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おお、そうか。ここで焼いたのか。
風を浴びながら、私は監獄の上空へとたどり着いた。
そこからは、彗國の全景が見渡せた。
一対の塔が並び立っている。
さきほどの大門から、長い階段を上ってここまで来たのだ。
シャシリクを頬張りながら登っているとき、串をどこに捨てるべきか迷った。
その瞬間、ぺティ――エリザヴェッタ・ペトロヴァの手に、それが吸い込まれていくのを見た。
どんな隠し芸だ?
そんなくだらないことを考えながら、私は鉄製の階段を一段ずつ踏みしめていく。
足を下ろすたび、金属音が鳴る。
手すりがあって登りやすいが、隙間から見下ろすと、その高さに思わず背筋が冷えた。
やばい、と思い、反射的に視線を逸らす。
その拍子に看守と目が合った。
スカートではなかったが、どうにも視線を感じた。
私は、そう打算して目を逸らした。
隣にはベンゼル。
前には、赤雪姫ことエリザヴェッタ・ペトロヴァ。
殺戮者と死神の使い、そして悪魔の薔薇――。
世紀末とはまさにこのことだ。
まあ、言われなくとも、ここは終末の世界だがな。
「先ほどの話だが……」
「何も言わないで」
そうか。すまないな。
空気が少し重いとは思ったが、やはりまずかったか。
同じ女同士――と言っても、私の中身は男だ。
もちろん、下心などあるはずもない。
機械化をすると、三大欲求が抑制される。
不思議なほどに空虚で、無気力な気分になるものだ。
殺気や怒りにも支配されにくくなるが、怒りとは本来、防衛本能の一部だ。
それを失えば、自分を守ることさえできない。
階段を登り切り、ヘリに乗り込もうとしたとき、
一人の男が退屈そうにシャシリクを焼いていた。
そんなに退屈なのか?
彼は一時も目を離さず、網をじっと見つめたまま、頬杖をついている。
正直、彼のおかげでチョコレエトバー・ナノテク味の不快感が和らいだ。
その点では、私は心から感謝していた。
しかし、狼のような男だ。
毛皮をまとい、白と黒が混じったような色合いをしている。
――灰色。
それが毛皮の色なのか、あるいは光の加減によるものか。
私にはそれが気になって仕方なかったが、他人からすればどうでもいいことだろう。
そんなことを考えながら、もう一本シャシリクを受け取り、かぶりついた。
「ありがたい」と言ったつもりだったが、男は鋭く睨んできた。
どうやら言葉が通じていないらしい。
勝手に取ったと思われたかもしれない。
「ダンケ・シェーン」とペトロヴァが口にする。
私は慣れないながらも、同じ言葉を繰り返した。
男は小さく笑い、獣のような犬歯をのぞかせた。




