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更紗の脈理  作者: VIKASH


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 岩壁にしがみつきながら、眼下の鮫を見下ろす。

 なんと大きな鮫だ。喰われてはたまらない。


 ――それでも、私にはまだ人の心が残っている。

 私はこれまで「他人を売る」ような真似もしてきた。

 だが、その中にひとり、勇敢な男がいた。


 その男は身体を機械で覆い、いわゆる「機械化」を施していた。

 不思議に思った私は訊ねた。


「痛くないのか?」


 男は呼吸を繰り返し、笑いながら答える。


「痛いに決まっている」


 そう言い放つと、赤い瞳でこちらを覗き込んできた。


「実はな、影から生還した」


 ――私は耳を疑った。

 ありえない。そんなことが可能なのか。

 だがもし可能なら、姉を助けられるかもしれない。


 サラサ、待っていろ。私が必ず助ける。

 同じ指導者の仲間として。

 そして弟として――必ず。


 私が存在している以上、姉さんを救わねばならない。


 姉さんよ、聞こえているか?

 聞こえるなら返事をしてくれ。


 今、会いに行く。


 ――記憶に取り残される。


 あれ? 私は記憶に「DIVE」したのか。


『DIVE』――記憶に潜ること。

 鮮明な記憶を映画のように脳内に映し出し、見返すことができる。

 ただし、その間は無防備になることを心得ねばならない。

 そして、記憶を何度も追体験できるがゆえに、人々はこれを「ダイブ」と呼ぶ。


 しばらくして、男が私の首を絞めた。

 苦しい。人工筋肉による圧迫は耐えがたいほどだった。


 ダイブ中でも「玉」は使えるのか?

 考えすぎかもしれない。だが、やってみる価値はある。


「――玉」


 男の腕が、消し飛んだ。


 焦る様子が伝わってくる。

 片腕を失い、隻眼の赤い瞳だけがこちらを射抜いていた。

 その眼光は、ダイブを終えた後も脳裏に焼き付いて離れなかった。


「……なんだった。待て、どれほど時間が経過した?」


 だがここに、時間を計測する道具はない。

 太陽や月の満ち欠けで判断するしかないのか。


 ――厳しい世界だ。

 ならば、抗ってやろう。


 この終末に抗い、新しい時代を切り拓く。

 偽りの「星の民」として生きるのも、一興かもしれない。


 試す価値はある。


 星の民よ、聞こえるか。


「飛べ」


 承知した。

 私は影へと飛び込む。


 傍から見れば、イチかバチかの大勝負。

 まさに羅新嘗胆である。


 サラサよ、聞こえているか。

 これより、そちらへ向かう。


 きっと悲しむだろう。

 だが、それは幸福か?


 ――違うな。


 それは、ただの自己陶酔だ。


 構わない。

 私という人間は、いつだって本能に従って生きるものだから。






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