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#04.偶像の胎

その村では「御姿様」と呼ばれる存在が崇められていた。

夜ごと集会所に人々が集まり、古びたスクリーンに映る白い衣装の少女を見上げる。

映像は三十年以上前に撮られたらしい。小さな舞台で歌う姿が、ざらついた画質のまま繰り返し再生される。


歌も踊りも稚拙で、芸能として価値があるとは思えなかった。

だが村人たちは皆、陶然とした表情でそれを見つめる。

終わると一斉に拍手が起こり、深々と頭を垂れる。



私は取材のためにその光景を見ていた。


「なぜ、ただの映像にここまで熱心なのですか」


そう尋ねると、誰もが同じ答えを返した。


「御姿様は今も生きておられる。だから、夢で会えるのだ」


事実、村の若者の間では「御姿様の夢を見る」と囁かれていた。

夢の中で抱きしめられ、甘い声をかけられる。

朝になると、布団はしっとり濡れ、花びらのような繊維が散らばっている。

そして、ある者は夢を見続けた末に姿を消した。


調べを進めると、古文書に同じ名が記されていた。

「白き娘」――村の豊穣神。

毎世代、選ばれた娘を依代にし、神を降ろす。


映像の少女は、かつてその役を担った存在だったのだろう。

だが焼失や朽ち果てることなく映像が残り、今も『御姿様』として流され続けている。


村人は今も依代を必要としている。

選ばれた少女は、白い装束を纏わされ、祭りの夜、映像の前に座らされる。

映像の『御姿様』と、現実の依代とが重なった瞬間――村人たちは息を呑み、祈りを捧げる。


私はその場面を見てしまった。

スクリーンの中の少女が、笑顔のまま依代を見つめ返したのだ。

現実の少女は硬直し、やがて震えながら瞼を閉じた。


翌朝、依代の姿はなかった。

布団の上には湿った跡と、白い繊維だけが残されていた。


村人たちは静かに告げた。


「御姿様は、新たな命を宿されたのだ」



その夜、私は夢を見た。

スクリーンの少女が隣に座っていた。柔らかな手が頬に触れ、腹へと導かれる。そこには確かに胎動があった。


「これは、みんなのもの」


彼女はそう囁き、微笑んだ。


目が覚めても、その感触は消えなかった。布団は濡れ、掌に残る鼓動は、まだここにある。


調査の記録を続けるつもりだった。事実をまとめ、記事にするはずだった。

だが、今は違う。

私はあれを、あの依り代を、誰にも渡したくない。


――あれは私のものだ。手放す気など、ない。

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