指導者はどうした?」
だが、私が指導者であることに変わりはない。
その旨を伝えると、彼は目を見開いた。
「五年前は、女だったが……男になったのか?」
と妄言を吐くので、「違う、それは姉だ。私はその弟だ」と答えてやった。
彼は何度か頷き、ようやく納得したようだった。
私は、星の民と会話できることは伏せておき、代わりに自分の特異能力である「玉」について話した。
すると彼もまた、特異能力を持っているという。
名を「飛車」と言った。
彼の力を一言で表すなら、「弾丸」だろう。
ただ念じるだけで、あるいは口に出して唱えるだけで、一直線に突き進む。
猪突猛進。
縦、横、そして上下――三方向に自在に移動できる能力だった。
「他にも能力者はいるのか?」と尋ねると、彼は「桂馬」を見たことがある、と答えた。
その力の詳細までは知らぬようだったが、「玉には及ばぬだろう」と高を括っていた。
実際、「玉」にはできることが多い。
攻撃の一手にもなり、防御の一手にもなる。
それこそが、最大の強みだ。
この歓楽街は、どうやら場所が悪いらしく、男は移動を望んでいた。
そして彼――北の指導者は、私の手を取り、高く舞い上がった。
空を、飛んでいた。
遥か眼下に、歓楽街が広がる。人々はまるで豆粒のようだった。
私たちは、白い摩天楼よりも高く飛んでいた。
「これより北へ向かう。心せよ」
「……わかった」
私は信じていた。姉は、北にいると。
姉は必ず、北にいる。
北の指導者に掴まりながら、私は空を、縦横無尽に駆け巡った。




