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「誰だ」
こちらが問うと、男は無愛想な表情のまま、じっとこちらの様子を伺っていた。
片手を後ろに隠している。――何かを持っているな、と直感した。
簡単な話だ。
手の動きが鈍い。それだけで、相手の意図が読める。
これから何が起こるのかも、おおよそ察しがついた。
案ずるよりも容易い。
私は、自分に「これでいいのか」と確認する。
返事があるはずもないのに、「ああ、これでいい」と呟いた。
相手が一瞬、動揺したのが見て取れた。
三人とは、先ほどから別行動を取っている。
今、ここで男と対峙しているのは、私ひとりだ。
――どうする。
やってみるか。
私は四次元空間より武器を呼び出した。
帝刀――日本合衆帝國の刀だ。
かつて“サムライ”と呼ばれた戦士たちが、この刀一本であらゆるものを一刀両断にしたという。
その記録は、ニューロウェアのライブラリー――ニューロブックに残されていた。
興味深い歴史だ。
相手の手にあるのは、剣。
刀とは根本的に異なる。
刀は三重構造、剣は金属マターを高温で溶かし、成形しただけのもの。
緻密さが違う。
だが、現実は理論通りにいかない。
私の太刀筋がわずかでも甘ければ、斬られていた。
壁がスパッと切り裂かれる。
――恐ろしい切れ味だ。油断は禁物。
私は一歩踏み込み、刀を振る。
「――玉麟」
蒼炎が刀身を包んだ。
相手が数歩、後ずさる。
動揺したな。記述の通りか。
仕掛けがあるのを感じ取ったのだろう。
先ほど述べた三重構造――その第二層には“射出高”が内蔵されている。
刀身に空いた複数の穴が、原子を再構築し、炎を生み出す。
振るえば、蒼炎が舞い、退路を断つ。
これで逃げ場はない。
さあ、どうする。
世間は厳しいが、私はもっと厳しい。
――沈黙。
互いに一歩も引かないまま、静寂が落ちた。
男が唾を地面に吐きつけた。
……何のつもりだ?
次の瞬間、爆発が起きた。
可燃性のタブレットでも口に含んでいたのだろう。
やられたな。まるで籠の中の鶏――いや、雌鶏か。
私は立ち上がろうとしたが、体が異常をきたし始めた。
《ERROR》
視界がその文字で埋め尽くされる。
激しい動揺とともに、理解する。
――電脳戦は、終わったのだ。
まさか、奴はサイバーサムライか?
不思議なやつだった。
私は倒れ込んだまま、電脳戦を続ける三人の姿を見届け、
天井の照明を見上げた。
――そういうことか。




