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白い眼光が、私の視線と交わる。
――何者だ?
思考する間もなく、男の姿は霧のように消え去った。
逃げ足の速いやつだ。感心するほかない。
とにかく、あの眼光の正体を確かめねば……いや、しまった。
テレパス法の施行により、ニューロネットワークを介した通信は制限されている。
声を出さずに伝達することはできないのだ。
どうするべきか。
私は思案する。
――神経伝達、か。
なるほど、これがあればデンワなど不要だな。
床にそっと手を当てる。
刀は抜いたまま、静かに地面へ突き立てた。
微かな振動が伝わってくる。
……ベンゼルの位置を感知した。
おおよそだが、三人の居場所も掴めた。
二人は同じ地点にいる。
ルドルフだけが、邸宅の奥――私とは反対方向に潜んでいるようだ。
助けを呼ぼうかとも思ったが、それは叶わない。
私は、あの眼光を見据えたまま、刀を引き抜く。
鈍い音。
冷気が刃先から放たれ、先ほどの蒼炎を打ち消した。
これで道は開けた。
だが――あの剣士はどこへ消えた?
不可解な男だ。
そう思った瞬間、床にぽっかりと穴が開いているのに気づいた。
さて、どちらへ行くか。
突如として現れた穴、そして謎の白い眼光。
選択肢はひとつ。
どちらの正体も、確かめるしかない。
私は懐に手を入れ、銃を構える仕草で指先を相手へ向けた。
「――玉弾」
プラズマの小さな弾丸が、指先から放たれる。
三年に及ぶ修行の末、私は“玉”と呼ばれるエネルギー波をいくつかの武器へ変換することに成功した。
その原理は電気に似ている。
プラスとマイナス――体内の極を介して、空気中の窒素・酸素・二酸化炭素を結びつけ、
あるいは反転させ、並列させることで、“玉”を自在に操る。
ただし、それには言葉を発さねばならない。
その一言に、支出――つまりテレパス法の罰金が課される。
たった一言で、コーヒー一杯分の出費だ。
……ああ、珈琲が飲みたい。
あの苦みとコクが、たまらなく恋しい。
放った弾に反応はない。
静寂。
どうしたものか。
私は跳ねるように身を翻し、天井へと跳躍する。
不思議と、重力が軽く感じられる。
膝を曲げるだけで、床が弾むように反発してくる。
まるでゴムのようだ。
――まあいい。
天井の穴を調べよう。
そこには……光があった。
放たれていた“眼光”の正体は、獣でも人でもない。
ライトだ。しかも、かなり旧式のもの。
誰が、何のために仕掛けたのか。
疑問を抱いたまま、私は上方から――ぽっかりと開いた穴を見下ろしていた。




