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ここはエジソン州の州都、ニューライト。
街中が電気の光で溢れている。
「エジソン」と呼ばれた彼は、電気工学に精通した人物だ。
だが、勘違いしてはいけない。トーマス・エジソンではない。――ロード・エジソンだ。
さて、今日は十月二十三日。
テレパス法の施行日である。
つまり、テレパシーが全面的に禁止される日だ。
電脳世界での会話は禁止とされた。
なぜなら、電脳同士の通信はニューロネットワークを介しており、それも「テレパシー」とみなされるからだ。
仕方がない。
死人に口なしというが、どうやって伝えればいい。
これでは、技を放つこともままならない。
もっとも、電脳世界も日々変化している。
言葉よりも神経伝達を使った方が、効率的なのも確かだ。
――やってみるか。
私はベンゼルに触れた。
すると、「右だ」と感じ取る。
私は「桂馬」を念じる。
次の瞬間、右斜め前方へと移動していた。
「言っただろう」とでも言いたげな気配が伝わってくる。
まあ、いい。これくらい造作もない。
――ルドルフは、なぜ動かない?
そうか。喋れないのだ。
言葉を交わせぬまま、彼の気配が徐々に薄れていくのがわかった。
つまり、もう戦闘態勢に入っているということだ。
平穏な街だと思っていたが、物騒なものだ。
エドワード・ニューライトから名を取った州都の名を、ふと思い返す。
ニューライト――彼には一度だけ会ったことがある。
光を自在に操る戦士だった。
今、彼がどうしているかは知らない。
だが、偉大な男だった。
いや、今でも偉大な男だと、私は信じている。
エリザヴエッタが私の肩に触れた。
その瞬間、彼女の思念が伝わってくる。
――彼に会いに行くつもりらしい。
わかった。
それが我々の目的であるなら、従おう。
三年という歳月が流れた今、私にできることは何か――歩きながら考える。
こうすればいいのか。いや、こうした方がいいのか。
自問自答を繰り返しながら、ただ前へと進む。
やがて、舗装された道に辿り着いた。
ここがそうなのか?
信じ難かったが、間違いないようだ。
ロード・エジソンの邸宅――。
重厚な三重構造の門をくぐると、ドーム型の建物が姿を現した。
この電脳世界には、現実を再現したオブジェクトがいくつも存在する。
たとえば、これ。
「マジックライト」
念じるだけで、指定の場所に光を灯せる。
神経伝達と光学を組み合わせた応用技術だ。
まったく、便利なものだ。
――さあ、作業に取り掛かるとしよう。
私は、隣に立つベンゼルへと手を伸ばした。




