44
腰に携えた帝刀を抜刀する。その勢いで、私の黒髪が揺れた。髪が乱れた瞬間、顔の横を何かが掠める。
だが、何も見えない。——何事だ?
ベンゼルは肉弾戦を得意とする。後方から、彼が拳銃を発砲している音が伝わってきた。
その時だった。私の体に、何か大きなものがぶつかった。
……これはなんだ? 大きいといっても人間ほどの大きさだ。だが、なぜ見えない?
もしバグやチート行為なら、すぐに違反として対処されるはずだ。だが、どうやらそうではないらしい。
連携して攻撃パターンを読むか……
突進、そして降り注ぐような連撃。
なるほど。
相手は速さに自信があるようだ。
ならば——こちらも試してみるか。
私は心の中で「飛車」と念じた。
その瞬間、相手が光学迷彩を解除したかのように見えた。だが実際は、高速で映したり消したりしているだけだとわかる。
三年前と比べて、「飛車」の能力は格段に向上している。
速度が上がるだけでなく、それに対応するために動体視力や運動器官も強化され、身体全体が動的に反応できるようになっている。
これは私が電脳化して以来、変わらぬ進化の過程だ。
そもそも電脳化していなければ、この能力はあり得なかった。
この技術は旧彗國と旧日本帝國の技術を融合させたもので、「零式」と呼ばれている。
私はその「飛車・零式」をさらに発展させ、現在の形へと昇華させることに成功した。
とはいえ、まだ完全に慣れたとは言いがたい。
修業期間は三年。
だが、「飛車」を昇華させるまでに要した歳月は二年。
その後も使いこなすには、一筋縄ではいかなかった。
たとえば、打撃を放っても狙いを正確に捉えられず、タイミングがずれてしまう。
そんな問題が続いたが、私は諦めなかった。
殺戮者としての真髄を忘れたことはない。
出力や動作を何度も確認し、レコーダーに記録して分析を続けた。
その結果、少しずつコツを掴み始める。
一ヶ月前、一秒間に三発の打撃を打ち込むことに成功した。
そして現在では——六発。
その拳を、目の前の相手に叩き込んだ。
相手が怯んだのが見えた。姿が消えたり映ったりしているせいだ。
……こんなことなら、最初から使っておくべきだったな。
まさか、我が国の人間だったとは——。
これより、神経伝達を開始する。
どうやら出身は、バッハ州ハーモニアらしい。
私も行ったことのない場所だ。
なぜそこから来たのか、と問う。
すると彼は、「アリストテレス州へ向かっている」と答えた。
——何かあるのか?
神経伝達通話は強制的に遮断され、奴は姿を消した。
私はベンゼルの肩に触れ、すべてを伝えた。




