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――この岩壁「玉」で吹き飛ばしてしまえばいいのではないか。
考えるほどに、ますます意味がわからなくなっていった。
年々、人工物は増加の一途をたどっているというのに、この岩壁の向こうからは、人の声ひとつ聞こえてこない。
不思議なものだ。
時代は変わりつつあるのに。
だが、私たちは変わらない。
変化していないのだ。
一日に三度の飯を食べ、仕事をし、休息を取り、床につく。
こんな幸せなことは、他にない。
だが、その日常の一端が、静かに変化しようとしていた。
ソサエティの一派には、こう問う者たちがいたという。
――時間は正しいのか?
――金は正しいのか?
――仕事は正しいのか?
確かに、確信的な百二十進数を取り込めるようになったとしても、金の価値など、いつ暴落するかわからない。
そもそも仕事とは、もとは奴隷が行うものだった。
常識とは、果たして正しいのか。
そう思うと、疑念が心を占める。
そんなことを考えながら、私は岩壁を登っていた。
凹凸を手にかけ、器用に手足を運んでいく。
その最中、赤い閃光が、左隣をかすめた。
最初は何かわからなかった。
だが、それはレーザーのようなものだった。
レーザーを掻い潜り、私は「飛車」の力を応用して、壁を駆けた。
清々しい気分だった。
重力に逆らい、駆けることが、これほど気持ちの良いものだとは。
だが次の瞬間、恐怖に凍りついた。
赤い閃光の正体がわかったのだ。
影から伸びる巨大な手。
その五指の先から、赤い光線が放たれていた。
ここは危険だ。
咄嗟にそう感じた私は、「玉」を放ち、岩壁に大穴を穿った。
だが、このときは知らなかった。
影には“種類”がある。
あの手は、上空へと舞い上がり、
忘却されし者たちを影の中へと引きずり込む手だったのだ。
忌まわしい存在だ。
私の得意能力「玉」や「飛車」で、対抗できないのだろうか。
そう考えた私は、飛んだ。
あの手へ向かって、飛び、「玉」を放とうとした。
だが――巨大な口が開き、私を待ち構えていた。
これは、たまらない。
私は落下した。
上ではなく、下へと。
「飛車」の力で影の引力に抗うことはできても、影そのものを消すことはできない。
これが、異邦者の力というものか。
恐れ入った。
もしそれを抹消できたなら、楽園は完成するというのに。
落下の途中で、私は体をひねり、進路を東へと変えた。
金色の塊があった。
その塊に頭をぶつけ、私は海へと投げ出された。
水しぶき。
口からこぼれる泡。
どれもが、生命の終わりを予感させた。
「準備はいいか?」
海底まで沈む途中、誰かの声が確かに聞こえた。




