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流れに身を任せればよかったのだ。
抗う必要などどこにもない。そのまま「玉」を放った。おそらく「玉」は特異能力ではなく、「DIVE」特有のコマンド──技だと相手は考えているだろう。相手の心の内は読めなくとも、私の心は私が一番よく知っている。
前撃の勢いそのままに私は突っ込んだ。酒男めがけて「玉」を投じる。すると「DIVE」から酒男の姿が消えた。残るは馬男だけだ。貴様ひとりになるな、相手をしてやる。
さあ、来い。どう出る?
『哉』
ん? 何だ今の声は──これは堪えられん。どんな筋力だ。刀の振りが速すぎる。
一、二、三。左、右、上。しまった、考えている間に遅い。前蹴りが腹に入る。
痛い。融合率が高いからだろう。下げるか。しかし下げれば身体能力も落ちる。三段蹴りは強力だ。少しは相手も怯んだに違いない。ならば、姉のような殺戮者の真髄を見せよう。私にしかできないことを、私だからできることを、やってみせるのだ。
さあ、もう一度だ。馬男、来い。
四本脚で走るその姿を、私は視認していた。
『うぐっ』
何だこれは。何もしていないぞ。現実世界だ。現実で酒男が攻撃を仕掛けているに違いない。迂闊だった──これが狙いか。どうする? 両方を相手にするなど不可能だ。
そうか、わかった。「男」だな──しかし「哉」とは何だ、わけがわからん。教えてもらうまでやめられん。
来た。
一、二、三。右? 振りかぶって右? また右だと? なぜだ、からかっているのか? 不手際にもほどがある。左が丸裸だ。
「わからないのか。左に何がある哉」
どういうことだ。張り上げたい衝動を抑え、私は冷静を装う。冷静に勝るものはない。ようやく喋ったかと思えば「左」と言う──ええい、叩き切ってやる。
まさか、相互作用か。左……そういうことだったのか。この男こそ、東の指導者に違いない。南が殺戮者なら、東は──
「いつからだ」
「先刻からである哉」
面白い。殺戮者を楽しませてくれる。私は強制的にDIVEを解除した。現実世界で、機械化した体に問題が発生したのだ。
参った。何もできないとはこのことか。酒男が私の首を掴み持ち上げる。憎い、苦しい。
その位置は、「左」だった。
「連れてけ」
「へい」




