50
――ドッドッドッ。
鉛――いや、厳密には鉛とは呼べないかもしれない――が、連続して射出されていく。
私の腕から放たれるのは、鋼鉄製のマカダミア弾。無数の弾丸が空間を裂き、敵を押し潰していった。
チョコレイトバー・ミックスナッツ味。
撃っても楽しい。食べても美味しい。
抹茶味もなかなかだったが、あれはすでに効果が切れている。
だが今は違う。アップグレードによって暗視機能が追加された。
視界を切り替え、周囲を確認する――しかし、白い忍者の姿は見えない。
どこに潜んでいる?
――こちら、ベンゼル・クライストン。
初めて聞くフルネームだが、今はそんなことに構っていられない。
――どうした?
――奇襲を受けている。展開してもいいか?
――何の話だ?
――見ていてくれ。すぐにわかる。
理解する間もなく、右方向から轟音が響いた。
空気が爆ぜ、衝撃波が押し寄せる。鼓膜が破裂しそうなほどの圧力。
敵はたじろいだ。その一瞬を、私は逃さなかった。
――名を名乗れ。
――アストロ。
男の声? どういうことだ。
……まあ、私も中身は男だったな。別に不思議じゃない。
しかし、相手はそれ以上何もしてこない。
この隙に拘束しておこう。
アストロの腕を取り、羽交い締めにして帯状のテープで固定する。
これならば逃げられまい。念のため、特異能力を妨害する電波も発しておく。
以前、「もしものときに」と渡されたヘッドホン型の装置があった。
それを頭に装着させると、特異能力を封じることができるらしい。
正式名称は知らない。……まあ、“電波ホン”とでも呼んでおこう。
これでいい。
動けない。
使えない。
何もできない。
三拍子、完璧だ。
さて、口を割らせるか……と思ったが、どうやら筆談のほうが早そうだ。
外国語を話していたが、こちらの言葉が通じるか試してみよう。
パネルに「どこの出身だ?」と書き、電子ペンを握らせる。
アストロは静かに何かを書き始めた。
どうやら、この国の文字が読めるようだ。
パネルに浮かび上がった文字――「たすけて」。
……助けて?
何を助けろというのだ。
襲ってきたのはお前の方だろう?
そう言いかけたその瞬間、アストロの足元に黒い穴が開いた。
まだいるな。
白い忍者――いったいどんな能力を持っている?
――ルドルフ。位置情報を転送した。挟み撃ちにする。
――イン・オルドヌング(問題なし)。




