#18.なにも入らない倉庫
その倉庫は、町外れの工場跡地にあった。
外見は何の変哲もない鉄の箱だが、中に物を入れようとすると、必ず消えてしまう。
最初に噂が広まったのは、廃材を投げ込んだ作業員の証言だった。
確かに入れたはずの木材が、翌日には影も形もない。
泥棒が入ったのかと警備を強めたが、監視カメラには誰も映っていなかった。
次に試しに投げ込んだ自転車も、冷蔵庫も、いつの間にか消えていた。
倉庫の床に穴があるのではと調べても、地面はコンクリートで固められていて、下には空洞など存在しない。
ゆえに、『何も入らない倉庫』――そう呼ばれるようになった。
だが、ある若い研究者が言った。
「物が消えるなら、人を入れたらどうなるんだろう」
それは恐らく、誰もが思った疑問だっただろう。
好奇心だったのか、無謀な挑発だったのか。
彼は自ら倉庫に入ってみせると言った。
仲間たちは止めたが、彼は耳を貸さなかった。
研究者が倉庫に入ったのは、夜九時過ぎだった。
仲間たちは扉を閉め、腕時計で時間を測った
。数分後、扉を開けたが、中は空っぽだった。
研究者の姿はどこにもない。衣服も靴も、一切が残されていなかった。
警察の捜査で分かったのは、ただひとつ。
倉庫内部には通常の物質反応が起こらないという事実だ。
投げ込んだ金属は原子レベルで痕跡を残さず、液体も蒸発の痕がない。エネルギー保存則に違反するはずなのに、外部への漏出は検知されなかった。
物理学者の一人が言った。
「もしかしたら、あの倉庫は『記録』を消しているんじゃないか。物質を消失させるわけじゃなく、存在したという履歴そのものを」
つまり、倉庫に入れたものは、最初から存在しなかったことになる、という仮説だ。
だが、それなら説明できないことが一つあった。
研究者のパソコンに残された実験メモだ。彼は確かに「倉庫に入ってみる」と記していた。
存在が消えるなら、その記録も消えるはずだ。
なのに、消えなかった。
同僚は震えながら推測した。
「……人間の意識だけは、『消しきれない』のかもしれない」
以来、夜な夜な倉庫に近づく者は、薄暗い内部から声を聞いたという。
『ここにいる。ここにいる。記録から消されても、思考だけが残っている』
科学では説明できない。だが、否定もできなかった。
倉庫は今も、町外れにひっそりと立ち続けている。




