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北の指導者が問いかける。
「東へ行くのか」
「そうだ」私は答える。
「何を探している?」と北の指導者。
「かつて指導者であった姉を探している」そう言い残し、私は彗星のごとく飛び去った。
北の指導者は追ってこなかった。だが、やがて激しい後悔に襲われることとなる。
指先から芽が伸びていたのだ。何の植物かはわからない。だが、あのフラスコのせいだと即座に悟った。
しかし身体は軽く、速度は増すばかりだった。
この調子なら、明日には東へ辿り着けるかもしれない。
――東の指導者よ。待っていろ。私が行く。
やがて、白い摩天楼は姿を消し、眼前に青い砂漠が広がった。
なぜ青い? 最初は不気味に感じたが、よく見るとそれは砂漠ではなく、まるで海のようであった。
東は海となっていた。
ソサエティに属していた頃から、影にまつわる情報しか得られず、東が海であることなど知らなかった。
うねる波、砕ける白い泡――それらを私は目に焼きつけていた。
そのとき、背中に重い何かが圧し掛かった。
銀色の何か。
私は溺れていく。
このまま海の藻屑と消えるのか。
――それだけは御免だ。
代償はあろうが、「飛車」を応用すれば「玉」の効果を制御できるのではないか。
「玉」がエネルギーなら、「飛車」は推進の力。
私は空気を噴出させ、腕を海底に向けた。体が回転していくのがわかる。
回転の最中、銀色の人型の何かが、水と共に弾き飛ばされていった。
私は姿勢を立て直し、そのまま東へ進む。
ふと気づくと、私の身体は樹と化していた。
水を吸い込み、重くなりつつも、水面を滑るように飛んでいく。
すると、巨大な鮫が現れ、私を飲み込もうと迫った。
その目玉には、姉の顔が浮かんでいる。
「幻影に違いない」
そう思った。だが、いくら目を擦っても、その幻は消えなかった。
仕方なく、鮫に追われながら水上を飛ぶ。
私も速かったが、鮫は桁違いに巨大で、口ひとつで船を呑み込めるほどの大口を開けていた。
どうすべきか――。
前方には高く聳える岩壁が立ちはだかっていた。
びしょ濡れの体を何度も叩き、私は上空へ飛翔する。
鮫が大口を開け、側面からその口腔が迫った、その瞬間。
私は「玉」を用いて小さな噴射を起こし、辛くも鮫の牙を逃れた。
間一髪であった。




