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更紗の脈理  作者: VIKASH


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45

 



 ベンゼルは頷くと、どこか哀愁を帯びた表情で天を見上げ、すぐに視線を落とした。

 頭をポリポリとかきながら、何か言いたげだったが――彼なりの配慮だったのだろう。

 結局、何も言わなかった。

 いや、正確に言えば、私に一切触れなかった……というべきか。


 とりあえず、この一連の出来事をペティ――エリザヴェッタ・ペトロヴァに伝えることにする。


 方法は簡単だ。

 床に触れて、彼女の位置を特定する。

 そうすれば、任意の座標に対して情報を共有することが可能になる。


 ロックをかけるか、あるいはステルスコントロールを行えば、誰にも察知されない。


 だが、距離的にルドルフへ伝えるのは難しい。

 不可能ではないが、容易でもない。

 いくら神経伝達とはいえ、障害物があるならまだしも、広い空間が多く存在する。

 その中には真空地帯もあるようだ。


 どうやら、この伝達方法とは相性が悪いらしい。

 しまったな。


 ――あまり離れないでくれ、と言っておくべきだったか。


 私も元・指導者の端くれ。

 指揮を執る力量はあるつもりだったが、甘かったな。


 ベンゼル? 何をしている?

 こんなときにチョコレイトバーとは……。


 なんの真似だ?

 試しに一口かじってみる。


 袋を開け、銀紙を丁寧に取り除く。

 さすがに捨てるわけにもいかない。


 ベンゼルが手を差し出してきたが、手で制し包み紙をしまっておいた。


 ベンゼルが表情を綻ばせる。


 ……何がおかしい?

 私の顔がそんなに面白いのか?


 なぜ薄ら笑いを浮かべている。


 ――ああ、なるほど。

 頬にチョコレイトがついていたのか。


 どうやら、ゾンビのような顔をしていたらしい。


 フレイバーは抹茶。

 どこの州で作っているんだろう。


 うまかったな。


 ん? 今度はなんだ?


 近くの水たまりを覗き込むと、頬の抹茶に気づいた。

 ……ん? どういうことだ?


 瞳が、緑色に光っている。


 ――そういうことか。

 合点がいった。


 アップグレードだな。

 人工眼球に暗視機能が追加されたようだ。


 参ったな。

 これでは電力消費が著しく大きい。

 電気代が気になるところだ。


 USZの経費で処理しておくか。

 ペティに叱られなければいいが。


 さて――アップグレードのダウンロードは完了した。


 あとは、追うだけだ。


 助かった、ベンゼル。


 神経伝達を通して、ベンゼルが「左だ」と告げてきた。


 ……何もいない。


 まさかと思い、私はベンゼルを突き飛ばした。


 ――見える。見えている。


 白い忍者のような影。

 その茶色い瞳に、私の翠の眼光が反射する。


 目が合った。


 動けなかった。

 刀を抜く暇もない。


 だが、逃げるわけにはいかない。


 こっそりとカメラアイを起動し、記録を開始する。


 ……気づいたか?


 動かない。何もしてこない。


 おや、視線が外れた?


 どういうことだ。


 私は、ベンゼルからもらったチョコレイトバーの包み紙を、もう一度見つめた。






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