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#12.ベランダの影

マンションの八階に引っ越してきて、一週間ほど経ったころだった。


夜、リビングで書類をまとめていると、窓の外に妙なものが見えた。

ベランダの隅――壁とガラス戸のあいだに、黒い影が落ちている。


外灯の位置から考えれば、あそこに影ができるはずはない。

気になって窓を開けると、風が吹き込み、カーテンが揺れた。

だがベランダはきれいなものだった。

鉢植えも置いていない。


影は、なかった。


翌日も同じ時刻に、その影は現れた。

形は曖昧で、人の背丈ほどの長さ。

濃淡が妙に生々しく、ただの光の加減ではないと直感した。


妻に話すと、あっさりと笑われた。


「疲れてるんじゃない?」


だが、その夜から妻が寝室に立てこもるようになった。

理由を聞いても「何でもない」と言うばかり。


三日目。

仕事から帰ると、妻がカーテンを閉め切り、窓に目張りまでしていた。

リビングに影は見えなかった。

だが妙なことに、ベランダに出てみると――視界の端で、常に『何か』が追従してくる。

振り返ってもそこには何もないのに。


その夜、妻がぽつりと呟いた。


「……あの影、見えてるのはあなただけじゃない」


問いただすと、妻は唇を噛んで首を振った。


「うまく説明できない。ただ、影は……家族の形をしてる」


次の日、出勤前にカーテンを開けた。

ベランダの影は、昨日より濃く、大きくなっていた。

輪郭は二つ。まるで人が並んで立っているように。


その晩、妻は姿を消した。

外出した形跡はない。

ベランダに出ると、影は三つになっていた。


私は必死に叫んだ。


「お前か! 妻を返せ!」


だが返ってきたのは静寂だけだった。


翌朝、ベランダの影は消えていた。

代わりにリビングの床に、黒い染みが残っていた。

それは、寝転ぶ人間の形に見えた。

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