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#02.鏡の向こうの天気

最初に気づいたのは、洗面所の鏡だった。

外は晴れているのに、鏡の中の空はどんよりと曇っていたのだ。


目の錯覚だろうと笑い飛ばした。

けれど、その違いは日に日に大きくなっていった。


ある朝は、こちらでは雨が降っていないのに、鏡の中では激しい雷雨が映っていた。

別の日は、こちらが吹雪でもないのに、鏡の中で雪が積もっていた。


鏡の向こうの天気は、必ず現実より一歩先を行っている。

そう気づいたのは、鏡の中にだけ虹がかかっていた翌日。

本当に、雨上がりの空に虹が出た。


つまり、鏡の中を見れば、明日の天気がわかるのだ。

便利だと思った。最初のうちは。


けれど、違和感はすぐに不安へと変わった。


ある晩、眠る前にふと鏡を覗いた。

外は穏やかな月夜。

けれど鏡の中には、黒雲が渦を巻いていた。


嵐が来るのだろう。そう思った。

だが次の日、外は快晴のままだった。


――おかしい。初めて外れた。


その夜、もう一度鏡を見た。

雷鳴。大雨。水しぶき。

鏡の向こうは、洪水のように沈んでいた。


次の日も晴れていた。

その次の日も。

ただ、鏡の中の天気だけが、日に日に荒れていった。

堤防が決壊し、人影が流されるような映像まで映るようになった。


「……これ、天気じゃない」


ふと気づく。あれは予報ではなく、別の場所の現在なのではないか、と。


その瞬間、耳元で小さく水音がした。

振り向くと、足元に水たまりが広がっていた。

ぽたり、と天井から滴り落ちる水。

家の中に、雨が降り始めていた。


慌てて顔を上げる。鏡の中では、見知らぬ街が完全に水没していた。

その水面に浮かんでいるのは、確かに自分の家の屋根だった。


鏡のこちら側にも、冷たい水がじわじわと滲み出してきている。

息が詰まる。

どちらが現実なのか、もうわからなかった。


最後に鏡を見たとき、

向こう側で水に沈んでいく自分の姿と、

こちらで鏡を覗き込む自分の姿が、重なっていた。


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