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――我々は、白百合白虎隊である。
なんだと?
滅び去ったはずの名が、ここにある。信じがたい。なぜ、存在するのか。
白百合白虎隊――女性のみで構成された特殊任務部隊。ということは、先ほど男だと思っていたあの人物も、女なのか。
疑念は即座に心を占めた。血液による遺伝子操作でペティ――エリザヴェッタ・ペトロヴァを再現しているのだとしたら、私自身もまた、模造されているのではないか。
近傍のルドルフを呼ぶか。遠隔のベンゼルを呼ぶか。二者択一の中で、私の口は動いた。
――ルドルフ。私だ。
――ニヒト・イェッツト(それどころではない)。
呼び出しは、断たれた。ならば――ベンゼルへ、神経伝達ステルスコントロールを介した情報転送を試みる案も浮かんだが、この偽りのペティは甘くない。赤雪姫の影に似て非なる者。漆黒の戦装束に身を包んだ、その姿は――黒雪姫と呼ぶに相応しい禍々しさを帯びている。
旧日本帝國の白虎隊が再び姿を見せるような事態。白百合には「死者に捧げる」という花言葉があると誰かが呟いたなら、それは不吉という他ない。愚かにも勇ましい名を冠する者たちよ、何を怖れないのだろう。
その瞬間、身体に稲妻のような衝撃が走る。電脳端末を外したときの、痺れるような感覚。効果が切れたのか――否、視界は保たれている。違和感はあるものの、感覚は同じく動いている。周囲は何も変わらない。
偽物ペティは血液を操り、刃を形成して我が身を襲う。致命に等しい一撃を何度も振るわれんとするが、私はルドルフより受け継いだマーシャルアーツでそれらを弾き返す。反撃の機を窺う。だが思考は冷徹に巡る――一致率が高すぎる。もはや“模倣”の域を越え、原本に極めて近い複製のようだ。
装束は異なれど、もし血液から微細な血小板を織り込み、漆黒を呈しているのなら説明はつく。だが、それであっても、現在の私は分が悪い。何らかの突破口が必要だ。
そのとき、顔面すれすれに何かが落下する気配がした。視界の端に捉えたのは――チョコレイトバー。ベンゼルからの──届いた支援か。彼に感謝を送る。届いているだろうか。
私は空中でチョコレイトバーを口に放り込み、かじる。歯ごたえはジャリジャリというよりゴロゴロとした不均一な感触。味ではなく、情報のように、目の前に表示が現れた。
フリードリヒの表示だ。
――〈コードネーム:マカダミアバレット〉確認。
――標的を定めよ。
承認する。狙点は――まずは足か。痛覚を残したくはないが、状況を考えればそれでは不十分かもしれぬ。よって、狙うべきは上部、核心部位だ。
私は拳を握りしめる。腕の付け根付近より、冷たく鋭い鉛管が発現した。まるで生命を与えられたかのように、銃口が肉の上に浮かび上がる。
――撃て。
――ノー・プロブレム(喜んで)。
鉄と血と命運が交わる瞬間。闘いは、新たな段階へと移行する。




