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「そこまでよ」
『DIVE』の強制解除。ペティの仕業だった。
何をしてくれる――そう思ったが、ルドルフ・ヴァレンシュタインは、どうやら味方らしい。
ありえない。
どういうことだ。
そんなはずがない。
私が無造作に言葉を並べても、誰も耳を貸そうとはしなかった。
いや、こういう時、「相手にされない」と言うほうが正しいのかもしれない。
――だから言っただろう。
その言葉の意味が、今なら少しわかる気がした。
ルドルフの言葉とも辻褄が合う。
彼は、ただの戦闘狂ではなかった。
私とは違うのだ。
改めて、自分の愚かさを思い知る。
敵の味方は敵?
いや、彼は――味方だった。
そんな展開、微塵も想定していなかった。
自分にできることなら、相手にもできるはず。
……ところで、ルドルフの能力は何なのだろう?
彼の特異能力は、私のものに似ていた。
自動翻訳と電動切り替えによる会話――そう見せかけてはいたが、実のところ私は何も理解していなかった。
うむ、悩ましい。
電脳化は確かに便利だ。
だが、二十世紀以前の偉人たちは、誰もが可能性を信じ、幼少期から自らの才能を育ててきた。
その均衡を覆した「ある男」の登場――
だが、それを語るのは今ではない。
私も機械化した。
姉のようになれるのだろうか。
彼女のように、強き心と果敢な精神を持てるのだろうか。
もしなれるなら、そうありたい。
だが、私は所詮、見様見真似の二番煎じなのかもしれない。
電脳を通して過去の動きを模倣する――
しかし、特異能力だけは再現できない。
彼女はいったい、どうやっていたのだろう。
不思議で仕方がなかった。
さて――ヘリに乗り込むか。
今やヘリも自動操縦の時代だ。
人工知能、新世界基準。
世界は変わった。
私は、その光景を眼下に収め、監獄に別れを告げる。
ベンゼル。
エリザヴェッタ・ペトロヴァ。
ルドルフ・ヴァレンシュタイン。
そして私たちは、『U.S.A.(United Shadows Assembly)』――
“影の統合議会”という名のチームを結成した。
二番煎じにならなければいいが……。
あれから三年。
紀元三九九三年。
ソサエティは壊滅。
日本帝國は縮小。
世界各国の動きが不穏に揺れている。
私はまだ、動けずにいた。
世の流れの速さが、恐ろしい。
夜が苦手だ。
今は小さな小屋で、四人で暮らしている。
終末の世界で、機械に頼らぬ生活――
理想的ではないか。
ある音楽を聴き、心を打たれた。
確か、あれは……思い出せない。
戻って、ニューロフォンで聴こう。
私はニューロウェア・インターフェースを起動する。
《お戻りですか》
『フリードリヒ、接続してくれ』
《かしこまりました》




