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――エリザヴェッタ。
駄目か。
攻撃を受けた。
制止不能――仲間同士での交戦とはな。
最悪の事態だ。
可能な限りペティの肉体を損傷させぬよう、防御行動に移行する。
私は低く呟いた。
「角矗」――発動。
この特異能力の本質は、“意図した対象を揃える”こと。
さらに、“角”が持つ共鳴と貫徹の性質を内包する。
発動と同時に、二本の角が形成され、肉体は強化。
野生本能と闘争衝動が、理性を上書きする。
――来い。
敵性対象:ペティ――エリザヴェッタ・ペトロヴァ。
能力、解放確認。
彼女の力は血液制御型。
血液を凝固、吸収、硬化、射出――
物理・エネルギー双方の攻撃形態を有する。
高速発射によるレーザー的運用も可能。
実に厄介な能力だ。
――“血鬼”。
来るな……。
「角」なら防御可能と踏んでいたが、これは想定外だ。
あれは……鎧か?
赤黒い生体装甲――異様だ。
この際、応戦するしかない。
そう判断した瞬間、私は壁面に叩きつけられていた。
……何が起きた。
まさか、血流操作によって神経伝達を強化しているのか?
それで、あの速度を……。
恐ろしい。
私が秘密を抱えるように、彼女にもまた、秘匿された“何か”がある。
誰もが隠して生きている。
誰にも明かせぬ真実を――。
――ペティ、何があった?
こちらサラサ。応答せよ。
……話してくれ。
――ごめんなさい。それはできないの。
『オブイェークト・ザフヴァーチェン
〈対象は確保した〉』
通信直後、白装束の部隊が出現。
忍者型兵装――多数確認。
裏切り……か?
――何をしている。理解しているのか。
このままでは、分裂は避けられない。
日本合衆帝國は、雨國へと変わる。
しまった……やられた。
これが目的だったのか。
確かに、外國籍のペティがその任に動くのは理にかなう。
だが、挙動が異常だ。
瞳の色が……変わっている?
まさか――。
――動くな。これ以上は危険よ。
……なるほど。
そういうことか。
この場には、“二人のペティ”が存在する。
単純な推論だった。
声だけの存在は、偽物。
本物のペティが裏切るはずがない。
なぜなら――彼女を雇用したのは、私自身だ。
だが、問題はそこではない。
どうやってペティの能力を複製した?
細胞レベルでの模倣か?
……いや、それとも――
細胞移植。
そんな技術、USZでもまだ実験段階のはずだ。
だが、現実として“起きている”。
我々――傑士四叡を相手にするとは。
白い忍者、貴様、何者だ。
どうやってペティの血を入手した。
もう言葉は不要だ。
勝利し、生還する。
――ただ、それだけだ。




