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更紗の脈理  作者: VIKASH


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42/60

42

 



 気がつけば、私は飛び込んでいた。

 あの男の言葉が、いまも耳に残っている。


 ――「考えてはならない」


 ああ、もちろんだとも。考えはしない。

 やってやろうじゃないか。


 私にしかできないことを。

 私だからこそ成せることを。

 この手で、今、掴み取るんだ。


 ガタッ――音が響く。

 反射的に、四次元空間から転送した手裏剣を放った。


 だが、何もいない。

 奇妙なことだ。


 音がしたと思えば、姿がない。

 気配を感じたと思えば、誰もいない。


 その瞬間、私は――考えてしまった。


 ――「私の選択は、正しかったのか?」


 過去の選択が脳裏をよぎる。

 三年前、私が“サラサ”になることを決意しなければ、

 この因果は生まれなかった。


 選択が選択を生み、

 その連鎖が歴史を紡ぐ。


 私は確かに、この手で歴史を掴んだのだ。


 ……待て。

 あの消えた男――奴は、特異な能力を持っているに違いない。

 そうでなければ、あの一瞬で床に穴を開けるなど不可能だ。


 穴を開けた理由は何だ?

 地下戦闘が得意だからか?

 あるいは、逃走経路を確保するためか?


 ……塞がれたらどうなる?


 しまった。

 この迷路のような洞窟を走り回っているうちに、

 穴が閉じてしまった。


 もう、手遅れだ。


 どうする?

 探すか? それとも戻るか?


 そうだ、光を探せば――

 いや、待て。先ほどの白い光……あれは奴の仕掛けた罠か?


 してやられた。

 完全に、まんまと引っかかった。


 あの光は、穴を塞いで逃げるための陽動だったのだ。


 男はどこへ――?


 背後から、鋭い痛み。

 視界が反転し、私は気を失った。


---


 ……ここはどこだ?


 小屋の中か?

 ひとりの老人がいる。


 彼は静かに佇み、何かを待っているようだ。

 手には、白いハンカチ。


 声を出そうとしたが、

 時間の流れが、ゆっくりと、異常に遅くなっていく。


 だが、思考だけは止まらない。

 時間の枠を超え、回転しつづけている。


 ――間違いない。

 これは「永遠落下」だ。


 永遠落下には、一定の規則がある。

 どんな環境でも起きるわけではない。


 私は……夢を見ているのか?

 永遠落下の夢を。


 老人がこちらを振り向き、

 ハンカチを静かに振る。


 笑っていた。

 皺だらけの顔に、憎しみも恐怖もなかった。


 ただ、優しさだけがあった。


 私は、永遠落下の中で伸びていく自分の体を、

 ただ呆然と感じていた。


 ――これが、回転しつづけるということか。


 おじいさん、ありがとう。


 そう呟き、瞬きをした瞬間、

 私は再び、あの迷路の中にいた。


 ……ここは?


 何だったんだ、今のは。

 変な夢だ。


 体を起こし、地面に手を触れる。

 現実の感触だけが、そこにあった。






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