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前後の順序がめちゃくちゃになる──そんなことはよくある。一のつもりが二をしてしまう。耳だったか、鼻だったか、ああ、口だ。そんな訳のわからないビデオテープを見せられ、私は縛られていた。なんだこれは。
「ひっく、ニイミの『耳』だ」
「ほざけ」
「威勢がいいな」
それから、矢継ぎ早に質問を受けた。どうやら私が騙していたことが露見したらしい。もう一か八かどころの話ではなく、罪と罰の問題だ。
「南から来た」と答えると、二人は浮かない顔で私を見やる。酒男と馬男は泣き真似をしてから、「残念だったな」と喧嘩を売ってきた。
何が残念だ、と訊ねれば、弟が忘却されたらしいな、などと前後のめちゃくちゃな説明が返ってくる。私が弟で、忘れられたのは姉だと言おうとしたところで、星の民から『沈黙』という文字が頭の中へ流れ込んできた。
不思議に思っていると、呼びかけられる。
「なあ、殺戮者よ」
「なんだ」
すると、同盟を組まないか、と持ちかけてきた。どうやら彼らは指導者と、それを支える俗に言う支持者のようだ。ふむ、同盟か──断る。
私は即座に断った。気分がいい。彼らの、苦虫を噛み潰したような顔がこちらを睨んでいる。そんなに悔しいのか。私は一人で考え、何かできることはないかと巡らせた。
思いついたが、それをやっていいか判断がつかないまま時が過ぎる。
「くたばれ」
酒男の拳が腹を打つ。血反吐は吐かなかったが、機械化した体のため、足と胴体が分離していく。殴られるたびに体は粉砕され、やがて残るは頭だけになった。
頭だけでは無力だと踏んだのか、彼らは私を一人置いて扉の外へ出ていった。殺戮者がくたばると思ったか。身の程知らずとは言え、そもそも身がなければ知ることすらできない。
私は粉々になったパーツをかき集め、馬の脚を形成する。これが馬の力か──素晴らしい。脚力を得た私は扉を蹴り飛ばした。鉄を押し潰すような鈍い音がその場に響き渡る。
先ほどの馬男がやって来て言った。
「面白い。――桂馬」
これが桂馬か。模倣と本物、どちらが上か。今、確かめるときだ。
「抜刀。極彩哉」
刀は無い。ならば、この扉を盾にしてやる。
「来い」
互いに翔けたかに見えたが、私は動かなかった。動けば必ず隙が生じる──その一点だけは見逃せない。見事な二本脚の前蹴りを、私は浴びせた。




