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ゆっくりと下降する。
鈍い音を立てながら、静かに着地した。
実のところ、「飛車」と呼ばれるこの特異能力の全貌は、いまだ謎に包まれている。
空気の圧縮による浮力なのか、それとも目に見えぬエネルギー波を散布して推進しているのか――その原理は不明だ。
あの「北の指導者」と呼ばれた名も無き男が、今どうしているのか。
それすらも、私には分からなかった。
私は今、ロード・エジソンの邸宅の外にいる。
この巨大なドーム状の建造物を外側から飛行してきたため、まずは正しい入口を見つける必要があった。
ロード・エジソンの邸宅には、出入り口が合計で128も存在すると言われている。
彼の研究分野といえば電気工学が有名だが、物理学においても群を抜いており、数々の革新的成果を残している。
この邸宅自体が、彼の研究の集大成――ロストテクノロジーの遺産を再現したものであり、
その遺物は随所に散りばめられている。
もっとも、素人目にはただの装飾や器具にしか見えないだろうが。
我々は、ある情報を掴んでいた。
そしてそれは、白い忍者と呼ばれる者も同様だった。
彼もまた、この「パーツ」と呼ばれるロストテクノロジーの欠片を密かに所持していたのだ。
――さて、手拭いを捲るとしよう。
だがその前に、彼女に伝えておくべきことがある。
私は数歩進み、128の扉のうちひとつを選び、再び邸内へと潜入した。
あの「悪魔の薔薇」――あるいは「赤雪姫」と呼ばれる彼女に、それを渡さなければならない。
彼女はそこにいた。
褐色の肌が光に照らされ、柔らかな陰影をつくっている。
淡いピンクの髪が、静かな気流に乗って優雅に揺れた。
扉を開けた瞬間、わずかな隙間風が吹き込んだのだろう。
ペティ――エリザヴェッタ・ペトロヴァのもとへようやく辿り着いたが、どうやら彼女には私の姿が見えていないらしい。
ここにいるのに。
何度も手を振ってみるが、彼女は反応しない。
仕方なく、面倒な位置情報転送を行うことにした。
神経伝達を介して自分の座標を彼女へ送信する。
ステルスコントロールを解除し、ついでに暗視モードも解く。
――これでいいはずだ。
残り三分。
抹茶フレイバーの効果は、あと三分で切れる。
ようやくペティは私の存在を感知したようで、驚いたように肩へ触れてきた。
その一瞬、彼女の瞳が大きく見開かれた。
……やはり、神経伝達による座標転送だけでは、完全に感覚を共有することはできないらしい。
――どういうことなの?
彼女の声に、私の思考が止まる。
抹茶フレイバーの効果のことか?
それとも、ロストテクノロジーの話か?
――あなたは……誰?
……え?




