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更紗の脈理  作者: VIKASH


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10

 



「飛車」のまま摩天楼へ突っ込んだ。爆音とともに、ガラスの破片が四方に散り、腕を切ったらしい。血が滲み、肌が焼けつくように痛んだ。

 痛み――これほどのもの、どう処せばよいのか。


 摩天楼の中は闇に包まれていた。やがて、乳母車がひとつ、こちらへ向かってくる。

 ぞっとする。

 誰かが押しているのか、それとも勝手に動いているのか。見当はつかない。だが、透明な人間が押しているわけではないことだけは確かだった。

 透明な人間など、存在するはずがない。もし存在したとしても、誰にも気づかれぬ。それは生きながらの地獄であり、心を壊すに違いない。


 そんなことを思いながら乳母車を覗き込むと――そこには姉の顔をした、不気味な赤子がいた。

 私は赤子の傍らに置かれた哺乳瓶を口に押しあて、「世も末だな」とひとり呟く。


 嫌な足音が響いた。六本足で歩いているかのような、不気味な音。

 先に蟻だと思ったが、実際には巨大な蠍が群れていた。


「玉」を使う手もあったが、代償が大きい。

 ここは「飛車」だ――そう即座に判断する。


「飛車」を用い、横へ高速移動する。机や椅子を弾き飛ばし、さらにガラスを突き破った。

 もちろん痛みはあった。だが、蠍の毒針に貫かれるよりはましだと考えた。


「探しているのだろう」


 ああ、また声が響く。

 星の民――私を惑わせる者。そうに違いない。


 だがこちらにも考えがある。

「飛車」を駆り、東へ進む。

 それでよい。誰からも文句は出まい。

 さて、東の指導者よ。現れるか、それとも私が先に辿り着くか。


「待て」


 突然、足を掴まれた。そこにいたのは大きな男――北の指導者だ。

 だが、なぜここに。私の目にはその姿が異様に映った。

 二本の角が、頭から伸びている。まるで悪魔のごとく。


「貴様、悪魔か」

「これは『角』だ」


 なるほど、特異な力か。面白い。

 ならば私もやってみせよう。「飛車」の次は「角」だ。

 まるで盤上を思い起こさせる。


 だが「玉」には及ぶまい――そう踏んでいた。


 力強い体当たりを喰らうまでは。

 吐瀉物が込み上げ、私は二本の角を押さえ込んでいた。


「やられてたまるか」

「なぜ、待たなかった」

「どういう意味だ」

「騙されていると、なぜ気づかぬ」


 人は裏切るもの。

 こうも容易く裏切られるとは――あまりに哀しい。

 ああ、無常。


 私は「飛車」を使い、北の指導者を抱えたまま急降下した。






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