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さあ、どうする? 何もできない。今の私は、詐欺師のようなものだ。
嘘について話してみよう。子供が嘘をつくとき、私の兄はすごい人だった。
いや、君の兄さんは普通だと知っている。だが最近、彼は変わった。
「最近?」──私は今朝、君の兄に会ったが、何も言わなかった。
きっと、伝えなかったのだろう。私は、君の兄の上司なのだから。
これ以上は言えない。嘘には、エッセンスとスパイス、そして少しの真実が必要なのだ。
たとえば、私が北の指導者ではなく、南の指導者であるかのように振る舞う──そんな具合に。
彼らの話を聞いた。南は、星の民と協力している可能性が高いと。
私は、情報を売るふりをして、南が何をしていたかを教えた。
「人を売っているらしいぞ」と。
そして北については、そのどうしようもなさを語った。
「我々は実は南と手を組んでいる。南の謀反について、教えてやる。
南は知らぬが、我々が裏切ることを東の貴様らに伝えてやる」
――悪くない話だ。
その一言が皮切りとなり、私は猿ぐつわで押さえつけられ、脳を徹底的に調べられた。だが、『DIVE』で北の指導者に潜入している──これもほんの少しの嘘である。
こうすれば……だが、実際はうまくいかないのだ。
『おい、貴様何者だ。あの奥の扉には何があるという。入れんぞ』
奥の扉? 何の話だ。
『貴様、星の民なのか? なあ、南の指導者よ』
『答えてやろう。私こそが“サラサ”だ』
そのとき、私が姉になることを決めた瞬間だった。黒い手袋をはめ、髪を長くした──電脳化、機械化。やれることはすべてやった。
殺戮者にして化け物と呼ばれ、黒い手袋はいつも赤く染まっていた。声帯も変えた。
「ボイスエフェクトチェンジ」
「誰だ?」
「私だ、殺戮者だ」
「来い」
まただ。星の民の声が聞こえる。
「言ってはならない。自ずと後悔する」
「貴様、何者だ」
「言っただろう。殺戮者だと」
――これより北へ再び向かう。
姉の異名は、私が一番よく知っていた。
世にも恐ろしい鬼人。死に絶えない殺戮者。飢えた化け物。
どれも、私に相応しいではないか。
何か言い残すことはあるか。
「待ってくれ。頼む。俺には家族がいるんだ。忘却はよせ。頼む」
利用価値がある。生かしておく。影に飲み込ませはしない。
鬼人として、殺戮者として、化け物として、世に知らしめてやろう。私が来た、と──
ここが東のソサエティ。「海上国」だ。
海の上に国を築くにあたり、漁業や軍事利用の範囲を海有権として確保する必要がある。
まさか、南に侵攻してはいないだろうな。許さんぞ。許さん。
怒りを抑えられなかった。
「貴様、名をなんという」
「言えない約束だ」
「ならば、東の指導者に伝えろ。殺戮者『SARSA』が来た、と。できるか?」
「ああ」




