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更紗の脈理  作者: VIKASH


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25/58

25

 



 タンクトップの男だった。サングラスをかけ、ふんぞり返っている。


 ――何事だ?

 私は、夢でも見ているのか。


「ここからだな、南の殺戮者」


 ……私の名を知っている?

 何者だ。私を“南”と知る者など、そう多くはない。


 日ノ刀・怪を構え、戦闘機の上で振るう。

 エンジン系統が故障し、耳障りな音が空気を裂いていた。


「覚えておけ、殺戮者。

 俺は――ベンゼルだ」


「六道輪廻・人間道」


 なんだ……様子がおかしい。

 常軌を逸した何かが、迫ってきているのか?


 震えが止まらない。おかしい。おかしいぞ。


 どうなっている。

 日ノ刀を握りしめたまま、私は退避した。


 爆発。轟音。

 耳鳴りが響く。


 ――うう、苦しい。


 人工肺もないのか?

 ポンプを動かせ。

 人工血管に血液を送れ。

 この血液がなければ、私は生きて帰れない。


 それにしても……滑稽な話だ。


 日本帝國の首相であるこの私が、奴隷のように扱われるとは。

 時代が変わっても、人間の本質は同じか。


 雇われ、無様に働き続け、

 無意味に、無解釈に、それを“本望”と抜かす腑抜けども。


 だが、私が求めているのは――“本物の自由”だ。


 ならば、やってみようではないか。


 逃げる? そんな選択肢は、とうに捨てた。


 ベンゼル……武士のような男だ。

 名乗ってくるとは、面白い。


 相手になってやる。


「ベンゼル……だったな」

「面白い。俺に向かってくるか」

「当たり前だ。首を寄こせとは言わん」

「どうするつもりだ」

「――斬る」


 その瞬間、ベンゼルは腹を抱えて、背中から倒れ込んだ。


 自爆か? パラシュートは見当たらない。

 どういうつもりだ。


「俺を知らないようだな。教えてやる」


 私は目を疑った。

 ほんの一瞬――男が“空間”を作り出していたのだ。


 六角形……?


 何だこれは。

 別の時間が流れている。


 ベンゼルの肉体が、急激に成長していくのが見えた。

 十五歳の少年が、一瞬で二十五歳の成人になるかのように。


 痩せ細っていた身体は筋骨隆々に膨張し、

 彼は、宙を歩いていた。


 ――これが西の力か?

 どんな科学技術を使った?


 国際法に触れているに違いない。

 そうとしか思えない。


 なぜなら、ベンゼルは機械化を一切していない。

 常人がこの高度をマスクなしで動くなど、不可能だ。


 どうなっている……。


「最も恐ろしいのは――人間だったりしてな」


 高らかに笑うベンゼル。

 面白い。ああ、面白いな。

 もう笑うしかない。


 “人間に不可能はない”――そう言ったのは、私自身だ。

 この二週間の演説でも、何度も使ってきた言葉だ。


 思い返せば、くだらない。

 信用を得て、国を思いのままに動かすだけ。


 そんなことで、私の価値が上がるのか?

 上がるものか。

 だから私は、いつまでも二流なのだ。


 ベンゼル……だったな。


 ――私には、まだ秘策がある。


 奴の目が、光った。






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