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ズズ……ノイズが混じる。私の電脳回路がバグを起こし、どうやら故障してしまったらしい。
これは困った。だが、致し方ない。
今の私にできることといえば、愛すべき三人とともに紅茶を嗜みながら、禁止された思考について語り合うことくらいだ。
他に何ができよう。そう思っていた。
一見すれば、甘い考えのようにも思える。
ああ、うまい。
紅茶が五臓六腑にしみわたる。
まったく、最高の味だ。
さて――ここニューライトにおける我々の目的を、そろそろ明かそう。
我々、USZは、使命を果たすために電脳世界を離れ、この地にやって来た。
すなわち、ロード・エジソンが遺した“ロストテクノロジー”を探すために。
いまやホログラムは、投射技術として日常に深く根ざしている。
ホログラムなしでは、生活は成り立たないほどだ。
もっとも、ニューロウェア・インターフェースがある以上、必要ないと考える者もいる。
確かに、それは万能だった。
オックス社が開発した略称NWIFは、まるで回転寿司のように何でもそろっている。
ラーメン屋に行けばラーメンしか食べられないが、回転寿司ならラーメンも、うどんも、蕎麦も、寿司もある。
なんでもそろうわけではないにせよ、少なくともラーメン屋よりは便利だ。
――さて、話をロストテクノロジーに戻そう。
我々は“エキショウ”というものを知らない。
“ガメン”という概念も、この時代ではほとんど失われている。
ニューロウェア・インターフェースには確かにセントラルパネルやサイドパネルが存在するが、それらはすべて意識空間内のものだ。
現実空間に“物理的なパネル”が存在するなど、想像すらできない。
スイッチ。電源。
古すぎて、理解が追いつかない。
私の思考は混乱していた。
二千年前に放り出されたなら、迷子どころでは済まないだろう。
――さて、どうしたものか。
三人とともに、巨大なブラックボードの前へとたどり着いた。
これは……壁か?
にしては薄い。
“LE”の文字が刻まれている。
ロード・エジソンの遺物に違いない。
我々は、ついに辿り着いてしまったようだ。
慎重に周囲を観察すると、白い大きな箱の前面が黒く塗られている。
……これはなんだ?
指でなぞると、微かな凹凸。古代文字だ。
だが、読めない。
ロストテクノロジーがあるように、ロストシヴィライゼーションもまた存在する。
――これはまさに、古代帝国語だ。
なんて書いてある?
『後ろを見ろ』
私は、ゆっくりと後ろを振り返った。




