#15.きらきら超特急
「きらきら超特急にご乗車ありがとうございます」
アナウンスがそう言った瞬間、僕の耳の奥で爆竹が鳴った。
実際に爆竹が鳴ったわけじゃない。鳴ったら困る。だってここは電車だ。火気厳禁。
なのに僕の脳内では盛大に鳴った。つまりこれは幻聴?
いや違う、脳が勝手に実況しているだけ。僕の脳はいつも仕事熱心だ。やめてほしい。
「君、初乗車でしょ」
隣の女がいきなり話しかけてきた。僕は知らない人に話しかけられると寿命が縮む。寿命が縮むと未来が短くなる。未来が短くなると選択肢が減る。選択肢が減ると自由が狭まる。自由が狭まると僕は死ぬ。要するに彼女は僕を殺そうとしている。殺人未遂。
「違います」
「なにが」
「全部です」
彼女は笑った。笑顔はきらきらしていた。きらきら超特急よりもきらきらしていた。だから名前負けしていた。電車の方が拗ねて脱線しないか心配になる。
「きらきら超特急はね、降りる時に必ず一つ落としていくの」
「財布とか?」
「もっと大事なもの」
「クレカ?」
「ちがう」
「スマホ?」
「ちがう」
「Suica?」
「……まあ近い」
近いのかよ。ICカードを落とすくらいで何をそんなに大事ぶるんだ。
落としたら駅員に言えばいい。
いや、でもここは『きらきら超特急』。
普通の電車じゃない。忘れ物は必ず失くし物になる。失くし物は必ず思い出になる。思い出は必ず後悔になる。後悔は必ず光る。きらきらと。
「私は名前を落とした」
女はさらりと言った。
「だから今は名無し。名無しの権兵衛子」
「呼び名があるなら名前があると思うんだけど」
「そういう揚げ足を取るから君はまだ降りられない」
その瞬間、車内アナウンスが割り込んできた。
『まもなく、終点。未来をお持ちの方はご注意ください』
未来をお持ちの方。何その物騒な言い回し。持ち込み禁止の爆発物みたいに言うな。未来は爆発物じゃない。
……いや、爆発物かもしれない。爆発するから未来。破裂するから明日。明日なんて常に爆死予告だ。
「さあ、君はなにを置いていくの?」
女が迫ってくる。きらきらと。圧倒的に。もう逃げ場がない。
僕は観念した。
「……僕は、『僕』を置いていく」
そう答えた瞬間、電車が急停車した。
僕は僕を座席に残して、空っぽのままホームに立っていた。
振り返ると、座席には『僕』がまだ座っていた。
笑って、手を振っていた。
ドアが閉まる。
きらきら超特急は、僕を乗せたまま走り去った。




