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人工知能のフリードリヒは、そう設計されている。
我々の問いには、必ず答えねばならない存在なのだ。
その名は、哲学者ニーチェに由来する。
人工知能でありながら、感情を持つ。
普段は「永遠の睡眠」と呼ばれるスリープモードに没入している。
我々、機械化された人間もまた、定期的にメンテナンスを行う。
体内ではナノロボットが稼働し、自己修復を繰り返す。
この状態を俗に「ノンレム」と呼ぶ。
そして「レム」状態では、有機体と同等の深い睡眠――いわゆるディープスリープを得ることができる。
いまでは、「チョコレイトバー・ナノテク味」が、単なる栄養補給だけでなく、
メンテナンス機能まで兼ね備えるようになった。
このチョコレイトバーのナノテクにも、もちろん人工知能が搭載されている。
目に見えないほど微細な構造で、
その食感はもはや本物のチョコを凌駕していると言われる。
不思議なものだ。
機械を食べているのか、チョコレイトを食べているのか――自分でもわからなくなる。
フレイバーも豊富になった。
ウエハースのような軽い食感、クランチの歯ごたえ、あるいはガトーショコラの濃厚さまで。
その多様さは、進化の証だ。
そういえば、三年前に食べたチョコレイトバー・ナノテク味は、海賊版だったらしい。
ベンゼルが渡してくれたそれは、彗國製だった。
日本帝國製の私の機械化した身体とは互換性がなく、融合に失敗した。
なんとも皮肉な話だ。
東西南北の四國のほかにも、世界にはまだ見ぬ國が存在する。
私の力は、まだ衰えてはいない。
この三年間、皆がそれぞれに力を蓄えてきた。
「石の上にも三年」とはよく言ったものだ。
待つこと――それもまた、時に必要な試練なのだと、かつて姉が教えてくれた。
そして今、我々USAはその名を改め、
『USZ〝ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジパング〟』
すなわち「日本合衆帝國」となった。
四つの国を統合し、二十五の州を擁する新国家。
世界の均衡を変える新たな秩序として、立ち上がったのだ。
そこに名を連ねるのは、
私――サラサ。
そして、ベンゼル。
エリザヴエッタ・ペトロヴァ。
ルドルフ・ヴァレンシュタイン。
この四名が、「世界新基準」として新たな舞台に立つ。
「――ゆくぞ」
舞台は電脳世界。
我々は、星の民の居場所を探し求め、
静かに、しかし確かな足取りで歩き出した。




