#06.ポイントカード
世の中には、どうにも説明のつかない物がある。
その存在を疑う者は少なくないが、実際に手にした者は必ず口を噤む。
だから噂だけが残り、尾ひれがついて都市伝説になる。
――たとえば、例の「ポイントカード」の話がそうだ。
名前もなければ発行元もわからない。
コンビニで、居酒屋で、古本屋で。
ごく日常の買い物の最中に、唐突に店員から手渡されることがあるという。
受け取るかどうかはその場の気分次第だ。
だが、一度受け取ってしまったら、そこから逃げられない。
カードは、普通のポイントカードに見える。
マス目が並んでいて、買い物をすれば数字が増える。
ただし、それは「100円で1ポイント」などという単純な計算ではない。
買った物や金額には関係なく、数字が勝手に現れるのだ。
最初は小さい。
1とか、7とか。
翌日になるとまた増えている。
レシートには記録がない。
カードの裏を覗けば、ボールペンでなぞったような数字が勝手に浮かび上がっている。
そして妙なことに、数字はいつも「その人の身近な出来事」と符合する。
飼っていた猫が死んだ日には「1」が。
会社で上司が解雇された翌朝には「2」が。
友人が事故に遭った翌週には「7」が。
だが、それが何を意味しているのかは誰にもわからない。
ある者は「不幸の数」だと言った。
ある者は「代償の記録」だと囁いた。
中には「死までのカウントダウン」だと説明する者すらいた。
確かなのは――数字は必ず増えていくということだ。
一度、私の知人がそのカードを見せてくれた。
真っ白なカードの上に、乱雑な書き込みのように「29」と記されていた。
「昨日は28だった」と彼は言った。
「でも、何もなかったはずなんだ。いや、待て。昨日は……何をしたっけ?」
彼はそこで言葉を濁した。
妙に青ざめた顔をしていたのを覚えている。
その翌日、彼は姿を消した。
失踪か、事故か。警察は何も掴めなかった。
けれど私は知っている。
彼の財布の中から、そのカードだけが見つかり、
そこには大きく、太く、『30』と書かれていたのだ。
何を数えていたのか。
何が終わったのか。
誰も説明できない。
ただ、もしあなたがどこかの店で「こちら、新しいポイントカードです」と差し出されたら――
断ることだ。
それが、どんな数字を刻むことになるのか、誰にも分からないのだから。




