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更紗の脈理  作者: VIKASH


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6

 




 夢ならば、痛みなどないはずだ。

 だが、私の痛覚は確かに痛みを訴え、私はその苦しみにもがいていた。


 ――苦しいか、痛みよ。

 私もまた、苦しいのだ。


 貴様の気持ちはわかる。

 この腐れ落ちた顎を外してほしいのだろう。


 だが、そうはいかない。

 外してしまえば、貴様は私に襲いかかるに違いない。


 ……いるのだな。

 私の産毛から生えた一本の毛、その先に姉の顔があった。


 気味が悪い。

 私はその毛を引き抜いた。


 すると、毛はわんわんと泣き喚いた。


 こんなことがあってたまるものか。

 私はその毛をつまみ、ふうと息を吹きかけてやった。


 よろよろと揺れる毛を拝むように見つめながら、

 「痛かったな。すまぬ」

 そう言い聞かせてやる。


 だが、所詮は毛である。

 何も答えは返ってこない。


 ただ、その先端に姉の顔を浮かべ、からかうように微笑んでいた。

 まるで先程の私を映し出すかのように。


 悔しくもあり、哀しくもあった。

 やはり、私と姉という存在は切っても切れぬものなのだ。

 そう確信した。


 私は身支度を整え、一軒の小屋へ足を踏み入れる。


 ――ここはどこだ?


 あの世だ。


 そうか。私はとうとう来てしまったのだな。

 道の途中には川があった。

 三本の川が並び、手前の川はゆるやかにカーブを描いていた。

 それはまるで「川」の字のようであった。


 私は死んだのか。


 いや、違う。まだ死んではいない。

 私は確かに生きている。


 だが、この地の住人は奇妙な者ばかりだった。

 皆が黒い靄を纏い、低く呪文を唱えている。

 その光景に、ただでさえ空腹な私はさらに気がおかしくなりそうだった。


 私は腹が減っているのか?

 その感覚すら曖昧になっていた。


 川を離れ、小屋に入る。

 ここはあの世――何が潜んでいるかも知れぬ場所だ。


 私は探索を決意する。

 手遅れになる前に戻らねばならない。

 なぜなら、姉はここにはいないのだから。


「サラサ」


 どこからともなく声が響く。


 星の民か?

 ……いや、違う。これは私自身の声だ。


 小屋の老爺が、私の声で語りかけてきた。

 気づくまでに時間がかかった。


 そうか、貴様は私なのだな。

 貴様はここへ来たのか。


 ならば、私はあちらへ行こう。


 さらばだ、私よ。


 私はそう告げ、あの世を「理解できぬ場所」と判断し、そこから逃げ出した。


 猿もいなければ、蟻もいない。

 あの世は平和か?


 ――いや、違う。


 そこは虚無だった。






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