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更紗の脈理  作者: VIKASH


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55/57

55

 



 気づけば、すでに縦に十メートル、移動していた。


――これでよかったのか。

 すまない、ルドルフ。


 背後で獣の咆哮が響く。

 ……倒せていない?


 嫌な予感がした。

 背後はガラ空き。どうしてくれる。


 知ってか知らずか――私は足を半歩ずらし、身体を捻った。

 抜刀すれば終わらせられた。

 だが、仲間を傷つけたくはない。


 頼むぞ。


「――玉戀ギョクレン


 閃光が走る。

 愛のある一撃。

 味方にしか使えぬ、矛盾した技。


 習得したときから考えていた。

 いつ、誰に使うのだろうと。


 対象の動きが止まる。

 まるで金縛りにあったかのように。


――すまないな、ルドルフ。


 そのとき、

 耳の奥で、微かな声が響いた。



――たすけて。



 誰だ?

 私は反射的に飛車を展開し、退避する。



――ペティ、今の声は?

――わからないわ。



 そうか。なら仕方ない。


 砲撃音が夜を裂く。

 ペティ――エリザヴェッタ・ペトロヴァが誰かと交戦している。

 相手は……何者だ?



 《電力残高、残り……》



 息が荒い。

 特異能力を酷使しすぎた。

 休息が要る。

「ディープスリープ」だ。


 何もしないことも、時には必要だ。

 だが――休める状況ではない。


 ……わかった。成りすましで行こう。

「歩――成金」


 ホログラムの“私”が、もう一人、現れる。


 そして私は、意識を落とした。


---


 どれほどの時間が過ぎたのか。

 目を開けると、ロード・エジソンの邸宅は跡形もなかった。

 私は咳き込み、口から赤を吐いた。


 ――吐血ではない。

 人工血管を流れるオイルだ。

 赤く染色されてはいるが、血ではない。


 油圧で動く身体が、軋んでいた。


 戦場はどうなった?

 みんなは無事なのか?


 最初に出た言葉は、それだった。

「……ここは、どこだ?」


 見知らぬ景色。

 あのドーム状の邸宅が、更地になっている。


 理解が追いつかない。

 どういうことだ?

 みんなは――どこへ?


 私は、一人取り残されていた。

 誰も、私がディープスリープに入ったことに気づかなかったのだ。


 仕方ない。

 せめて、ペティに告げるべきだったか。



――大丈夫ですか。



 声がした。医療班だった。

 どうやら一週間、経っていたらしい。


 何も知らぬまま、私は州立病院へ搬送される。


 病院――落ち着くには遠い場所だ。

 休めるのか? と問われれば、休める。

 だが、それで何が変わる?


 ヘリの振動が身体を揺らす。

 窓の外で、ニューライトの街が遠ざかる。


 ――さらばだ。






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