#16.血みどろ放電現象
その現象が起きるのは、街の電気が一斉に落ちた夜だった。
停電の闇の中で、誰かの体から火花が散る。
鮮やかな赤に混じって、まるで血のように滴る光。
人はそれに恐ろしい名をつけて呼んだ――「血みどろ放電現象」と。
僕の弟が、それを持っていた。
最初に発覚したのは小学生のとき。
体育館でバスケをしていた弟が、ボールを掴んだ瞬間に閃光が走り、リングが焦げ付いた。
誰も怪我はしなかったが、弟の掌には血のような痕が滲んでいた。
それ以来、弟はボールを持つことも、人に触れることも、避けるようになった。
でも、弟は優しいやつだった。
触れられないかわりに、言葉をよく使った。
落ち込む同級生を励ましたり、クラス全員にノートを回して「いいところ」を書き合う企画を始めたり。
触れられなくても届くものがあるんだ、と、ぎこちない笑顔で言っていた。
高校に入ってから、弟の『発作』は強まった。
停電の夜に外を歩くだけで、街灯が弾けて倒れた。
人を傷つけないようにと、ますます人を遠ざけた。
僕は悔しかった。
どうしてあんな優しいやつが孤独を選ばなきゃならないのか。
――そして、あの日が来た。
突然の大停電。都市全域が暗闇に沈み、地下鉄に閉じ込められた人たちがパニックになっていた。
そこに、弟が現れた。
闇の中で、赤い火花が爆ぜる。
誰もが悲鳴をあげた。でも、弟は笑っていた。
「大丈夫だよ」
いつもの、あのぎこちない笑顔で。
弟の放電は、レールに走り、車両を照らし、扉を開けた。停電で止まった街を、弟の血みどろの光が導いた。
人々は出口に向かって走った。恐怖よりも先に、安堵の声が上がった。
あとで知った。
弟はそのとき、自分の体をすっかり燃やし尽くしたのだと。
だけど、不思議なことに、誰も『現象』を怪物と呼ばなくなった。
血みどろ放電現象は――人を傷つけるものじゃなく、最後に街を守った光として、語り継がれることになった。
僕はいまでも夜空を見上げるたびに思い出す。
弟の光は、たしかに残っているのだ、と。




