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夢ならば、痛みなどないはずだ。
だが、私の痛覚は確かに痛みを訴え、私はその苦しみにもがいていた。
――苦しいか、痛みよ。
私もまた、苦しいのだ。
貴様の気持ちはわかる。
この腐れ落ちた顎を外してほしいのだろう。
だが、そうはいかない。
外してしまえば、貴様は私に襲いかかるに違いない。
……いるのだな。
私の産毛から生えた一本の毛、その先に姉の顔があった。
気味が悪い。
私はその毛を引き抜いた。
すると、毛はわんわんと泣き喚いた。
こんなことがあってたまるものか。
私はその毛をつまみ、ふうと息を吹きかけてやった。
よろよろと揺れる毛を拝むように見つめながら、
「痛かったな。すまぬ」
そう言い聞かせてやる。
だが、所詮は毛である。
何も答えは返ってこない。
ただ、その先端に姉の顔を浮かべ、からかうように微笑んでいた。
まるで先程の私を映し出すかのように。
悔しくもあり、哀しくもあった。
やはり、私と姉という存在は切っても切れぬものなのだ。
そう確信した。
私は身支度を整え、一軒の小屋へ足を踏み入れる。
――ここはどこだ?
あの世だ。
そうか。私はとうとう来てしまったのだな。
道の途中には川があった。
三本の川が並び、手前の川はゆるやかにカーブを描いていた。
それはまるで「川」の字のようであった。
私は死んだのか。
いや、違う。まだ死んではいない。
私は確かに生きている。
だが、この地の住人は奇妙な者ばかりだった。
皆が黒い靄を纏い、低く呪文を唱えている。
その光景に、ただでさえ空腹な私はさらに気がおかしくなりそうだった。
私は腹が減っているのか?
その感覚すら曖昧になっていた。
川を離れ、小屋に入る。
ここはあの世――何が潜んでいるかも知れぬ場所だ。
私は探索を決意する。
手遅れになる前に戻らねばならない。
なぜなら、姉はここにはいないのだから。
「サラサ」
どこからともなく声が響く。
星の民か?
……いや、違う。これは私自身の声だ。
小屋の老爺が、私の声で語りかけてきた。
気づくまでに時間がかかった。
そうか、貴様は私なのだな。
貴様はここへ来たのか。
ならば、私はあちらへ行こう。
さらばだ、私よ。
私はそう告げ、あの世を「理解できぬ場所」と判断し、そこから逃げ出した。
猿もいなければ、蟻もいない。
あの世は平和か?
――いや、違う。
そこは虚無だった。




